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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
50/81

50 予知の格差が酷すぎる

 呆然として言葉を失ってる私を殿下は見下ろす。

 なんとも言えないような表情で。


 そうして改めてベルザ様から聞き出した予知夢の内容を教えてくれた。


「ベルザ嬢の夢の中のライラはな。


 プラチナブロンドに水色の目の男が好きだった。

 ある時、皇宮のお茶会を辞退。

 だがその数ヶ月後には復帰。

 数年後、いつものように皇宮で開かれたお茶会で、

 毒入りのお茶を飲んで死んでしまった。

 犯人は捕まらず、事件は迷宮入り。


 という事らしい」


 私は小首を傾げる。


「えっと。それだけですか?」


「最初に聞いた時はもっと長かったぞ? 聞いてる途中でベルザ嬢の主観や推論がかなり入り交じってると感じたから、その辺を質問攻めにしてベルザ嬢個人の見解らしき部分を削ぎ落とした結果、確実な骨組み部分を抜き出したらこうだったってわけだ」


「迷宮入りかー。なんだか…かえってリアルですね」


 物語ならば起承転結がある。どれだけ下手くそな物語だろうと、少なくとも端緒と結果はある。コーデリア様の駄物語にすらソレはあった。殺人事件がテーマならば、少なくとも犯人は読者には明されるか、少なくとも示唆はされるだろう。だけどベルザ様の見た夢の内容がソレでは"物語"になりえないのでは? 少なくともお話としてつまらない。でも実際のところ、現実なんて往々にしてそういう物で。


 駄目じゃん。

 私、毒殺されちゃう感じじゃん。


 しかし盲点。

 本当に盲点。


 私が誰か―――主にギーズゴオル殿下―――を殺す可能性は考えた事あったけど、私自身が死刑以外で殺される可能性は考えた事なかったわ。


 ああ、とりあえず。

 苦しむタイプの毒だったら嫌だなぁ…。


 殿下は首を捻る。


「実際の所、夢の中でお前が惚れてるのはレジレンスだとは決まってねぇんだ。あくまでプラチナブロンドに水色の瞳の男が好きだと。…ああ、そういえば」

「何か?」

「エリシャ・サウザート。あいつも水色の瞳だ」

「エリシャ・サウザート?」


 聞いた事あるお名前のような、そうでもないような。


「おーい、忘れてやがんのか…」

「え、私の関係者です?」

「3年くらい前にお前に婚約の打診してきた公爵令息」


 言われてようやく思い出す。


「ああ、はい。そんな方いましたね」


 外見が派手で中身が地味という―――。

 確か殿下が金髪碧眼って仰っていたっけ。


「だが、けっこう淡い色合いの金髪だから、人によってはプラチナブロンドと表現するかもしれねぇ。―――あいつは無関係そうか?」

「3年前に婚約の打診をお断りして以降は特にどうこうないですし、未だにお顔を拝見した事ないというか、存在ごと綺麗に忘れてましたし」


「お前って薄情だよなぁ…」

「そんなぁ」


 殿下以外視界に入ってないだけですしぃ。


 呆れたように私を見下ろす殿下は、乱れて垂れ下がる長い黒髪を煩そうに手櫛で梳いて背後に流す。殿下、その所作、美しいです。―――なんて見蕩れている場合じゃないけど、見蕩れていると現実逃避出来そうで。


「ライラ。お前、毒死は嫌だろ?」


「勿論ヤです」

「…その割にはさっきから意外と平気な顔してねぇ?」


「驚き過ぎて実感が湧かないと申しましょうか、表情筋がちょっと動かない感じというか」

「まぁ、そうかもな…」


 殿下はしばし考え込んだ後、


「俺、次の茶会前にちょっとベルザ嬢について調べてみるわ」


 そう仰る。


「調べる?」

「さっき予知夢の可能性が高いとは言ったが、実はな。―――いまいち腑に落ちてない」

「と申しますと?」

「未来予知なんてものは神の領域だろ。神力持ちでも聖女か聖人クラスじゃねぇとそんな事出来ねぇ筈だ」


「殿下も出来ないんですか?」


「出来てたまるか。出来るんならとっくに聖人認定受けてぶいぶい言わせてんよ。

 一方のベルザ嬢には神力どころか魔力もねぇ。お前みてぇな霊力もねぇ。そんな凡人がなんで予知なんか出来るんだ? 意味がわからねぇ」


「ひょっとしてベルザ様って、神力は無くても何か神の啓示を受けるだけの徳がお有りとか…?」

「ベルザ嬢の背後に徳の高そうな幽霊が憑いてる感じでもあんのか?」

「それは無いですけど…」


 エナゴーテイク公爵家に仇なそうと目論んでる幽霊ならダクネス・グレンダーさんがいるけど、それ以外の心当たりは無い。


 殿下はしばらくして渋面のまま皇宮へ戻っていかれた。

 ベルザ様について殿下なりに調べ、何か判ったらすぐ来ると仰って下さったので嬉しかった。






 そうして次に殿下が私の部屋に来て下さったのは10日ほど経った頃。

 事前にいつもの虹色の伝令鳥―――最近のは鷲くらいのサイズ―――を飛ばしてきて来訪の意を伝えてきた殿下は、数分後、いつものように虹色の光とともに私の部屋のバルコニーに降り立った。


 だけど美しいお顔は酷く不快そうで。


 そうして開口一番仰ったのは―――。


「ライラ、非常に残念なお知らせだ」


 渋面を隠しもせずに。


 使用人にお茶とお菓子の用意をお願いしようとしたけれど、殿下は「それどころじゃねぇだろ」そう仰って私の両肩を揺する。


「しばらくベルザ嬢について調べてみたんだがな」

「はい」

「正直、驚いた。ベルザ嬢はガキの頃に何件かの"予知"をして、いくつか的中させてる」

「え」

「でな。ベルザ嬢の最初の予知は()しくも俺の祖父さんの崩御だったよ」

「と言うと、307代皇帝ラグネス11世陛下…」


「当時7歳だったベルザ嬢は、ある日、父親のエナゴーテイク公爵に言ったんだとよ。『もうすぐ皇帝陛下が亡くなる』ってな。

 その頃、祖父さんはまだピンピンしてたし、公爵は慌てて娘の口を塞ぎ、使用人達に箝口令を敷いたが、人の口に戸は立てられぬのたとえどおりに少しづつ漏れた上、2ヶ月後に祖父さんがマジでコロッと逝っちまったってわけだ。

 俺は知らなかったんだが、当時7歳児のベルザ嬢は神殿へ内々に喚ばれ、色々訊かれたらしいぞ」


 ベルザ嬢はその際、いくつかの自然災害についても予知をしたのだという。

 

「俺らがガキの頃、ポンペール地方のボスヴィア山噴火とか、ケルタック地方の竜巻被害とか、コーチカガウアー地方の洪水とかあったろ」

「え、ベルザ様、それの予知してたんですか?」

「ああ。皇宮に呼ばれた時にその予知をして、いずれも3年以内に実際に起こったって訳だ」

「えー、ひょっとしてベルザ様、聖女なのでは…」


 そう言うと殿下はものすごく、

 それはもう、ものすごーく嫌なお顔をなさる。


 殿下曰く、ベルザ様は他にも何件かの予知をしたけれど、外れたものもいくつかあるのだという。しかも予知をしたのは7歳当時の短期間だけ。

 にも関わらず、数百年ぶりの聖女認定に発展しかけたそうだけれど、二人の大神官、五人の神官長らがそれぞれベルザ様と面談を行い、欠片の神力も認められないという事で保留になり、そのまま沙汰止みになってしまったのだという。


「だから聖女じゃねぇよ」

「でも何件かの聖女並の予知をしたのは確かという…」

「気に入らねぇ」

「殿下、事実は受け入れなくては。ていうかなんで気に入らないんですか」

「……勘?」


 そう言ってから私の頬を(つね)る。


「痛いです、殿下」

「俺の魂的な何かが違うって叫んでるんだよ、クッソ」

「殿下、我が儘ぁ」

「お前は呑気すぎる。当事者意識をしっかりもて、馬鹿」


 怜悧な目の奥に私への心配がほの見える。


「それにな、俺の勘がどうってだけじゃなく、他にもなんか色々と腑に落ちねぇし。だってやっぱりおかしいだろ」

「と、申しますと?」

「予知内容の格差が過ぎる」

「格差とは…?」

「皇帝崩御と帝国内の自然災害はどちらも帝国史年表に載るような案件だし、なるほど聖女が予知しても納得だよ。

 だがお前の件はどうなんだよ。たかだか一貴族令嬢が毒死するが如きちっせぇ事件をわざわざ唯一神(アースタート)が啓示したり、聖女サマがわざわざ予知したりっておかしいだろ?

 違和感ハンパねぇ。ライラが一体どこの何様なんだよって話だ」


「いや、えっと、ええ?」


 一体どこから撃たれてんのかわかんない言いがかりをつけられてるぅ?

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