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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
34/81

34 ダサ過ぎて一周回って格好いい

 翌日私はギーズゴオル殿下のお見舞いの為に皇宮へ向かった。

 本当は昨日、すぐにでも向かいたかったのだけど、カルケイビタンさんはとっくに帰ってしまっていたし、移動魔術下手な我家の私人魔術師ミグリットさんはお父様を連れて帰還したばかりだったから休息が必要だったし。

 なにより私は殿下の女友達に過ぎなくて、当然事件直後にお傍へ寄れる立場でもなくて。

 だけど翌日の昼過ぎ頃、皇宮がようやく殿下の怪我がかすり傷程度であるとの発表をなさった。

 それならばもうお見舞いへ行ってもよかろうとの事で、ミグリットさんに頼んでようやく皇宮へ向かう事が出来たわけ。ミグリットさんだと3回も中継地点を挟んでの移動だから大変だったわよ。


 皇宮へはいつもならギーズゴオル殿下の喚び出しで伺うから手続きやら何やらは基本的に簡略化されるのに、今回は私の方からの訪問である為、色々とややこしい。だけどカルケイビタンさんが私の姿を見つけて便宜を計ってくれたから、思ってたより早く皇宮の表門を通過する事が出来た。

 カルケイビタンさんにお礼を言って別れ、そうして私は紺碧宮へ向かったってわけ。


 すると、


「ライラちゃーん」


 通路の向こうから呼ぶ声がする。

 見るとリグナスだ。


「リグナス、あなた!」


 私は小走りで近付きながら「あなたが殿下を襲撃したんじゃないでしょうね!?」と、リグナスの襟首を掴んでガクガク揺すった。


 殿下とリグナスは昨日、喧嘩をしてたじゃない?

 口論だけれど喧嘩は喧嘩だし、そしてリグナスは所詮は悪魔。


「あなた以前、言ってたわよね、皇宮内の殿下は結界のせいで防御が鉄壁だって。だから殿下を上手いこと言って皇宮の外に連れ出した上で…」


「誤解だよぅ、そもそも召喚主を亡き者にして僕になんの得があんの? ギーズ君が死んだら僕、皇宮から弾き飛ばされちゃうんだけど!?」


 リグナスは指パッチンして私の動きを封じる。


「落ち着いて? 皇宮もかすり傷って発表してたでしょ、安心してよ」

「実は大怪我だって表門の所で聞いたんだけど!」


 カルケイビタンさんに会う前、皇宮の表門で受付の順番待ちをしていた時、周囲の大人達が


『殿下は右目に大怪我を負ったご様子だ』


 なんて呟いてる人達がいたのよね。

 あの美しい怜悧な目が損なわれるなんてこの世の芸術の損失じゃん!?―――て、割と真剣に恐慌状態になってたんだけど。


「してないしてない。ただねぇ…」


 リグナスはひどく困ったような顔をする。

 眉間を歪め、心なしか脂汗まで垂らしていて、

 顔色も心持ち青い。


 それで私はやっぱり不安になって、もう少しで泣くところだった。






 結論から言うと殿下は本当に大怪我なんかしていなかった。

 リグナスの指パッチンで紺碧宮の殿下のお部屋に瞬間移動した所、確かに殿下はピンピンしていて、


「お、ライラ。見舞いか? ありがとよ」


 なんて呑気に仰ったのよ。

 でも、右目に黒い眼帯をしてた。

 そして少し憂鬱そうな顔をしてる。


「やっぱり右目を怪我してるんじゃん!」


 私は思わずリグナスに詰め寄り、また襟首掴んでガクガク。


「おーい、落ち着け、ライラ」


 殿下は興奮している私にワックスビーズを柔らかく投げつけてくる。

 そうして、


「怪我はしてねぇよ?」


 と仰る。


「じゃあなんで眼帯をして―――」


 ―――るんですか? と続く筈だった言葉は途中で飲み込む他無かった。殿下はペランと眼帯を捲って、確かに無事な目を見せて下さったからだ。


「…それならどうして眼帯を? …お洒落眼帯?」


 ファッションだと思えば確かにお似合いだし格好いいけどさ。


「ライラ、こちらに来い」


 言われて近付くと、両肩を掴まれ、ぐいっと顔を寄せられる。え? これ、キスとかされる流れ? ―――な訳はないし、状況的に赤面している余裕もない。


「ライラ、俺の右の瞳をよく見てみろ」

「はい?」


 殿下の瞳。

 金色の瞳。


 言われた通りにじっくり見ると。


「あれ?」

「判ったか?」


「なんか、殿下の瞳の中に模様みたいなのが見えます。なんですか、これ」


 うっすらとだし、至近距離でじっくり見つめないと判らないけど、殿下の瞳の中に十文字模様が浮かんでる。


 天井にふわふわ浮いていたリグナスが口を挟む。


「それねぇ、ギーズ君の神紋だよ」

「神紋?」


「実はだな…」


 殿下が顛末を話し出した。


 昨日、レジレンス殿下と二人きりでのお茶会に参加していた令嬢がいたそうだ。

 だけど帰宅の際、令嬢担当の公人魔術師が体調不良を起こしてしまった上、他の公人魔術師達も出払っていた。


「令嬢はミルクレア・アーティボートなんだが」

「と言うと、レジレンス殿下の婚約者候補二番目だった…」


 レジレンス殿下のお相手はもうほとんどアイリビィ様に決まっているから今更一番も二番もない筈だけど、未だに行われていたのね、レジレンス殿下との二人だけのお茶会。あるいはアーティボート侯爵によるごり押し?


「アーティボート家の持ち城が皇宮からそんなに離れてねぇトコにあるって事で、馬車でその令嬢を城に送る事になってな。それで皇宮の護衛兵を何人か着けて送り出したら…強盗に襲撃されたってわけだ」


「え? 殿下もその馬車にご同乗を?」

「いや、同乗してねぇし」


「ん? じゃあ殿下はどこで襲撃を?」

「つまりだな」


 ミルクレア様の為に用意された馬車は四頭立てだったんだけど、その四頭の内の一頭は殿下が日頃から目を掛けていた馬だったとの事。目を掛けていると言っても殿下の持ち馬というわけではなく、皇宮の厩舎で生まれたばかりの頃にたまたま興に乗った殿下が名付け親になっただけらしい。


「…そういえば殿下ってお気に入りには神力仕様の目印とか着けてるんでしたっけ。その馬にも?」


 殿下は肯く。


 馬に着けられていた目印は馬車が襲撃を受けた瞬間、タイムラグゼロで殿下に事態を知らせ、殿下は咄嗟に瞬間移動で現場に駆けつけたのだという。

 するとミルクレア様と御者が馬車ごと人質に取られており、護衛兵達は手も足も出ない状態で膠着(こうちゃく)していた。


「とりあえず馬は無事だったからホッとした」


 後は護衛兵達の仕事だとばかり、殿下は背の高い木の枝上から高みの見物を決め込んでいたのだけど、どうも強盗達の目的は馬泥棒だったらしく、馬車の中に令嬢が乗っていたのはたまたまだった様子。

 (ながえ)から馬を外そうとしている強盗達の動きを察知し、仕方なく殿下は指先から神力を()ねたビームを放って強盗達を次々に気絶させたと。


「名付けて指先ミラクル光線」


 私はそこまでお話を聞いて、軽く眉を顰めた。


「え、なんですかそれ」

「最近、攻撃技の名付けに凝ってる」

「え、でもすごくかっこわ」


 るいネーミングなんですけど―――という言葉は飲み込む。


「……そうですか」


 ふと馬につけたという名前が気になった。


 こちらの脳内など知り得ぬ殿下は話を続ける。


 指先ミラクル光線を放って強盗を気絶させている殿下の姿―――を木の下から確認した護衛兵達は、


『ギーズゴオル殿下だ』

『虹色のビームをお放ちになったぞ!』

『殿下が神力をお持ちって本当だったのか』


 などと口々に言い合っていたので、殿下は(こいつら後で口止めしなくちゃなぁ)とか呑気に考えていたという。


「俺は油断してたんだよ」

「油断ですか」


「強盗の中に攻撃力の高い魔術を使うヤツがいてさぁ」

「ええ!? だだだだ大丈夫だったんですか?」


「大丈夫だったのは見りゃわかんだろ」

「実は殿下は最早幽霊で、私の目に見えてるだけとか…」


「俺、その攻撃魔法、避けらんなくてな」

「殿下、やっぱり幽霊なんだ…」


「落ち着け。なんか気がついたら勝手に右の目ン玉から光線が出て、気がついたらその魔術師がミンチになってたんだよな」


「目ン玉から光線…」

「目ン玉ウルトラ光線と名付けようと思うんだが」


 殿下は天井あたりをずっと旋回していたリグナスを見上げ、「格好良くね?」などと訊く。


「いいんじゃないの。ダサ過ぎて一周回って格好いいような気がしなくもないよ。間違いなく気のせいだけど」


 リグナスはものすごくどうでも良さそうに言い放ち、殿下はそんなリグナスのお尻目がけて卓上の羽根ペンを深々と命中させた。

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