表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
47/81

47 ギーズゴオル殿下と海賊令嬢

 殿下はベルザ様に「話がしたい、今から少し時間をくれないか」と仰り、お断りなど出来る立場でもないベルザ様は当然のように承諾なさる。

 殿下は私にはおざなりに「またな」と声をかけ、そのままベルザ様を伴って、お茶会会場から出て行ってしまわれた。

 ベルザ様は殿下の後ろをついて歩きつつ、一度だけ私を振り返り、「ごめんなさいね」と口パクで伝えてくれたけど、それを見て頭をブン殴られた気分になったわ。


 理性ではわかってるのよ。


 殿下のベルザ様へのお声がけの理由は、

 少なくとも今の段階ではきっと色恋ではない筈。

 きっと後で訊けば殿下は答えて下さるだろうし、

 「なぁんだ、そういう事ですか」って、

 立ちどころに納得のいく理由がある筈。


 そのくらいの事はわかるのよ?

 だって殿下と私の仲だし?

 

 でもこれ、思いっ切り強がり。


「……帰ろ」


 私は多分、この世の終わりみたいな顔してたと思う。

 だってミルクレア様も同じ表情してたもの。






 帰宅するなり自室のベッドに仰臥。


 心を平静に保とうとしても、どうしても殿下とベルザ様の事を考えてしまうので、ベルザ様の"夢"について考える事で気を紛らせようとした―――けど、無理だった。


 殿下がどういう意図でベルザ様を誘ったのかは不明だけど、その理由に色恋は無くとも、今回を切っ掛けにお二人が意気投合しちゃったりして?

 いつの間にかベルザ様は、アイリビィ様や私よりもずっとずっと殿下と親しくなっちゃって、ある日、独身宣言はどこへいったやら、お二人の婚約が発表されちゃったりしたら―――。


 婚約。


 年齢的に、大して間を置かずにそうなってもおかしくないのよね。


 ああ、胃が痛い。


 ふいにリグナスの顔が浮かんだ。


 もしもここにリグナス限定召喚スクロールがあったら、そして私に魔力があったら―――喚んじゃいそう。そして何かろくでもない事を願ってしまいかねないわ。


 そうね、


 例えば。


 ギーズゴオル殿下を独り占めする方法ない? とかどうかな。


 知り合いサービスって事で惚れ薬とか無料(タダ)でくれないかしら。殿下とベルザ様がどうにかなる前に、殿下に一服盛って、私との既成事実を作っちゃえばあるいは―――。


 ああ、だけど。


 私が殿下に自主的に選ばれるのでないなら要らないか。


 じゃあ、殿下がベルザ様を好きにならないように出来ない?―――とかはどうかしら。いえいえもういっその事、殿下が女に一切興味無くなるように出来ないかな。いいえ、独身主義を完遂するようにってのの方が手っ取り早い?


 それもこれも駄目だったら―――殿下の死を願う?


 なるべく苦しまないように、

 眠るように。


 悪魔に殺されるのなら、きっとなんの証拠も残らないわよね。

 うちの家族に迷惑を掛けなくて済むわよね。


(でも、人の命を奪うとかだと、さすがに魂をかけないと駄目なのかな)


 でも心中みたいでちょっと良くない?

 まぁ、無理心中だけど。

 勿論、あくまで妄想なんだけど。

 あはは、私ったら、割とマジモードで妄想しちゃったわ。


 だけど、


「おーい、リグナス」


 ものは試しに呟いてみた。


 ただ名前を呼ぶだけで喚び出せるならば世話はないし、やっぱりリグナスは現われる気配は無い。


「ちぇっ。つまんない」


 召喚スクロールも無いんだし、当たり前ではあるんだけど。


 昔、リグナスが傍にいた頃、さんざん粗略に扱っておいて、心が弱ると旧交に(すが)ろうなんてね。調子良すぎだわ、私。


 ますます落ち込んできて、私は寝具の上掛けを気分のまま乱暴に蹴っ飛ばし、どうしようかなと天井を見上げる。


 丁度その時だった。


 バルコニーの扉がバタンと開き、

 空間がぶわりと揺らぎ、虹色に光ったの。




(まさか…)




 慌ててベッドから飛び起きてバルコニーを覗く。

 するとそこにはギーズゴオル殿下がいらっしゃった。


 15歳の頃から常に着けている黒い眼帯は何故だか外されている。殿下の両目を見るのは久しぶりで見蕩(みと)れかけたけど―――


 でも殿下は単身ではなかった。

 殿下はベルザ様を姫抱きした状態でバルコニーに立っている。


「ライラ、いきなり押しかけて悪ぃな」


 ベルザ様は私の顔を見ると、


「ライラ様、突然申し訳ございません…」


 顔を青ざめさせている。


「これは一体……?」


 神力での瞬間移動でおいでになった事は判る。わかんないのは何でベルザ様を伴っていて、お姫様抱っこなんてしてらっしゃるのかなぁって点だけど。


 でも殿下の右目を見てすぐ察した。


 眼帯の外された殿下の右の瞳の中の神紋はかなり強めに浮き上がっていたし、ベルザ様のドレスはけっこう汚れていたんだもの。






「何か事件でも起きました?」

「起きたといえば起きた」


 そう仰いながら殿下はベルザ様を床に下ろす。

 そしてベッドをチラリと見る。


 意図を察して、


「ベルザ様、こちらへどうぞ」


 私がベルザ様の手を取ってベッドに導こうとすると、殿下は手の平から虹色の光を放った。その光は私のベッドの表面を被う。


「これで3時間は汚れずに済むだろ」


 そう仰ったので私は心置きなくベルザ様に腰掛けてもらった。


「侯爵かイライゼルは在宅か?」

「はい、両名在宅しております」

「そうか」


 殿下は私の部屋からさっさと出て行く。


 多分エナゴーテイク公爵家への伝達の指示を出しに行ったんだろうけど―――みんなビックリするだろうなぁ。殿下がいきなり城内にいるんだものね。


 ベルザ様は少し震えている。


 お二人がお茶会から抜けた後、私もすぐに帰宅したけど、その時はまだ昼下がり頃だった。今はもう夕刻に近い頃で、この数時間の間に一体何があったんだろうか。


「皇宮の方で何かあったんですか?」


 問うとベルザ様は唇を震わせる。


「矢が…魔術師が…殿下が…表門で」


 混乱しているようで、私はひとまずベルザ様の背中を撫で、落ち着かせる。


「順番に話してくださいな」

「順番に…」


「えっと、そうですね。…今日、ギーズゴオル殿下とベルザ様のお二人でお茶会会場を抜けたじゃないですか。その辺りから始めてください」


 ある意味私が一番知りたい事も同時に知る事が出来るし、私、あったまイーとか考えつつ親切ヅラで促す。ベルザ様は私のドス汚い根性に気付いた様子なく小さく肯くと、辿々(たどたど)しくも説明をしてくれた。


「お茶会会場から出てすぐ、殿下に手を取られたのだけど、次の瞬間、視界が虹色に染まったかと思ったら、壮麗な宮の前に立っていたの」


 そう聞いた途端、私の口の端が引き攣る。


 私は殿下の神力で瞬間移動をしてもらった事はない。

 なのにベルザ様は瞬間移動してもらったのね。


 それに、ベルザ様。


(…紺碧宮に招かれたのね)


 私はぎゅうっと手を握った。


 殿下の住まいである紺碧宮に足を踏み入れた"女友達"はこの私と、ごく小さい頃のアイリビィ様くらいの筈。傍目にはリグナスの魔力で複数人の女子同士で紺碧宮へ訪れていたように見えていたにせよ、事実としては私とアイリビィ様だけだったのに。


 だけどベルザ様は眉を下げる。


「正直、それはちょっと…と思ったのよ」


 でしょうね。私すら最早紺碧宮に単身で喚ばれる事はなくなったのだもの。現在婚約適齢期17歳のベルザ様ただお一人を宮へ招くとなると、周囲は軽くは受け止めなくなるわけで。


 だけどベルザ様は仰る。


「そうしたらね。目くらましをかけるから気にするなって仰って、また虹色の光を」

「…それは良かったですね」


 ベルザ様はギーズゴオル殿下への興味はない筈だし、変な噂が立つのはそりゃあお困りになるだろうし。


 私はようやくホッとして、少し頭が冷えたわ。


 それにしても目くらましか。2年前は数分しか保たないとか仰ってたような。たった2年でずいぶんと延びたのね。


「紺碧宮でどんなお話をなさったの?」

「ライラ様、それは言えないわ」


 確かに誰かとの会話内容を特段の必要もなく人に話すのは無作法だろう。

 これは仕方ない。


 ベルザ様はお話を続ける。


「殿下の御用が終わって紺碧宮を辞去する時、殿下がまた瞬間移動で表門まで送ってくださったわ。表門からは殿下の私人魔術師が自宅へ送って下さる事になったのだけど…」


 きっとカルケイビタンさんね。


「殿下が魔術師に我家の城の所在地を説明している時にね。―――表門が襲撃を受けたのよ」


 思い出したのか、ベルザ様は一層顔を青ざめさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ