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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
39/81

39 あの時、世界がキラキラ輝いて見えたけど

「どこから話そう? そうだな。先ずは悪魔の成り立ちから」

「え、興味無…」

「悪魔ってのはさぁ。もともとは唯一神アースタートの分神としてこの世に生まれたんだよね」

「え、マジで?」


「分神は本神であるアースタートの代わりにこの世の森羅万象を司る存在。分神はだいたい数千年で経年劣化して自然消滅するんだけど、悪神へと堕ちる分神もいてね。悪神に堕ちた分神は自然消滅しないけど、本神であるアースタートの自浄作用により、遅からず駆除されるもんなんだ。


 だけどある時、アースタートが千年の深い眠りに入っちゃった。


 あれは4~5万年前の事。寝てても自動操縦で駆除可能な筈が、その時の千年はあまりにも深い眠りだったせいで、アースタートの自浄作用が全く作動しなかったんだよ。


 アースタートがガチ寝してた千年間、神の不在を感じ取った魔族や人族はアースタートの代替(だいたい)として分神や悪神達を信仰対象にしちゃったんだけど。

 その結果、一部の悪神は"悪魔"へと昇格しちゃったってわけ。


 だから今この世にいる悪魔は、唯一神アースタートガチ寝時代に昇格したタイプと、悪魔同士を親に持って生まれたタイプの2パターン」


「リグナスはどっちのパターンなの?」

「昇格」

「て事は… リグナスは唯一神(アースタート)の元分神で元悪神?」


 リグナスは肯く。


「存在レベルの昇格だから根本的な在り方まで変質しちゃってね。千年ぶりに目覚めたアースタートは、もう僕らを駆除対象とは見なさなったんだ。これもまた自然の摂理であるとかナントカ言ってたなー」


唯一神アースタートって妻を失った哀しみで眠りに就き、未だ目覚めないって神話があるけど、その千年てひょっとして…」


「あ、その神話、ガセ」

「ガセなの!?」


「人間の女に求婚して振られたせいでフテ寝した挙げ句うっかりガチ寝しちゃっただけだよ。彼は確かに今も寝てるけど仮眠の範囲内だから。居眠りしながら現在進行形で悪神化した分神を駆除し続けてる。機能不全になったのはホントその4~5万年前の千年だけ」


 て事は、つまり。


「リグナスってひょっとして4~5万歳の超絶ウルトラお爺ちゃ」

「あははははぁ、何言ってんの、こんな若々しい僕をつかまえて」


 そんな益体(やくたい)もない事は置いといて―――とリグナスは言う。


「悪魔になった僕はやがて後の上司に出逢ったってわけ。

 僕が上司と出会ったのは太古の昔だったよ。

 初対面の日を僕は忘れない。

 あの時、世界がキラキラ輝いて見えたけど、同時に絶望も感じたな。

 だって存在がアホみたいに強くてさ。

 あー、これは一生頭上がんないんだろうなぁって…」


 明るい口調と声音(こわね)だけど、

 どこか遠く見つめるような目。


「僕の方が年上だったけど、力の差が大きすぎたせいでいつの間にか上司と部下みたいな関係性に落ち着いちゃったんだよなぁ…」


 それでも仲良くウン万年の日々。

 真ん丸だった湖に隕石が落ちて瓢箪型になったり、

 地殻変動で地形が変わったり、

 魔族が人口減で滅んだりして、

 人々の生活環境もめまぐるしく変わっていき、


 やがて人間達は国家を形成するようになった。


「ある時、上司が気まぐれで助けた人間がいて、そいつが上司を"魔神"として(あが)め始めたんだよね。その人間はなかなか出来るヤツだったみたいで、気がつくと国を興して一国の王となっていた。王は国の名前をハノイヴァと定め、かつて自分を助けてくれた上司を国家の主神と定めたんだ。

 まぁでもうちの上司は特に気にもしちゃいなかったな。

 ハノイヴァの神殿で神官達が熱心に魔神さま~って祈りを捧げていたけど上司にとっちゃあ知った事かってなモンで。そもそも彼、ハノイヴァに定住もしていなかったしねぇ。時々ハノイヴァに来て、駐在させてる僕の報告を聞く、そんな感じ」


「…その程度の思い入れしかない国なのに、滅亡後に存在と記憶の滅却を? そこまでするものかしら」

「あはは」


 リグナスは笑ったけれど、ふいに真面目な顔になった。


「で、ここからが僕の仕掛けていた罠の話になるんだけど」

「罠」


「ライラちゃん、ギーズ君がこの城の隠し部屋探検に来た日、君は探検には参加しなかったよね」

「ええ、自室で一人で過ごすつもりでいたわ。そしたらお母様に書庫の本を取ってくるように頼まれて… なんで知ってるの?」


 あの時の私は頼まれた本の題名をすっぽり忘れてしまった上に、あの後お母様に訊いたら「ライラにそんなこと頼んだかしら」なんて言われちゃったのよね。


「まさか」


 リグナスはニヤリと悪魔らしく笑う。


「僕が君の母上に魔力で(ささや)いたんだよねぇ」

「えー、どういう事なのよ」


「僕は書庫の奥に隠し部屋がある事を知ってた。なんせ300年前、グランディルが隠し部屋を作って神紋で封印する所を見てたからね」


「そういえばさっき、ご先祖の隙を窺ってたって言ってたけど…」


「うん。グランディル所有のハノイヴァ関連の資料を滅却する機会を窺ってた。でもグランディルは神力持ちだからなかなか手が出しづらくて…と言うのは建前で。グランディルの所有物の中にメリアザンの日記が含まれていた事が大きかった」


「どういう事?」

「個人的に僕がソレを滅却したくなかったから」

「ああ…」


「グランディルが施す封印がメリアザンの日記を保護してくれると思ったら、つい封印されるに任せちゃったんだよね。その後、しくじっちゃったよーって報告して上司にマジギレされたんだけど」


 リグナスにとってメリアザンさんは本当に大切な存在なんだなぁって思ったわ。


「あの、二人は具体的にどんな関係なの?」


 問うとリグナスは答えてくれた。


 メリアザンさんはハノイヴァ王国滅亡末期、国がめちゃくちゃになって国家から支払われる筈の給金が途絶え、困窮。仕方なく自身の日記を"滅亡待ったなしハノイヴァ最後の処刑人の日記"と称して外国のオークションに出品したという。

 見かねたリグナスは人間に擬態したままメリアザンさんと結婚。

 メリアザンさんが40歳代で病死した時、リグナスは冥府へ赴く前のメリアザンさんに自身が悪魔である事を告げ、成仏か使い魔になるかの二択を提示。メリアザンさんは使い魔になる事を選んだのだという。

 使い魔になって300年だからまだ存在が確定しきれておらず、そのせいで殿下には未だ"靄"にしか見えていないという事だった。


「え、じゃあメリアザンさんは死んだ直後に使い魔になって、その直後から日記に憑いたまま300年間うちの隠し部屋に封印されていたって事?」

「封印されてたのは日記だけだよ。この300年、メリアザンは普通に僕と行動を共にしてたし」


「え? え? どういう事?」


 リグナスは「順を追って説明するね」そう言いながらニヤーリと笑う。


「書庫の奥の隠し部屋、君らはギーズ君が神力持ちだから封印が解除されたって思ったでしょ?」

「…違うの?」

「違わないけど、実は封印解除には三つの要素が必要だった」

「え」

「サーレンシスの血統を持つ男女と神力持ちが同時に書庫に入る事で封印解除だったんだよね」

「つまり、私とお兄様と殿下が揃ったから開いたって事?」


「先ず君を書庫に赴くよう仕掛けて、君が興味を持つだろう毒殺本を目立つ所に置いて足止め。地下に探検に行った君の兄さんとギーズ君の方は、適当に壁に古代文字を彫り込んでおく事で、古代語の辞書を探しに行くよう書庫へ誘導しましたー」


「私達、リグナスの手の平で踊らされてたんだ…」

「ごめんね?」


 リグナスはさして悪いとも思って無さそうに笑う。


 殿下の性格上、サーレンシスの隠し部屋発見の戦利品として何か一点持ち出すのは想定内。ただ、殿下が実際に持ち出したのがメリアザンの日記だった事はリグナスにとっては想定外だったらしいけど。


 殿下が持ち出すのが何であれ、その中にグランディルの手記と悪魔限定召喚スクロール―――実際にはリグナス限定召喚スクロール―――を隙を見てこっそり挟み込み、ダメ押しにメリアザンを憑かせて仕込み完了。意味ありげな怪しい物件に仕立て上げて殿下の好奇心を(くすぐ)る計画は無事果たされた。


「ちょーと待って。ねぇ、ご先祖の手記って、ひょっとして」


「あっれは僕が書きました~ ギーズ君を騙しきる為に文体300年前風にしなくちゃいけないし、紙やインクの成分も当時の物にしなくちゃ信憑性下がるしって事でちょっと大変でしたぁ。実際ギーズ君はその辺ちゃんと調べた上でようやく信じたしねぇ」


 こんにゃろうと軽く睨むと、


「あ、でも内容は300年前の状況をそのままってぇか、当時グランディルが考えていただろう事を文字に起こしただけだからね?」


 リグナスはクスクス笑う。


「しょうがないよ。だって僕、上司に逆らえないからねぇ」

「そんなに怖い方なの?」

「う~ん、命の危険は感じた事ないか。言う程怖くも無いんだけど」


 リグナスは渋面を作る。


「だけど300年前のハノイヴァ王家の人達はやらかしちゃったからねぇ…」

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