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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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46 海賊令嬢の見た予知夢

 ベルザ様とはかなり仲良くさせてもらってるけど。

 実は未だに例の―――ライラ・サーレンシスの本命はレジレンス殿下説―――を匂わせてくるのよね。まぁでも今では冗談半分で、だけど。

 今日はレジレンス殿下とアイリビィ様の婚約発表後、皇宮での初のお茶会だから、またからかわれるのかなぁと内心気構えていたりして。


 そう警戒していたら、


「平気そうねぇ」


 なんて仰る。


 平気? 平気って何が? 


 少し考えて、ああそういう事かと合点がいった。レジレンス殿下がアイリビィ様と婚約してしまったけど、平気? ―――そう訊いてらっしゃるわけね。


「ベルザ様。ていうか、"エナゴーテイク"様ったら」


 私が少し(おど)けた風に、だけど他人行儀に呼ぶと、ベルザ様は苦笑する。


「ふふ、ごめんなさい。昔、本当に"そう"思い込んでいたからつい。でもどう見てもあなたがお好きなのってあちらの方だものね」


 そうして遠くに見えるギーズゴオル殿下を見やる。


 判って下さってるのなら良いのだけど。ベルザ様なりに思い込むに到った筋立てがお有りなのかもしれないけど、それでもその思考の筋立ての程を(うかが)えない身としては、ベルザ様が思考の飛躍した変人に見えてしまうのよね。

 まぁ、殿下はアイリビィ様をお好きな筈と決めつけていた私も人の事は言えないのだけど。


 ベルザ様はお茶を飲み、


「今だから言うのだけれど」


 カップを受け皿に戻す。


「昔ね、ライラ様の予知夢を見たの。―――いいえ、ただの夢ね。そのただの夢を、事もあろうに予知夢だと思ってしまっていたの」


 そう仰った。


「予知夢?」

「ええ。あ、でも話半分に聞いてね」


 予知夢。


 かつて長年見続けた悪夢の事を思い出す。

 未来の記憶だと思っていた時期もあったけど、

 結局ただの夢に過ぎなかったあの悪夢―――。


 少し興味が湧いて、先を促す。


「どんな内容か聞かせてもらっても良いですか?」

「気が引けるけど。怒らないでね? 夢で見ただけの事だから」


 そう言い置いてから、ベルザ様は語り出した。


「夢の中のライラ様はね。

 ある男性の事がとてもとても大好きなのよ。

 その男性はプラチナブロンドに水色の瞳をしているの。

 だけどその男性が選んだのは別の女性なの。

 ライラ様はとても悲しんでいたわ」


 ベルザ様は申し訳無さそうに笑う。


「プラチナブロンドに水色の瞳といえばレジレンス殿下でしょう? それで私はこれは予知夢なんだって思い込んでしまったの。ライラ様はきっとレジレンス殿下の事を愛してらっしゃるに違いないって、そう思い込んでしまったのよ。

 私ったらライラ様に色々と馬鹿な事を言ってしまったわよね。恥ずかしいわ。改めて、ごめんなさいね?」


 お話を聞きながら、

 私は無言で目を見開くほか無い。


(その夢の内容って、まさか)


 夢の内容はそれだけなのかと問うたら、まだ続きがあるご様子だった。あるけれど言いづらい。そのまま言うのは憚られる。一応は遠慮して、極力当たり障りなく、要点だけ仰った―――そんな感じで。


 私にも覚えがある。


 5年前、殿下に悪夢の内容を話す時、かなり大雑把に端折って概要だけしか話さなかったもんね。


「ベルザ様、お気になさらず、どうか全部、ぜーんぶ教えてくださいな」


 そうお願いしてみたけど、ベルザ様は首を振る。


「きっとご不快になると思うわ。私、ライラ様に嫌われたくないもの」


 そりゃあ言いにくいでしょうね。


 ライラ・サーレンシスはアイリビィ様を毒殺し、

 即座に取り押さえられ、

 牢にたたき込まれて実家に離縁され貴族籍を剥奪され、

 庶民として広場で公開絞首刑にされる。

 しかも私を取り押さえたのも、

 処刑宣告をしたのもギーズゴオル殿下で。

 しかも遺体は野生動物の御馳葬になっちゃうのよね?


「ベルザ様。その夢を見たのはいつ頃なのか覚えていらっしゃいますか?」

「きっと小さな頃だと思うわ。だって物心ついた頃には知っていたから」


 と言う事は。


 5年前、私と殿下が燃やしたあのしょうもない駄物語、きっとベルザ様も幼少期に聞かされたって事よね?

 私がコーデリア様に子守という名の虐待をされていた時、レジレンス殿下やギーズゴオル殿下、アイリビィ様の他に、実はベルザ様もその場にいらっしゃったのかも?


 でもそれはさすがにないか。


 もしベルザ様もいたならレジレンス殿下やアイリビィ様がご記憶の筈だもの。


 それなら水晶宮の書庫に出入りが許されている侍女の方々が、コーデリア様の処女作を読んで幼いベルザ様にお聞かせしたのかも?


 そう思い、水晶宮に縁のある方がベルザ様の身近にいらっしゃるかと訊いてみたけど―――答えはNOだった。でもベルザ様が知らないだけの可能性もあるわよね?


 私はチラリと遠くに見えるギーズゴオル殿下の背中を見る。ご友人らしき方々に囲まれて楽しそうに談笑しているご様子だ。

 そうして今度はミルクレア様の姿を探すと、相変わらず取り巻きの令嬢達と一緒に過ごしておられた。


 ううっ、ミルクレア様さえすでにお帰りになってたら今すぐ殿下に相談に乗っていただくのにな。

 そうだ、いっその事、さっさと帰宅して殿下宛てにお手紙をしたためようか。そしたら殿下はすぐにまた私の部屋に瞬間移動してきてくれるかもしれないし。

 先ずはコーデリア様の現在と過去の侍女や使用人の素性を調べてもらって、ベルザ様の関係者がいないかどうかも調べてもらって―――。


 それにしてもなんなんだろう、この気分。

 あの悪夢はもうとっくに終わった事だと思っていたのに。


 なんというか、庭先に深く深く穴を掘って埋めた筈の何か―――を、飼い犬がある日掘り起こしちゃって、それを口に咥えて尻尾をふりふりしながら持ってきたら、飼い主はこんな気分になるんじゃないかなぁと思ったわ。


 苦虫でも噛み潰してるような気分でいたんだけど、

 ふと見ると、ギーズゴオル殿下がこちらを振り向いて見つめている。


 私を見てる? と思ったけど、

 ちょっと視線がズレてるような。


 見守っていると殿下はこちらへ向かって歩いてきた。

 スタスタと私達の居るテーブル目がけて直進してくる。


「よう、ライラ。元気でやってるか」


 声を掛けられて、私は慌ててご挨拶をした―――けど、殿下の目はやっぱり私を見ていない。


 殿下は立ち上がってお辞儀をしたベルザ様だけをじいっと見ている。


「ベルザネート・テズビィ=エナゴーテイクだったな?」


 殿下が確認すると、ベルザ様が頭を下げて肯定の意を示す。


「左様でございます、皇子殿下」


「この茶会の参加者は基本、この場では無礼講だ。畏まらなくていい」

「恐縮でございます」


 ギーズゴオル殿下がベルザ様に声をかけるなんて恐らく初めての事で、一体何が始まるんだろうかと呆然としてしまう。

 そう思っているのは私だけじゃなく、お茶会中の人達がこちらを見ていた。


 そりゃそうだ。


 このお茶会はもともとはレジレンス殿下の婚約者選びの場であり、ギーズゴオル殿下はご本人も認めてらっしゃったとおり、お立場としては"オマケ"だった。

 だけどレジレンス殿下のお相手が決まった時点で、お茶会の主役は今やギーズゴオル殿下になってるわけで。でもその殿下は生涯独身宣言してて―――。


 その殿下がご自分から令嬢に話しかけたのよ?


 もともと親しい令嬢―――アイリビィ様や私のような幼馴染み枠にお声がけするのとはわけが違う。

 しかも一時はレジレンス殿下のお相手候補筆頭だった方へのお声がけ。


―――ギーズゴオル殿下は海賊令嬢に密かに恋をしていたが、

―――レジレンス殿下の相手候補であるという点で、

―――これまでご遠慮申し上げていたのではなかろうか。


 きっとみんなこう思うわよ。


 でも、ギーズゴオル殿下がベルザ様に秘めた想いを抱いていたなんて事はない筈。だけどそれとは別で、私は以前からお二人は気が合うのではないかって危惧していたから内心穏やかじゃない。


 チラリとミルクレア様を見ると案の定、こちらに注目していらした。


 目を大きく開き、眉間を歪め、明らかに動揺しているご様子で。

 不覚にも心の底から共感せずにはいられなかった。

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