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73話 プラナ公爵領

 公爵。

 それは大公に次ぐ貴族の位。


 これを「大公より格下」というのは間違っている。

 正しくは「大公を除く全ての貴族の上に位置している」と言うべきだ。


 大公は初代皇帝の時代から同じ一族が受け継いでいる。

 増えることも減ることもない、貴族社会の例外だ。


 だが公爵家は違う。

 オスカルのように一代で成り上がる者がいれば、ミネルバの実家のように格下げされる家もある。

 貴族の中でも最も力を持つ魔法使いだけに許された地位。

 貴族社会における頂点。

 それが公爵家だ。


 ゆえに当主は実力者ばかり。

 晩餐会で起きたノヴァとアルヴィスの諍いでも、公爵達は全く怯んでなどいなかった。


 もちろん彼らとて、大公と直接戦えば勝てはしないだろう。

 だが大公同士の戦いの巻き添え程度を恐れる必要はない。

 そういった自信が、彼らからは感じられた。


 例えば帝城の防衛も司るリズラン公爵。

 外見通りおとなしい性格だが、その防衛魔法の実力は貴族随一。

 ノヴァでも、リズラン公爵が全力で防衛に徹したら仕留めきれるかはわからないそうだ。


 例えば皇帝親衛隊隊長、オスカル。

 大公に次ぐ実力者。

 いや、大公に匹敵する魔法使い。

 唯我独尊の大公たちですら一対一の争いを避ける、強力な魔法使いだ。


 そしてプラナ公爵。

 人の良さそうな外見だったが、もちろん彼の実力も折り紙付き。

 本人の実力もさることながら、プラナ家は初代皇帝時代から公爵の地位を守り続ける名門。

 しかも貴族随一の資産家。


 派閥になど今まで興味を示すことなどなく、派閥に入る必要もなかった大貴族

 そんな彼が、俺達の派閥、貴族連合に加盟した。


 下民の街を自領に作ろうと、別にうちの派閥に入る義務はない。

 だがあえて彼は派閥に加盟した。

 あの晩餐会の場で。

 アルヴィスの目の前で。


 その理由は今日ここでわかるのだろうか。

 プラナ公爵のお膝元、このプラナ公爵領で。



 ---



「ようこそお越しくださいました!一族を代表し、感謝申し上げます!」


 プラナ公爵自らが城の前で待っていてくれ、大歓迎してくれた。

 どうぞどうぞと俺たちは彼の居城に案内されていく。


 公爵の住む城の規模は俺やノヴァの城よりも規模は劣っていた。

 だが内部の調度品は俺でもわかるぐらいに金がかかっている。


 城の廊下の窓から見える街の規模は、うちの領地の領都ベクタと同程度。

 だが建物の大きさや住民の数は間違いなくこちらが上。

 その繁栄ぶりが見て取れる。


 自分よりも上位の者よりを上回らないよう外見上は自重しているが、内実は凌駕する。

 中を詳細に調べなければ気づかれないわけないし、これなら何か指摘されても言い訳のしようはいくらでもあるだろう。

 さすが公爵の地位を守り続けてるだけのことはある。

 家を守る防衛も抜かりない。


 エメラルドも同じ感想らしく、素直に感嘆している。


「プラナ公爵家の噂は聞いていたが…。聞きしに勝るとはこのことだな」


 ミネルバは素直に感心していた。


「バレス家の領都よりも遥かに発展されてますのね!さすがプラナ公爵家ですわ!」


 目をキラキラさせて街を眺めている。

 そんなミネルバを見ながらプラナ公爵もニコニコ笑っている。


「とんでもございません。ミネルバ殿の曽祖父の妹君が私の祖母でしてね。バレス家から色々文化を持ってきてくれたそうですよ」

「もちろん存じ上げておりますわ!大好きな叔母様だったとお祖父様がおっしゃってましたわ」

「そうなのですね。私にとっても優しくて大好きな祖母でしたよ」


 血縁関係があったとは。

 さすが貴族同士。


 ちなみに今日は俺とエメラルドとミネルバとカレンの四人で来ている。

 俺とエメラルドはそこそこ会話をしている。

 ミネルバ嬉しそうに公爵と会話している。

 カレンは一言も発さず、興味なさげに俺の後ろについてきていた。


 そうこうするうちに応接室に通された。

 椅子に腰掛け、改めて公爵と向かい合う。


「改めまして、プラナ公爵家当主、ザウル・プラナでございます。殿下の派閥、貴族連合への加盟をご許可いただき、心から御礼申し上げます」


 そういってプラナ公爵は頭を下げてきた。

 お礼を言われるようなことではないと、頭を上げるように伝える。

 むしろこっちが入ってくれたことにお礼を言いたいぐらいなのだから。


 そんな俺の言葉を聞いて、プラナ公爵は笑いながら言ってきた。


「殿下は謙虚でいらっしゃいますな」

「名門公爵家にして貴族随一の資産家、プラナ公爵が派閥に入ってくれるのですから、むしろ当然の反応ですよ」


 謙虚ではなく、当然の反応だと思う。


「とんでもございません。私からすると殿下はたいへん謙虚でいらっしゃいます。まあ、そんな殿下だから私はお力になりたいと思ったのですがね」

「力に、ですか?」

「はい。ぜひにと」


 プラナ公爵の笑みが深くなる。


「下民の街の発想、我々も構想はありましたがあそこまでは考えておりませんでした。下民の力を活用して領地全体の繁栄を底上げし、さらに既存の市民や臣民の街との共生。実に見事なものです」


 下民は今までは野生の獣同然であり、臣民の街で奴隷として扱われている程度だった。

 それが下民の街がつくられることによって産業の担い手となった。

 ただの獣が税を納める立場になったのだ。

 当然領主にとっては利益しかない。


 だがこれだけでは領地全体のためにはならない。

 現に当初パラディスは周辺の街の既得権に手を出し、襲撃されるまでになってしまった。

 あのときは一応解決したが、あんな争いを毎回繰り返すわけにはいかない。

 当然、共生のために周辺都市を補完するような産業を起こすことになったのだ。


 周辺都市との軋轢を避けるための処置だったが、結果的にこれが領地全体にとって都合が良かった。

 産業を補完しあい、街同士が支え合う関係ができた。

 それが領地全体を底上げすることになったわけだ。


 別に計算したわけでなく、結果的にこうなってだけである。

 褒められるようなことではない。

 実際、大失敗しかかったわけだし。


 それを伝えたが、プラナ公爵は意見を曲げない。


「だから殿下は謙虚でいらっしゃると言っているのですよ。終わりよければ全てよし、過程がどうあれ結果が良ければたいていの者はその成功を自慢げに話すでしょう。ですが殿下は違う。その謙虚さが、殿下の美徳なのでしょうな」


 褒められすぎてむずかゆくなってくる。

 だがこれ以上否定するのもあれだしと悩んでいると、公爵から話題を変えてきてくれた。


「ではそろそろ、我が領地の下民の街を見ていただきましょうか」


 公爵がつくったという下民の街

 俺達が関わっていない、初めての下民の街


「もちろん!」


 即答する。

 これを見るために来たのだから当然だ。



 ---



「ほとんど同じ、ですわね」


 プラナ公爵に連れてこられた下民の街

 そこはミネルバの言う通り、他の下民の街とほとんど同じだった。


「街なんかどこも同じでは?」と思うかもしれない。

 だが実際は俺達なりに下民の街には色んな工夫をしてあった。

 そういった工夫が、このプラナ公爵領の下民の街にも全部取り入れてあったのだ。


 噂話程度で聞いたのとはわけが違う。

 詳細を見聞きしていなければできないほどの出来栄えだ。


「ミネルバ殿にそう言っていただけるとは光栄ですね。殿下の目から見てはいかがでしょう?我が領地の下民の街は、殿下のお眼鏡にかないましたでしょうか?」


 俺はそれに、頷くことしかできなかった。


「それは何よりです」


 プラナ公爵の笑みは深いまま。 

 この公爵は俺達のスパイをしていたのだろうか?

 そんな疑問が湧いて出る。


 だが、公爵は俺の心を読んだかのように首を振る。


「スパイなどはしておりませんよ。種明かしをすれば簡単なことです。ジャック!」


 公爵が人の名前を呼ぶ。

 すると建物の影から人が現れた。


「はい」


 その声は聞いたことがある声だった。

 もちろん、その顔も。


「お久しゅうございます、殿下。プラン商会番頭、ジャックにございます」


 そういえば名前は初めて聞いた。

 ジャックという名前だったのか。


 公爵の方に向き直ると、実に爽やかな笑顔で笑っていた。


「公爵とは別に、商いもしておりましてね。プラン商会会長、ザウルにございます」


 俺達がつくった下民の街。

 その活動を初期の初期から支えてくれていたプラン商会


 そのトップとの、初めての出会いだった。



次回は来週末の更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気候風土も近いんか?でないと建物の傷みやすさとか 過ごし易さにキツイ差が出かねないんだが(目反らし
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