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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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27 ギーズゴオル殿下の怪しい振る舞い

 昼食を終え、殿下と二人でコーデリア皇女殿下の水晶宮へ赴く。

 水晶宮の使用人に案内され、いわゆるプライベート書庫に案内され、扉から部屋の奥を覗き込むと書棚には沢山の本が並んでいて、皇女殿下と3人の侍女が箒やハタキを持ち、エプロンまで着けて掃除をしていた。

 わざわざプライベート書庫なんかあるだけあって、書棚にはものすごい数の本が並んでいて壮観だったけど、ただ全ての本の背表紙の厚みが微妙に細いというか薄いというか。そこはちょっと謎だったけどね。


 コーデリア様はギーズゴオル殿下の姿を見ると、

 

「ギーズ、よく来てくれました」


 ニコリともしない真顔を向けてくる。

 でも殿下の背後にいる私に気付くと、「おや」と目を瞬かせた。


「その白銀髪と紫色の瞳、その顔立ち。ひょっとしてサーレンシスのライラですか?」

「は、はい。ご挨拶が遅れました。サーレンシス侯爵家のライラでございます」


 私は慌ててお辞儀をする。


「硬くならずとも宜しいですよ。わたくしは一週間ほどですが幼い頃のあなたの子守をしましたし。妹のような存在だと思っています」

「勿体ないお言葉でございます。子守をして頂いた事は両親から聞かされております。その節はありがとうございました」


 すると殿下がニヤッと笑った。


「お前は覚えてないだろうが、俺達、コーデリアんとこでとっくに出会ってたらしいぜ?」

「え、そうなんですか!?」


 知らなかった。

 吃驚してコーデリア様を見返すと肯定なさる。


「恥ずかしながらあなたの子守を買って出たものの、当時15歳のわたくしには荷が重かったようで、困ってしまって。やんちゃなあなたの遊び相手としてギーズやレジレンスを呼んで遊ばせました。あと、エルカント家のアイリビィも」


「はい? アイリビィ様?」


 思いがけない名前出てきた。


 て言うか、ちょっと待ってよ。


 私とアイリビィ様って小さい頃に出会っていたの?

 ギーズゴオル殿下とレジレンス殿下ならわかる。

 子守される現場が皇宮なんだもの、充分可能性はあるわけで。


 でもなんでそこに伯爵家のアイリビィ様が出てくるの?


 ポカンとしていると、


「アイリビィは当時のわたくしの侍女の姪っ子だったのです。レジレンスもギーズも男の子ですし、女の子もいた方が良かろうという事で招き、遊ばせたのです」


 えーと、それって。


 何かの予感が脳裏を過ぎりかける。


 呆然としている私にギーズゴオル殿下が畳みかけてくる。


「で、ライラがサーレンシス家に帰った後も、俺ら3人はそのまんまなんとなく付き合いが続いて幼馴染みになったわけだよ」


 つまり殿下とアイリビィ様が幼馴染みなのって私が切っ掛け?

 いえ、それはこの際置くとして。


「あの。ギーズゴオル殿下は私の事、覚えていたのですか?」

「覚えてねぇよ」


 こともなげに仰る。


「お前だって俺のこと覚えてなかったろ? 当時俺ら3歳だぜ? でもアイリビィとレジレンスは覚えたみてぇだな。なんせあいつらは当時6歳と7歳だからよ」

「えー」

「こないだのお茶会ん時なんかな。お前はきっと覚えてないだろうからってレジレンスは初対面ヅラで挨拶したわけだ。アイリビィは―――まぁ、俺が期待させちまったんだが」

「え、なんですか?」


 期待とは?


「ほら。今年の初め頃に俺が親と一緒にお前んトコの城に行った時」

「はい」


「あん時のお前、ア○○○ィ的な名前の知人はいないかって俺に訊いたじゃん? ひょっとしてアイリビィの事は覚えてるのかなって俺が早合点したんだ」

「と、申しますと」


「あの後、アイリビィに話したら、お前が自分の事を覚えてたと勘違いして大喜びしてたんだよ。ガキの頃のお前はレジレンスとアイリビィにめっちゃ懐いていたらしくてな」

「……………………マジですか」


「レジレンスもそうだって言ってたし、そうなんだろうよ」

「えぇ…」


 ぜんぜん覚えてなーい。


「アイリビィ、あのお茶会ん時、お前に会うのをアホみてぇに楽しみにしてすげぇ期待してたのに、結局覚えてもらえてなかったってガッカリしてた」

「ええ……と」


 アイリビィ様、ずいぶん馴れ馴れしい方だって思ってたけど、そうか、そういう裏事情があったのかあ…。


 するとコーデリア様が口を挟んできた。


「そうですね。思い返してみると確かにアイリビィとライラはとても仲良しでした」

「そ、そうなんです、か」


 マジかぁ…。


「玩具のティーセットで淑女遊戯(ごっこ)をしていました」

「淑女遊戯(ごっこ)、とは」


「あらこのお茶とても美味しいザマス、あいりびぃ姉しゃま、もっと飲むザマス。あらあらライラちゃん、カップに注いでくれりゅのね、嬉しいザンス」


 コーデリア様は真顔で幼児言葉を呟く。


「だいたいこんな風に延々と二人でお茶の注ぎっこをしてましたね。お茶は花片(はなびら)をすり潰した色水でした」

「……そうなんです、ね」


 こないだのお茶会でアイリビィ様がお茶()げ攻撃してきたのって、ひょっとして。

 あれはぜんぜん未来の暗示とかじゃなくて―――?


「そういえば一度、アイリビィがうっかり色水を呑んでしまって、あれはちょっとしたハプニングでしたね」

「…………えぇっと」


 なんというか、

 今確実に何かが脳裏を過ぎったよ。


 呆然としていると、


「コーデリア様、そろそろお片付けに戻ってくださいませ」


 コーデリア様の侍女が遠くから声を上げる。

 その声にビクッとなって、私は考えるのを中断した。


 コーデリア様は侍女に向かって「今行きます」と一声かけると、私と殿下を見返す。


「ギーズ、床に積んである本を順番通りに棚に並べて下さいな。ライラはハタキで窓から埃を払ってくださいますか?」


 コーデリア様の指示どおりに働きながら、私の頭はずっと混乱したままだった。






 そうして1時間ほど頑張ったろうか。

 コーデリア様のプライベート書庫の掃除と整理があらかた完了した頃、


「……なあ、ライラ。お前、これってどう思う?」


 ギーズゴオル殿下がそう言って一冊の本を見せてきた。

 その本もやっぱり薄ペラい。

 本の表紙を飾るのは二人の美青年―――に見えるんだけど。


「なんですかね、コレ」


 美青年同士はどういうわけか抱き合っている。

 周囲には薔薇の花が無駄に散ってたりもする。


「実は片方は男装の麗人…?」

「どちらかが男装した女だとして。にしたって俺は嫌だぞ、こんな屈強そうな女は」

「うう……む。絵描きさんが女性を描くのが下手なのかも?」


 硬い装丁の表紙を開こうとして、


「ギーズ、ライラ」


 いつの間にか近くに居たコーデリア様に声を掛けられる。


「なあ、コーデリア。この本の表紙って…」


 殿下が質問しようとしたけど、


「その本はあなた達にはまだ早い」


 これまでずっと無表情だったのに、コーデリア様、めちゃくちゃ不自然に笑顔を作ってる。


「特にギーズには永久に早い」

「はあ? なんじゃそりゃ」


 しかし殿下は言いつのる事はせず「チェッ」と言いながら言葉を噤んだ。悪魔すら顎で使う殿下だけどコーデリア様の事は苦手のようだ。


 コーデリア様は有無を言わせぬ雰囲気で、


「二人ともお手伝いありがとう。あちらのテーブルでお茶とお菓子の用意をさせていますよ」


 私と殿下は顔を見合わせた後、慌てて本を棚に戻した。そうして"あちらのテーブル"にすごすごと向かう。

 でも、なんとなく違和感を覚え、ああそうかと気付いた。殿下はいつもなら私より少し先を歩くのに、何故だか今は私の背後にいた。

 私の背後をゆっくり歩いてる。

 途中で靴音が止まったのを感じ、不思議に思って殿下の方を振り返ろうとしたんだけど―――。

 その瞬間、背後でバチッという微かな音と虹色の光が一瞬閃いたのを感じたんだよね。ほんの一瞬だったし、数歩先を歩いていたコーデリア様は気付かなかったんじゃないかなと思うくらいの出来事だった。


 改めて振り向くと殿下がいつもの人の悪い笑顔を向け、人差し指をご自分の口に当て、私を見る。


 内緒な?


 とウインクで訴えてくる。


 殿下、今、神力をお使いになったよね。

 あからさまに怪しかったわ。


 お茶とお菓子を頂いた後、私と殿下は一旦、紺碧宮に戻る。

 時刻はもう昼下がりを過ぎつつある。

 今度こそお暇を告げた所、殿下は珍しくも私を表門まで送ってくれた。リグナスがいれば指パッチンで楽だけど、殿下とだと徒歩。でも好きな人と一緒だといくらでも歩けるし足元も軽い。

 表門が見えてきて、門の向こうにカルケイビタンさんの姿を確認した辺りで、殿下は仰った。


「これをやる」


 殿下はいつの間にか手にしていた包みを渡してきた。

 本だろうか。

 厚みの薄さからしてコーデリア様の書庫にあった本?

 ひょっとしてさっきの―――。


「自室でじっくり堪能しろよ?」






 今日は色々とめまぐるしかったから、私は自室に戻るなりベッドに仰臥。

 だから殿下に渡された包みはとりあえず机の上に置いて、実際に開いたのは少し時間を置いてからだった。

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