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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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28 HUSH HUSH SWEET LYRA

 ベッドに寝そべりつつ、今日あった事をお復習(さら)いする。


 成仏を拒んだダクネス・グレンダーさん。

 エクスノヴァ将軍に会いたかったディアナさん。

 とうとう成仏したエクスノヴァ将軍。

 今は亡き国のすでに亡き女性の300年前の日々。


 なんだかずいぶんと濃い一日だったなと思う。


(でもアイリビィ様と私の関係を知った事が個人的には一番ビックリだったかも)


 次にアイリビィ様と会う事があったら今度は友好的に話しかけてみようかなって思ったし、そしてなによりも私のあの悪夢の真相―――。


 ひょっとしてだけど。


 前世の記憶でもなく、

 先祖の記憶でもなく、

 それどころか、

 未来の記憶でもなくて。


(あの夢は完全に単なる夢に過ぎなかったって可能性出てきた? あるいは3歳の頃の私の実体験の単なる焼き直し的な…)


 3歳の私は6歳のアイリビィ様と仲良しで、

 淑女遊戯(ごっこ)と称して茶器で遊んでいたわけで。

 ティーポットやティーカップの中身は花片(はなびら)をすり潰した色水。

 その色水をアイリビィ様がうっかり呑んでしまったですって?


 アイリビィ様は不味くって口から吐き出したのかもしれない。

 その色水は赤色で、まるで血のようだったのかもしれない。

 レジレンス殿下はアイリビィ様を介抱し、

 ギーズゴオル殿下は私が毒を呑ませたと囃し立てたのかもしれない。


 もしかしてその光景を私は夢に見ていただけなのかも―――?


 本来は幼児達の遊戯(ままごと)の中で起った出来事が、

 夢の中では舞台は本物のお茶会に変化して、

 私達も大人に変化して、それを私は夢に見続けていたのかも?


 もしそうならなんてしょうもない顛末なのか。


 でも、そこまで考えて、いえいえ待ってよ、大事な事を忘れてるって、私はぎゅうっと枕を抱きしめる。


 アイリビィ様が倒れて、レジレンス殿下が介抱をして、ギーズゴオル殿下が囃し立てたところ迄ならそうかもだけど、悪夢には続きがあったじゃないの。

 だってギーズゴオル殿下は私を牢獄に閉じ込めて処刑宣告までしたんだから。


 ノー裁判とか、

 実家からの離縁とか、

 公開絞首刑とか。


 いくらなんでも3歳児が幼少期の遊戯(ままごと)の一幕から想像を膨らませるには無理があるというか、具体的に過ぎるというか。


 ああでも。


 どこかで薔薇園の女官メネルト・ワナティカ様の事件を耳にしたのかも? 3歳児の頃の実体験と、どこかで聞いたご先祖の"やらかし"を私はいつしか合体させ、あんな夢を見たのかも?


 ちょっとそんな期待をしてしまった。

 期待?

 いやでもこれってひょっとして、

 かなり有り得る感じしない?


 うん、考えれば考える程、そんな気がしてきたんだけど!

 真相がそれならしょうもないにも程があるけど、

 それで長年の憂いが払拭出来るならぜんぜんOKじゃん。


 本当にそれだけの事だったんなら、私は皇宮のお茶会を辞退する必要はなくなるし、ギーズゴオル殿下との将来を夢見ちゃってもいいのかもって思えてくるわけで。

 勿論アイリビィ様とギーズゴオル殿下が相愛なら私の分が悪いけど、ベルザ様の読みが当たっていてレジレンス殿下とアイリビィ様が相愛ならギーズゴオル殿下は失恋だし、そうなったら私にだってチャンスはあるかも知れないし。


 そうしたらいつか殿下と婚約して、

 ゆくゆくは殿下のお嫁さんになったり?


「ふへへ…」


 妙に具体的に想像してしまい、私は顔が赤らむのを感じてベッドの上をゴロゴロ回転した挙げ句、床から落っこちた。


「イタタタ…」


 身を起こして再びベッドに乗りかけて、その時になって殿下から渡された包みの事をようやく思い出す。

 机の上に置いた包みを開くと案の定厚みの薄い本が一冊入ってた。水晶宮の書庫の本だろうとは思っていたし、ひょっとして今日一緒に見ていた本―――美青年と男装の麗人?の表紙の本かな…と予想していたんだけど、包みから出てきた本には無地のカバーが着せられている。


(なんでこれを私に?)


 殿下の意図が見えず、本の表紙を開いてみる。

 すると本文の最初の頁に書かれたタイトルが目に入る。


「え、なにこれ」


【ライラよ、震えて眠れ】著:コーデリア・レーダーゼノン


「なにこれ」


 私は呆然とした。




 しばらく固まっていた私は、少ししてようやく立ち直り、本の頁を捲り、読み始める。最初の内はゆっくりと読んでいたけど、読み進める内に加速がついて、しまいにはほとんど斜め読みになり、頁を捲る手も加速した。




 だいたいこんな内容だった。



 物語の主人公はアイリビィという伯爵令嬢。

 アイリビィ嬢はレジレンス殿下と愛を育んでいたけれど、

 その関係に嫉妬した侯爵令嬢ライラに嫌がらせをされる。


 ライラ嬢の得意技はギャン泣き。


 自分のワガママが通らないと、

 怪獣の首でも絞めているのかって程の怪音で泣き、

 床をゴロゴロ転がりながら手足をバタつかせる鬱陶しさ。


 そんなどうしようもない令嬢を

 レジレンス殿下が生涯の伴侶として選ぶはずもない。

 ある時、レジレンス殿下の婚約者として

 アイリビィ嬢の名前が発表される。


 嫉妬したライラ嬢は皇宮のお茶会でアイリビィ嬢を毒殺。


 だがライラ嬢はかなり頭が悪かったせいで

 アリバイ工作だのは一切しておらず、光の速さで罪が露見。

 お茶会に来ていた令息令嬢は離席しライラ嬢を遠巻きにし、

 レジレンス殿下はアイリビィ嬢を介抱する。


 レジレンス殿下とはイトコのギーズゴオル殿下が

 ライラ嬢を取り押さえ、牢獄にぶち込む。


 実家のサーレンシス家は厄介払いとばかりにライラを離縁。

 ライラは庶民として裁かれることになり、

 即日絞首による処刑が決定。

 ギーズゴオル殿下は

「処刑は明日だ。お前は広場で大勢に野次られながら吊るされる。

 今夜は最後の夜だ。震えて眠ってな」

 そう言い放つ。


 ライラ嬢は最後の夜を牢獄の中で震えながら過ごし、

 翌日広場で無事に公開絞首刑。


 遺骸は郊外に棄てられ、野生動物達の御馳走になりました。

 これがいわゆる御馳葬です。チャンチャン


 なお、毒殺されたアイリビィ嬢は神殿の大神官の力で蘇生。

 アイリビィ嬢は無事レジレンス殿下と結ばれたのでした。

 メデタシメデタシ



 読み終えた私はくらりと目眩を感じる。


(なにこれ、お茶会の様子とか私の悪夢にめちゃくちゃ似てるんだけど。殿下が悪夢の中で私に言った台詞とか、まんまなんだけど…)


 しかも、しかも、よ。


 悪夢の中では牢に押し込められた私がギーズゴオル殿下に処刑宣告を受けた場面で終わってるのに、物語の中ではまさかの続きがあった。

 物語の中ではきっちり絞首刑になった所まで詳細に書かれてるんですけど。なんなら遺骸の有様までじっくり書かれちゃってるんですけど。最終的にアイリビィ様が蘇生したなんて事、知らないんですけど。


 挿絵を見る限り、登場人物の髪色や瞳色も忠実に再現されていたし、御馳葬場面なんか、絵師さん、気は確かかと訊きたくなるくらい凝りに凝ってて…。


 なお、巻末の奥付には


―――門外不出


 と印が押してある。


「なにこれ」


 いや、ホント、なにこれ。

 しかも著者がコーデリア・レーダーゼノンとか。


 思わず本をぼとりと床に落下させる。

 その拍子に本が破損。

 背表紙の角が派手に陥没してしまった。


 思わず瞼を伏せ、額に親指をあて、考える。


(これはどういう事? て言うか)


 なんかもう色々と、ああそういう事って言葉しか出てこない。




 で、なんで殿下はこれを私にお渡しになったわけ?




 何をどう思えば良いのか定まらずに立ち尽くしていると、急にバタンという音がして、外気が室内に入り込んでくる気配を感じた。

 見るとバルコニーに続く掃き出し窓の戸が大きく開け放たれている。

 風で開いたのかと思い、閉めようと数歩歩き出した所で空気がぶわりと揺らぎ、次には人の気配を感じる。しかもその気配は虹色に光っているような…。


 まさか、ひょっとして。


「よお、ライラ。コーデリア作の駄物語は読んだか?」


 なんとバルコニーにはギーズゴオル殿下がいらっしゃった。

 虹色の光を全身に纏っている。


 少し浮いていた足がストンとバルコニーの床に着地すると、同時に虹色の光がフッと消える。


 え? 何? なんで?

 移動魔術?

 殿下、移動魔術出来たの?

 いえ、殿下の場合は神力だから、

 移動魔術じゃなくて移動神術?

 いやもうどっちでもいいよ…


 驚きに次ぐ驚きで最早どういう反応をして良いのかすらわからない。とりあえず出し抜けにバルコニーに現われた殿下はなんだかとても幻想的で美しかったなぁと色ボケて現実逃避する他なかった。

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