表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/125

85話 大公会議⑥

 大公会議

 今回の会議が始まった当初に話し合っていたのは以下の四人


 エトナ大公家当主、アルヴィス・エトナ

 ガイア大公家当主、ノヴァ・ガイア

 アテネ大公家当主、ダイン・アテネ

 クリマ大公家代表、セティ・クリマ


 最初の二人の争いに、他の二人は付き合わされていた。

 ダインは忠実なアルヴィスの駒として。

 セティは正道を貫きノヴァの擁護者として。


 だが大公家当主ではないセティに大公会議の議決権はない。

 ゆえにこの場は二対一。


 ノヴァに為す術はなく、このままアルヴィスとダインによって帝城から永久に追放される寸前まで追いやられた。


 そこで登場したのが踊り子マーニャ。

 その正体はセティの母親にしてクリマ大公家当主、マーニャ・クリマ。本名、マーラ。

 彼女は息子と同じく正論でもってアルヴィスと立ち向かい、ノヴァの追放をひっくり返してくれたのだ。


 これでアルヴィスにはダイン

 ノヴァにはマーニャがついた。

 つまり、二対二。

 どちらも過半数を取ることは出来ず、どんな議題も結論が出ることはなくなった。


 だが、再びマーニャがこれをひっくり返す。

 ダインの想い人、カレンの母親、メラルダを連れてきたことで。


 ダインはカレンを自らの娘だと認めた。

 メラルダと、自分の子供だと。

 そして、カレンが己よりも優れた魔法使いであることも

 認めたのだ。


 カレンはダインの実の娘であり、ダインよりも強い。

 これによって、「大公家当主は一族最強の魔法使いが就任する」というルールが適応される。


 つまりこの瞬間、アテネ大公家当主はダインからカレンに継承されたのだ。


 こうして、今この瞬間の大公会議の主役の顔ぶれは以下になる。


 エトナ大公家当主、アルヴィス・エトナ

 ガイア大公家当主、ノヴァ・ガイア

 アテネ大公家当主、カレン・アテネ

 クリマ大公家当主、マーニャ・クリマ


 これで一対三。

 形勢逆転だ。



 ---



「ダイン!貴様、こ、こんな下民と交わったなどと、正気か!?しかも、こんな下等生物と我ら誇り高き貴族の間に子ができるなど、信じがたい!」


 アルヴィスはダインを口汚く罵っている。

 だが何を言われようと、ダインは涼しい顔をしている。

 憑き物でも落ちたかのようなスッキリした表情だ。


「アルヴィス、私は君とは違う。私は、大公になんてなりたくなかったんだよ。だから私は逃げた。マスタング伯領の淫蕩の館へね。そしてメラルダに出会い、安らぎを得たんだよ」


 優しい顔でメラルダを見つめながら、優しく彼女の頭をなでている。


「当時は気づかなかったが、愛していたんだよ。だが若い私はそれに気づかず、ただ激情を彼女にぶつけていた。彼女は全て受け止めてくれた。そして私は少しだけ元気が出て政務に勤しんだわけだが、そのせいで彼女と会わない時間ができて、そのまま我々は分かたれてしまった」


 その当時のことを思い出したのか、話すうちに瞳に涙をたまり始めた。


「それからのことは全てがどうでもよくなったよ。もはや自分の意志を持つことすら億劫になり、君の指示に全て従うようになった。だが、ようやくメラルダと再び会うことができた。もう、君の言うがままにすることもないよ」


 そしてメラルダをぎゅっと抱きしめる。


「私にはもっと大事なことがある。これからは、そのために生きていくよ。誰に何と言われようとね」


 何か感じたのか、メラルダもダインを抱きしめ返していた。


 俺にとっては感動的な光景。

 だがアルヴィスにとっても目にするにもおぞましいものだったらしい。

 嫌悪感丸出しに、怒りに震えて言い放つ。


「貴様、貴族の誇りをなんだと思っている!?」


 だが、ダインは一切怯まない。


「言っただろう?誰に何と言われようと、とな。君に何を言われようと、もう、私の考えは変わらないよ。貴族の誇りだって、どうでもいいよ」


 その後もアルヴィスは罵倒し続けるが、ダインには全く意に介すことがなかった。

 そんな雑音など聞こえていないように、メラルダに話しかけている。

 そしてメラルダは意味をわかっていないだろうに、ダインにニコニコと笑い返している。


「アルヴィス、それくらいにしておいたらどうだい?」


 アルヴィスを止めたのはマーニャだった。


 ノヴァがなにか言おうとしていたようだが、マーニャが手で制している。

 より激しい罵倒の掛け合いになるだろうからと止めたのだろう。

 正しい判断だ。


「ダインはもう大公ではない。例えダインが何か発言したとしても、もはやここでは何の意味もないんだよ。君がさっき、言っていたようにね?」

「ぐっ…!」


 大公会議で議決権をもつのは大公本人だけ。

 ゆえにセティに立場をわきまえろと言ったのはアルヴィスだ。

 まさか自分に敵対する発言は禁止して味方する発言だけ許すとは言えまい。

 悔しそうに押し黙る。


「それに、すでに大勢は決している。それを理解できない君じゃないだろう?」


 アルヴィスはギリギリと歯ぎしりしながら周囲を見回す。


「僕が君に賛成するなんて思ってないだろうね?」


 ノヴァがいつもの冷笑を浮かべながらアルヴィスに言い放つ。

 本当は散々罵倒したいだろうに、これでもずいぶんと押さえているのだろう。

 自重してくれてよかった。


「私は別にノヴァの味方をするわけじゃないけどね。君の味方をすることもないよ。まあ、ソラの味方ならしてあげてもいいかな?」


 マーニャは片目をつぶりながら俺にそんなことを言ってくる。


「母上、そんな、年甲斐もなく…」

「セティ、次母上って呼んだら折檻だからね?」

「お母様…」

「それもダメ!」


 マーニャは俺の味方をしてくれるらしい。

 今まで通り、これからも。

 ありがとう。


 そしてみんなの視線が最後の大公に移っていく。


「私は先輩の護衛ですから。先輩の指示に従いますよ」

「か、カレン?」


 まさかの発言にびっくりした。

 大公になったのに、俺の護衛は続けると?


「え?もしかして私、クビですか?」


 だが逆にカレンは俺の不思議そうな声に驚いている。

 彼女は彼女で当然のように、今まで通り俺の護衛を続けるつもりだったらしい。


 さすがカレン。

 マイペースなのは変わらない。

 だったらまあ、そのままでいかせてもらおう。


「いや、とんでもない。カレンが俺の護衛なんて自分から辞めると思ってただけだよ」

「?先輩は変なことを言いますね?」


 カレンにとっては意外な回答だったらしい。


「先輩のうちに住めば美味しいご飯が食べられますし、楽しい人達もいっぱいです。それに先輩はトラブルメーカーだから一緒にいると楽しいことや不思議なことがいっぱい起きます」


 そしてメラルダとダインを少しだけ抱きしめる。


「先輩と一緒にいたから、こうやってお母さんとお父さんとも会うことができました。これからも楽しませてくださいね?期待してます」


 少しだけ、明らかに見てわかるほどに、微笑んでくれた。


「期待に答えられるかはわからないけど、頑張るよ。ありがとう」


 俺も笑いかける。


 だがそれもいっときだけ。

 すぐに表情を引き締め、向き直る。


 正面に立つのはアルヴィス。

 怒りで全身を震わせ、なんでこんなことが起きているのかわからないと言いたげに苦しげな表情をしている。


 そろそろ、終わりの時間だ。



 ---



「聞いたな?四大公家のうち一人は俺の盟友で、二人は俺の意志に賛同してくれるそうだ。お前が何を言おうが、もはや聞く者はいない。一対三。それでも、お前は何か言うことがあるのか?」


 もはやお前に勝機はない。

 お前は終わりだ。


 そう言い放つ。


「貴様、貴様…!」


 アルヴィスはもはや取り繕うこともせず、俺に憎しみの瞳を向けてくる。


「貴様、下民ごときが、誰に向かって口をきいている!?」


 頭に血が上って冷静な判断もできなくなっているのだろう。

 俺に対し、面と向かって下民と罵倒してきた。


 皇帝と同等の存在たる皇帝の兄に対する暴言。

 これだけで本来ならもう破滅だ。


 だが、そうはしない。

 こんなことでこいつを追い落としても、意味はない。


「ああ、俺は下民だよ」


 だから俺はアルヴィスの言葉を真正面から受け止める。


「魔法も使えない只人の分際で、初代皇帝に逆らった罪人の子孫。下民だよ」


 魔法を使えない人々

 臣民と下民


 この二つの差は単純だ。

 下民の祖先は、初代皇帝に逆らった者たち。


 神にも等しい初代皇帝

 下民はすべからくこの初代皇帝に逆らった者の末裔という、原罪を背負っている。


 だが


「だが、それがどうした?」


 そんな遠い祖先のことなんかで、今を生きる俺たちのことが決められてたまるもんか。


「なん、だと…!?」


 アルヴィスが怯む。

 初代皇帝に逆らうかのような俺の言動に、驚いたように。


 だけど別に、俺は初代皇帝に逆らっちゃあいない。


「初代皇帝は下民を子々孫々まで獣以下の扱いをしろなんて命令したか?してないだろう?」

「迫害しろって命令したのか?してないだろう?」

「下民を下民のままで縛り付け、獣以下に扱い、絶滅政策までとろうとしていたのは誰だ?」


 それは、初代皇帝ではない。


「それは、お前たち貴族至上主義者達だ。お前らが初代皇帝の意見だと、ありもしない命令を想像し、忖度したんだ。こんな、もはやでっちあげとも言っていいレベルでな!」


 もし初代皇帝の命令だったなら、プラナ公爵家の行動が許されるはずはない。

 裏から手を回して下民を助けるなど、神にも等しい初代皇帝なら見破られなかったはずはない。


 だが、何も言われることはなかった。

 黙認された。

 初代皇帝は下民を許すつもりもなければ、これ以上追いやる意志もなかったのだ。


 全て部下たちの好きなようにさせた。

 口を出さず、手も出さなかった。


 理由はわからない。

 興味がなかったのかもしれないし、他の理由があったかもしれない。

 真相は歴史の闇の中。


 だが事実として、初代皇帝自身が積極的に下民を迫害したことはなかった。

 下民を助けようとした貴族を罰することも、なかったのだ。


「俺は下民だ。で、それがどうした?」


 アルヴィスは何も言わない。

 何も言えない。


 やつが口にできることなど、もはやありはしない。

 勝敗は確定している。

 だが、最後まで言わせてもらおう。

 俺の言葉を。


「あと、俺はただの下民じゃない。下民であると同時に、貴族でもある」


 皇帝の兄

 サラによって生み出された、新しい階級

 皇帝と同等、もしくはそれに準ずる存在


 それが俺だ。


 当初、どんな存在なのか意味がわからなかった。

 だから混乱して卑屈になったり、逆に尊大になったりしたときもあった。

 偉そうに臣民と喧嘩をし、彼らを力で押さえつけようとしたこともある。


 でも、そんなことに意味がないことはもうわかった。

 俺がすべきことはそんなものではない。


 正直今でも皇帝の兄がどんなものかを理解したわけではない。

 ただ、貴族とは何かは理解した。


 それは、人のために何かをする力を持つ者。

 人のために何かをするべき者たち。


 それが俺の考える貴族

 俺が目指すべき、貴族の姿


 だから俺は、宣言する。


「俺は、下民にして貴族。下民貴族!」


 生まれが卑しかろうと、人々のために力を尽くしてみせる。

 自分ひとりの力ではできないことでも、みんなの力を借りて。


 皇帝も、大公も、貴族たちも、臣民も、下民も

 みんなみんな一緒になって

 力を合わせれば、できないことなんてありはしない。


「俺は下民貴族、ソラだ!!」


 俺の言葉の意味がわかったわけではないだろう。

 だが敗北は悟ったらしく、アルヴィスは膝をつく。


 大公家筆頭が、下民貴族の前に跪いた瞬間だ。


 そう、俺は下民貴族。

 下民でもあり貴族でもあり、でもそのどちらでもない。

 それが俺。


 そんな俺だからこそ、できることがある。

 みんなの力を借りて、必ず成し遂げてみせる。


 この世界をも、変えてみせる!



大公会議、終了です。

短い話を挟んで貴族編は終了し、次章に移る予定です。


この大公会議の内容は決まっていましたが、たどり着くまでには紆余曲折ありました。

それが私の力不足で迷走のような形になってしまい、申し訳ありませんでした。

もう少しで物語も終了となりますので、もうしばらくお付き合いいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 毎話楽しく読ませていただいてます。 ここでタイトル回収か! 次の章からは超階級社会に対する革命(力技ではないと思ってます)になっていくと思っていますが、 まだまだ下民-臣民-貴族の壁は厚いと…
[良い点]  いい大どんでん返しをするなぁと。 [一言]  感想を書くのを一度ストップして、半歩引いた位置と いいますか、全体が見える視点で読んでみたらやっぱり 面白いですね。  ちなみに私にはどの…
[一言] 最後の方、俺たちの戦いはこれからだ!って感じで終わっちゃうのかと思ってドキドキして読んでました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ