74話 プラナ家
「商会をつくったのは我が公爵家の始祖でしてね。ご存知の通り当時は今よりも下民に対する風当たりは強く、貴族が商売をするだけでもあれなのに下民も商売相手にするのはさすがに…と少々名前を変えたそうなのですよ。ほとんど一緒に思うんですけどね」
公爵でありながら下民を右腕とする男。
下民も臣民も魔法使いも関係なく、平等に商売をする男。
これこそプラナ公爵にしてプラン商会会頭、ザウル・プラナだ。
「初代皇帝陛下の時代から…。陛下はご自身に逆らった者達を下民とし、人以下の扱いをすることに決められた御方なのに…」
貴族はもちろん、魔法使いなら誰でも知っている建国史だ。
太古の昔、魔法使いとそうでない者の間で争いが起きた。
前者の指導者こそ、初代皇帝。
史上最大最強と讃えられる魔力でもって、己に逆らった者共を圧倒した。
全人口の1%にも満たない魔法使いが世界を支配する時代の始まりだ。
このとき魔法使いは当然全員が初代皇帝に従い、貴族となった。
そして初代皇帝に従った魔法使いでない人間は、臣民となった。
では初代皇帝に逆らった人間は?
当然、報いを受けた。
当然、罰せられた。
彼らは、人でありながら人でなくなったのだ。
偉大なる魔法使いに、初代皇帝に歯向かった人間以下の存在。
それこそ、下民。
人の形をした獣。
言葉を解する獣。
それが、下民なのだ。
当時の状況を指して今よりも風当たりが強いとは、ずいぶん優しい表現だ。
当時は下民に対する絶滅政策が行われていた。
数が多いから図に乗るのだと、下民の数は十分の一以下に減らされたという。
「もちろん多少名前を変えた程度では初代皇帝陛下のお目はごまかせなかったようです。ですが笑って許してくださったそうですよ。まあ、許していただけなければ我が一族は始祖の代で滅んでいるわけですが。はっはっは!」
ここは笑うところなのだろうか?
エメラルドもミネルバも、もちろんカレンも一切笑っておらず、俺もとても笑えなかった。
神にも等しい初代皇帝の不興を買うリスクを背負ってまで、なぜ彼らはこんな商売を始めたのだろう?
「我が一族がそこまで商売にこだわる理由が、気になりますか?」
ザウルはまたも俺の心を読んだかのように話してくる。
「…もちろん。気にならないはずがないでしょう?」
心を読んだわけではないことはわかっている。
こんなことを聞けば、誰でも気になるのは当然だ。
「理由は2つありまして、一つ目は単純です。我が一族の者は、なぜか商売が大好きなのですよ。そして幸運にも商売の才能があった。となると、やらない理由がないでしょう?」
無邪気な笑顔だった。
まるで大好きなものを紹介する子供のように。
「そして二つ目。こちらは少々複雑でして、なんというか、しがらみですな」
「しがらみ?」
「ええ、しがらみです」
ザウルは苦笑していた。
それは彼が初めて見せる表情だった。
「初代皇帝陛下が決起されるまで、我が始祖は実は下民よりの立場だったのですよ」
衝撃的すぎて、二の句が継げなかった。
「ですが初代皇帝陛下に逆らうなど愚の骨頂。始祖はあっさり軍門に下りました。そして力を認められ、公爵という地位を賜った。かつて親しい立場だった下民達が殲滅対象になり獣以下の扱いとなっていたのとは対称的に、栄華を極めたわけです」
ザウルは、公爵と会頭の二つの顔をもつ男は、そのどちらでもない顔で遠くを見ていた。
「だから、罪悪感があったのでしょうな。商売を始めたのは好きだったからでしょうが、危険を犯してまで下民も客として扱うことにしました。公爵とつながっている商会の商売相手なら、手は出しにくい。そうやって間接的に、少しでも下民を守ろうとしたのです」
遠い祖先を憐れむ子孫
それはまるで、父を憐れむ息子
「それが、しがらみです。そしてそのしがらみに、我がプラナ家は縛られているのですよ」
そんな顔を、していたのだった。
また明日更新いたします。




