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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
48/81

48 愚者の襲撃

「え、表門にですか?」

「ええ。あんな所で襲撃なんてってビックリしたわ」


 皇宮の表門は人の出入りが激しい分、沢山の兵士が詰めていて、24時間警戒態勢が取られている。その上、襲撃が起きたのは魔術師のエリートである公人魔術師が要人や貴族の送迎用に普段から多めに待機している時間帯でもあった。

 皇宮を襲撃したい勢力があるにしても、あまりにも計画性皆無ではないか。


 だけど実際に襲撃は起きたわけだ。


 彼ら―――100人程度の襲撃犯は、矢を(つが)えて放ったという。幸い、放たれる直前に公人魔術師達が一瞬で防御態勢をとった。


 だけどカルケイビタンさんは出来なかった。


 放たれた無数の矢は防御魔法でほとんど全て弾かれたけど、カルケイビタンさんのいた辺りは防御が手薄になっていて、降ってきた矢の半分程度しか弾かれなかった。

 その代り、殿下が咄嗟に眼帯を外して、目から虹色の光を発し、飛んできた矢をまとめて粉砕したのだとか。


 もしも殿下がその場にいなかったら、カルケイビタンさん、そして傍にいたベルザ様は、間違いなく矢に射貫かれていたとの事。


 さすが殿下、格好いいー なーんて思っていたんだけど。


「…殿下の私人魔術師が我家の位置を把握していたら、殿下はすでにあの場にはおられなかったろうし。そう想像するとゾッとするわ」


 ベルザ様は小刻みに震えている。


「今私がここで生きているのはほんのタイミングの差で、あの時あの場に殿下がお留まり下さっていたから私は…」


 ん?


 これ、ベルザ様の中の殿下の株が上がってる感じ?

 吊り橋効果的な?

 ミルクレア様の二の舞?

 いやまさか、そんな二番煎じな。


 私は下唇を噛む。


 それは駄目。


 阻止しないとね!


「大丈夫ですよ、ベルザ様。カルケイビタンさんは移動魔術が公人魔術師顔負け、あるいはそれ以上なんです。もしもカルケイビタンさんがエナゴーテイク公爵家の位置を把握していたら、ノー準備でとっくにあの場から出発していたと思いますし! つまりベルザ様はそもそも襲撃に遭遇しなくて済んだ筈です。ええ、殿下がいなくても大丈夫でした!」


 元気づけるようにそう言うと、ベルザ様は目をぱちくりさせる。私はあくまで親切ヅラで、ダメ押しとばかりベルザ様をぎゅうっと抱きしめ、背中を軽く叩いて安心させた。


「そ、そう? そうなのね」


 青ざめていた顔に少し色が戻る。

 憑物が落ちたような顔。


 ふっふっふっ、殿下へのときめきフラグの()し折り、成功?

 我ながら(こす)っ辛いなと思ったけど、恋する女は自己中だし仕方ないネ。


「だけど私、ビックリしてしまって。私目がけて矢が飛んできたのよ。あの時は私、死ぬんだって思ったわ。本当に怖くて。―――それで尻餅をついてしまったのよ。ドレスが汚れているのはそのせい。ごめんなさいね」


「いいえ、お気になさらず。殿下が"汚れ無効化マーベラス防御"でベッドが汚れないようにしてくださったし」


「汚れ無効化マーベラス防御… 長いお名前ね」


 ベルザ様はくすっと笑う。

 ようやく少し落ち着いて来た感じ?


 よし、殿下の株を更に一段下げておこう。


「他にも指先ミラクル光線とか目ン玉ウルトラ光線とか神力ファビュラス地獄耳とか。ご名称、もう少しどうにかなりませんかって何度か進言してるんですけど、殿下はどうにもそちらのセンスには恵まれていないみたい」


 私がそう軽口を叩くと、ベルザ様はようやく本心から人心地がついたような笑顔になった。


「お二人は本当にお仲がよろしいのね」


 そう言って微笑む。


 その後、我家の私人魔術師ミグリットさんが緑色に光る雀サイズの伝令鳥を飛ばして公爵家に一報を入れた。それから程なくエナゴーテイク公爵家の私人魔術師が迎えに来て、ベルザ様は無事お帰りになった。






 そうして殿下は改めて私の部屋に戻って来て仰る。


「ベルザ嬢から詳しい話は聞いたか?」

「だいたいの流れは」


 すると殿下が改めて詳細を教えてくれた。


 襲撃犯達は恐らく移動魔術で表門前に出現したらしい。


「え? ベルザ様、襲撃犯は100人くらいいたって仰ってましたが…。100人同時に移動魔術を? そんな事、可能なんです?」

「荷物運搬が得意な魔術師が複数人いればあるいはな。ただし、"移動(乗り)心地"は保証出来ねぇと思うが…」


 襲撃犯達は表門の真ん前に出し抜けに出現してきた直後、まさに移動(乗り)心地のせいで平衡感覚に支障でも起きたのか、しばらくその場でふらついていたそうだ。

 そのせいもあり、表門の衛兵達は虚を突かれて反応が遅れ、ふらつく彼らを注視しつつも、咄嗟の判断は出来ずにいた。

 殿下にした所で、襲撃犯達の姿は位置的に遠くて、なーんか遠くがザワついてるなぁくらいの認識だったとか。


 やがて立ち直った襲撃犯が矢を放った事で戦闘状態へ。

 殿下が仰るには、襲撃犯達の内、その場で殺されたのは全体の6割。その内の4分の1程度は殿下の目ン玉ウルトラ光線がミンチにしたという。

 生き残りはあっと言う間に一網打尽にされ、幹部らしき者達は即座に自害。残された者達は寄せ集めのゴロツキで、カネで雇われて参加しただけで、今回の襲撃の目的や段取りなど、何も知らされてなかったという。


 勃発からものの15分ほどで終わった襲撃事件。

 愚かとしか言いようのない襲撃事件。


 一体どんな計画だったんだろうか。


 いやそもそも計画があったのか?

 そう誰もが訝る程の杜撰さで。


 襲撃犯達は、表門に出現する予定ではなかったのでは?

 襲撃犯達にとっても予想外のアクシデントがあったのでは?


 現場ではそう囁く声もあったという。


 一方で、この襲撃は皇宮側を油断させる為の捨て身の攪乱(かくらん)作戦で、第二陣があるのではないか等、現在皇宮では騒然となっているらしい。


「まぁそれはいいとして、カルケイビタンがえらくしょげかえってな」


 殿下はボソッと呟く。


「やはり自分だけ的確な防御態勢を取れなかった事を気に病んでるとか…でしょうか」


「まぁ、そうなんだろうな」

「解雇したりはしませんよね?」


 幽霊狩りの為に紺碧宮に通っていた3年間、カルケイビタンさんにはお世話になったし、それなりに情が湧いてるのよね。


「しねぇよ。あいつ、病気の妹の為に必死こいて働いてるんだぜ? 健気だろ」

「妹さんがいたんだ」


 知らなかった。


「俺はあいつが公人魔術師試験に落ちたのを知った上で雇ってんだし、あいつには移動魔術のクオリティしか求めてねぇ。もし本当に気に病んでるとしたら、その辺きっちり言い置いてやんねぇとな」


「移動魔術といえば」


 唐突に思い出す。


 殿下はなんで紺碧宮に行く時と表門に行く時、ベルザ様を瞬間移動して差し上げたんですか? 襲撃を受けた後、表門から我家へ…というのはまぁ状況的に仕方ないとは思います。が、最初の二回はなんでですー? 私にはやってくれた事ないですよねぇ? なーんでそんな大サービスをベルザ様にぃ? それって不公平じゃないですかぁ? 私ってとことん殿下にとっては"女友達"でしかないんですかー? ていうか、紺碧宮でベルザ様とどんな話をしたんですぅ?


 なーーんてね。


 いやらしーく訊けるものなら訊きたいけど。


 殿下に私への気持ちがないなら言うだけ無駄だし、不興を買うだけよね。そんな事で殿下への殺意が濃くなるのも嫌だしな。


 ああ今この瞬間、

 殿下は未だ独身宣言を撤回していないという事実に

 感謝せずにはいられない。

 今後はどうなるかなんてわからないけど、

 たった今のこの瞬間、確かに殿下には"お相手"はいない。

 まだいない。


 それだけが私の今現在の幸せで。

 だから将来が怖かった。


 時間よ、止まってしまえ。

 たった今、

 この部屋の中で二人きりのまま。


 なぁんて乙女チックな事を考えてたら、


「ライラ」


 殿下が私の名前を呼ぶ。

 やけに真摯な声音だ。


「はい」


 殿下の目もかなり真剣で、軽い世間話をするという雰囲気でもなかった。


「今日の茶会でお前らの会話を聴いてたんだが」

「はい?」


「お前とベルザ嬢の会話を聴いてた」

「どうやって。殿下、けっこう遠いところにいましたよね? ハッ! まさか…」


 私はゴクリと唾を飲み込む。


「殿下、とうとうお耳も覚醒を……?」


「いや、してねぇ」

「じゃあなんで」


「2年前にお前の耳朶につけてやった神紋な。あれ盗聴みたいな事が出来っから」

「はぁ!?」


 愕然とした。


 私は紺碧宮での殿下とベルザ様の会話の内容、めちゃくちゃ興味津々だったのに教えてもらえなくて、でもそれは仕方ない事よねーって潔く諦めたのよ?


 それをこの方ときたら何をしれっと人の話を盗聴―――ですと?

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