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83話 大公会議④

「あれがマーラ・クリマなんだねえ。君は面識が会ったのかい?」

「あ、ああ…」


 ノヴァは初見らしい。


「下民の街で、その、マーニャという名前で会ったことがあってだな…」


 謎の踊り子のことはノヴァには伝えてある。

 当然名前も。

 だからこれだけでノヴァは察してくれた。


「なるほどね。大貴族のご令嬢という予想だったけど、大公家当主だったとはね。これほどの大物はなかなかいないよ?」

「まあ、だろうな…」


 大公以上なんて皇帝ぐらいしか思い浮かばない。

 大物の中の大物だ。


「クリマ大公は病弱で臥せっているというのがクリマ大公家の公式見解だったけど、どうやら全然逆だったようだね?」


 ノヴァはセティに視線を向ける。

 セティはかわいそうに、力なくそれに答えてくれる。


「当主が大公会議はおろか戴冠式も参加を嫌がってるとはとても言えず…。そのような見解を出さざるをえなかったのです…」


 憔悴した顔の息子とは対照的に、母親は元気ハツラツだ。


「私は別に当主になんかなりたくなかったんだよ?だから力を隠して遊び歩いてたのに、親父殿が力づくで止めようとするから…。返り討ちにしちゃって、強制的に大公にさせられたんだよ。悲劇すぎる」


 一族最強が大公になるというルール。

 当時の当主を倒してしまったので、このルールに則って地位を引き継いだわけだ。

 俺には同情する部分は全く見受けられなかったが、本人にとっては悲劇らしい。


 だが当主になろうと自分の生活スタイルを一切変えなかったその女は、この大公会議でも自由に振る舞っている。


「さて、ここが私の席かな?いやー、大公会議なんて当主になった直後に一回だけ参加して以来だからねえ。場所もわからずたいへんだったよ」


 周りの視線などどこ吹く風。

 当たり前のように席に座り、大遅刻をしたとも思えないほど堂々と話し出す。


「暑苦しいアルヴィスに辛気臭いダイン。この二人だけ見ると参加したのを後悔したくなるね。でもノヴァ、君が可愛らしくて良かったよ。この中で唯一の目の保養だね」

「それはどうも」


 ノヴァは鼻で笑うように言葉を返す。

 だがそんな姿もマーニャに言わせれば


「生意気そうで可愛いねえ!」


 らしい。


「さて、それでは話を本題に戻そうか」


 自分で話をめちゃくちゃにしておいて、自分で元に戻す。

 めちゃくちゃだ。

 いや、ある意味正しいのか?


 他のメンバーはも色々思うところがあるだろう。

 様々な思いが交錯するが、それらが言葉として発せられる前にマーニャが口火を切る。


「ノヴァ・ガイアの終身蟄居だっけ?私、クリマ大公はこれに反対票を投じるよ」



 ---



 状況を整理しよう。


 ガイア大公家当主、ノヴァ・ガイア

 このノヴァを終身蟄居にし、帝城から追放して死ぬまで政に関われなくする。

 これが今回の大公会議の議題だ。


 これに賛成するのは二名。

 貴族至上主義者の二大巨頭

 アルヴィス・エトナにダイン・アテネ


 対して、これに反対するのはわずかに一名。

 ノヴァ・ガイア本人だけ。


 クリマ大公家からの参加者は当主ではなく代表であるセティ・クリマだった。

 ゆえに本人は反対であっても大公会議の議決権がなく、票を投じることができなかった。


 つまり二対一。

 賛成派が過半数となり、議題は通るはずだった。


 だがここで今までわずか一回しか大公会議に出席しなかったクリマ大公家当主が現れる。

 マーニャ、本名マーラ・クリマの登場だ。


 彼女が反対票を投じたことで、先程までの状況はひっくり返る。

 賛成と反対の票数は二対二の同数となるのだ。


 アルヴィスの思惑は大いに外れることとなり

 彼は、激高した。


「マーラ!貴様、皇帝陛下に楯突いたこの小僧を免罪するというのか!?貴様も不敬罪だぞ!!」


 だがマーニャは涼しい顔だ。


「それは事実と違うだろ?ノヴァが楯突いたのは君に対してだ。そのときたまたま近くに皇帝の兄、ソラがいた。そして彼は我々のように強くないから、危険な目に合う恐れがあった。だから皇帝陛下がご懸念され、ノヴァを誅した。これが事実だ」

「皇帝陛下のお手を煩わせたという事実は変わらん!!」

「それは事実だろうけど、陛下は晩餐会後になにかそれについて言及されたのかい?」

「…されてはいらっしゃらない」

「なら、陛下はお気になさっていないんじゃないかなあ?」

「陛下のお言葉を待っていてからでは遅い。先手先手で動くのが、我ら臣下の役目だ」

「陛下の大御心をでっちあげた、忖度合戦かい?それこそ陛下に対する不敬じゃないのかなあ?」

「でっちあげとはなんだ!!」


 アルヴィスは完全に怒髪天だ。

 外見も相まってとてつもなく恐ろしい。

 普通ならこんな怒りをぶつけられたら言葉も出ないだろう。


 だが、マーニャは全く気にしていない。

 親しげだったが、昔からの仲なのだろうか。

 もしかしたら同年代の幼馴染だったりすするのかもしれない。


「あの小僧の魔法を解き放っていたら、帝城が全壊していたのかもしれんのだぞ!?」

「それこそどうでもいいよ。結果的に何も起こってないじゃないか。うちらのご先祖様なんて喧嘩して帝城を実際に半壊させたのにお咎めなしだったんだよ?その前例を考えれば、半壊までだったら無罪だよ。ましてや未遂ならね」

「あのころとは時代が…!」


 二人のやり取りは続いている。


 セティは心配そうにオロオロしている。

 ダインは早く終わらないかなと言いたげにため息を付いている。

 ノヴァは面白いショーでも見ているように笑っている。


「あーもう、やめやめ!私は反対だったら反対なの!これでこの話はおしまい!」

「貴様…!」


 マーニャが無理やり話を終わらせる。


「そもそも大公会議ってのはそういうもんだろう?一人だけ反対だったら他の三人、もしくは二人で力づくで押さえ込めばいい。でも票が分かれたら一対一か二対二になってしまう。同数の大公同士が喧嘩したら、ご先祖様のときみたいにとんでもない被害が出る。だから同数の場合は無効!それがルール!違うかい!?」


 大公は皇帝に次ぐ力を持つ魔法使いたち。

 これが意味するのは、皇帝を除けば大公を押さえられるのは大公だけということ。

 ゆえに大公会議の投票とは、力づくの戦いを始める前に数の優位を確認し、戦いを省略するというものなのだった。


 この場合、この投票に意義を唱える場合は力づくしかない。

 だが


「私とノヴァ、君とダイン。戦ったらたぶん、私達が勝つよ?それでも、やるのかい?」

「…マーラぁ!!」


 アルヴィスが怒りで全身を震わせている。

 だが、おそらく戦いになることはないだろう。


「アルヴィス大公とマーニャさんはおそらく同じくらいの強さです。残りの二人ですが、ノヴァ大公の方が強いですね。だからマーニャさんの言葉は現実になると思います。そしてこの中でこれが理解できない人はいないと思います」


 カレンが俺にこう教えてくれた。


 投票で同数。

 戦っても勝てない。


 ならばアルヴィスに打つ手はない。

 おとなしく引き下がるしかないだろう。


「覚えておけ!貴様ら、絶対にこのままでは済まさんからな!!」


 俺たち全員を睥睨し、そう宣言する。


 これで派閥間の全面戦争が始める。

 そう予感せざるを得なかった。



 だが


「おいおい、アルヴィス?勝手に会議を終わらせないでくれたまえよ。せっかく私が参加したんだから、私からも議題を挙げさせてもらうよ」


 まだ、会議は終わっていなかったのだ。



 ---



「貴様が、議題だと?」


 アルヴィスは馬鹿にするような、いや心底馬鹿にした目でマーニャを見つめている。


「いったいどんなくだらん内容だ?さっさと言ってみろ」

「もちろん、すぐ言わせてもらうよ」


 何を言うつもりなんだろう?

 どんな議題だろうと、もはや票数二対二なのは動かない。

 これはもはや派閥間の対立である。

 どちらの意見も通らないのは明白だ。


 なのに、いったいどんな話を?


「でもその前に、ちょっと会ってみて欲しい人物がいてね。特にダイン、君にだよ」

「…私?」


 突然声をかけられたダインがつぶやく。

 だが別に表情が変わったわけではない。

 相変わらずどうでもよさげに、面倒そうな声だけ発した。


「そんなつまらなさそうな顔をしないでくれよ」


 対するマーニャはずいぶん嬉しそうだ。


「久々のご対面なんだからさ」


 そう言うと扉が開かれた。


 車椅子が押されてくる。

 そこに座っているのは一人の老女。

 目の焦点があっておらず、何かをぶつぶつ呟いている。

 正気でないのは明らかだ。


「貴様、下民をこの神聖なる大公会議の会議場に…!」


 アルヴィスが怒りに満ちた声を出す。

 そう、この老女は下民だ。


 俺は雰囲気で察したが、アルヴィスにも何か察するところがあったのだろうか?

 いや、こいつにとっては下民も臣民も同じなのかもしれない。

 どちらも等しく、どうでもいいのだ。


 だが、そんなアルヴィスの反応こそどうでもいい。


 それほどまでに、ダインの反応が劇的だったのだ。


「メラルダ!?」


 さっきまでささやくような声しか出さなかったダイン

 こんな大声を出せるのかと驚いた。


「すまない!すまない!許してくれなどと言える立場でないのはわかっている!だが本当に、本当に、すまなかった!!」


 椅子を蹴飛ばして老女に駆け寄る。

 必死で謝りながら、抱きしめていた。


 みなが呆然とその光景を見ていた。

 アルヴィスも一体何が起きたのかと目を見開いている。


 そして、このメラルダに反応する者がもうひとり。


「おかあ、さん?」


 カレン。

 呆然と、目から涙をポロポロ流しながら、そう呟いていた。


 そして気づいた。

 メラルダがぶつぶつ呟いているのは意味のない言葉でないことに。


「ダイン。ダイン。どこにいるの?どこに行ってしまったの?」

「カレン。カレン。私のかわいいカレン。私の宝物。ずっと一緒よ、ずっとずっと」


 彼女は、二人に語りかけているのだ。

 正気を失おうと、ずっとずっと、懸命に。


 視線をマーニャに移すと、彼女は満足そうに笑っていた。


「言っただろ?もうすぐ実の両親に会えるって」




早めにかけたので明日を待たず更新いたします。

貴族編もクライマックス。楽しんでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] え・・・ということはカレンとダインって・・!
[良い点] わーお...クッソ楽しい展開にワクワクが止まらない!! [気になる点] 序盤のマーニャのセリフ 「公開したくなるね」→「後悔したくなるね」 [一言] 94話の感想を書いてたら続きが出てて嬉…
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