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71話 収穫

「怪我はありませんか?吐き気や頭痛、痛いところがあったら教えて下さいね?」


 サラはそんなことを言いながら俺のあちこちを触る。

 触った箇所が光ったり温かくなったりする。

 どうも魔法をかけてくれているようだ。


「大丈夫そうですね!」


 自分ではよくわからないが大丈夫だったらしい。

 サラは満足そうに頷いた後、カレンの方に顔を向ける。


「兄さんのこと、ちゃんと守ってくれましたね。ご苦労さまでした」

「い、いえ。それが私の任務ですので」

「謙遜しなくていいですよ。ちゃんと任務を果たすことは素晴らしいことです」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。あなたは今から子爵です。これからもよく励んでください」

「は、はい!」


 あっという間にカレンは騎士から子爵へと昇格した。

 男爵を飛び越えていきなり子爵。

 爵位がまるで子供に与えるおもちゃのように見えてしまう。

 皇帝にしか、サラにしかできない芸当だ。


 周囲の貴族たちも圧倒されているかと思いきや、そうではない。


 貴族たちは誰もが跪いてる。

 まるで頭と両肩に重りでも載せられているように、無理やり膝をつかされている感じだ。


 ノヴァもアルヴィスも例外なく、地べたに這いつくばっている。

 例外は、俺とカレンぐらいだ。


「サラ、これって…」


 周りを見渡して、「いったい何が起きてるの?」と聞いてみる。

 それに対し、サラはいつもの明るい笑顔で答えてくれた。


「兄さんに危険がないように、動けないようにしちゃいました。この二人だけでもよかったんですけど…。万が一があるといけませんので、兄さんと、その護衛のカレン以外はみんな止まってもらいました」


 重力でも操っているのだろうか?


 だが俺とカレンには影響がない。

 もちろんテーブルなど無機物にも影響を与えてはいない。

 特定の人間だけを、的確に抑え込んでいる。


 これが魔法

 皇帝の魔法


 貴族の序列なんて関係ない

 比較することがバカバカしくなる


 大公だろうが騎士だろうが意味はない。

 皇帝を前にしては、どんな大貴族だろうと下民であろうと、跪くしかないのだ。


「もしかして兄さん、肩が重かったりしますか?大丈夫ですか?」


 皇帝の兄

 ただその一つの例外を除いて。


「いや、大丈夫だよ」


 心配そうに俺の顔を覗き込み、肩を触ってくるサラ

 そんな妹の両肩をそっと押し、問題ないことをアピールする。


「ならよかったです!」


 天真爛漫な笑顔

 いつもと変わらない笑顔


 だが周囲では貴族たちが跪いている。


 ある者は苦悶の表情を浮かべながら

 またある者はガクガクと震えながら

 そしてまたある者は引きつった笑顔を浮かべながら


 この世界の支配者に、頭を垂れていたのだった。



 ---



 その後、俺の取りなしもありサラは魔法を解いてくれた。


 そして解放された貴族たちは口々に皇帝を讃える。

 中には皇帝が自らに直接魔法をかけたことに対する感謝を口にする者すらいた。


 全く理解できない

 とは、言えなかった。


 皇帝とはそれほど圧倒的な存在。

 視線を向けられただけでも自分は特別なのではないかと勘違いさせてしまう、超常的な存在なのだ。

 ましてやそれが自分に魔法をかけたりしたら?

 何かご利益があると考えてもおかしくはない。


 下民の頃、魔法を見たら幸せになれるという話を聞いたことがある。

 下民にとって魔法は超常的なものだから。

 それほど非日常的なものだから、そんな話が出回ったのだろう。


 皇帝とは、存在そのものが全てを超越している。

 ゆえに、崇められる。


 その力を目の前で見て、初めて俺はそれを知ったのだった。


「では兄さん、また後で」


 俺に笑顔を向けながら手を降ってくる妹であるサラ

 貴族に傅かれる全知全能なる皇帝であるサラ


 俺がその両者にできるのは、ただ笑顔で手を振り返すことだけだった。



 ---



「すまなかったね。君のおかげで命拾いしたようだ」


 サラが戻ったあと、ノヴァが声をかけていた。

 肩を気にしており、まだ本調子ではなさそうだ。


「君が取りなしてくれていなかったら、僕は”皇帝の兄”を害そうとした者と判断されていただろう。そしたら今頃、僕の命はなかっただろうね」


 ノヴァを裁くのはアルヴィス

 のはずもなく、執行者がいるとすればそれは皇帝以外にありえない。


「いやでも、サラがお前を殺すって?そんなまさか…」


 そんなことはあるはずない。

 そう言いたかったが、ノヴァはそれを否定する。


「僕にはそうは思えないね。先程の陛下の魔法。あれを受けて喜んでる馬鹿達がいるようだが、とんでもないことだよ。陛下があとほんの少し、それこそ指先一つ分でも押し込めば、この場にいる全員が死んでいてもおかしくなかった」

「な…」

「もはや恐怖を感じるなんてものじゃないよ。尊崇の念を抱くしかないね」


 俺には魔法がわからない。

 だからノヴァの言うことが真実かどうかはわからない。


 思わずカレンの方に顔を向ける。

 カレンは何も言わずに頷いた。

 彼女も、ノヴァと同意見らしい。

 だったら、俺も信じるしかないだろう。


「カレンがいるから君に影響がないことはわかっていたとはいえ、軽率だったよ。陛下がどうご判断するかを考えるべきだった。僕のミスだ。たかが親のことを言われたぐらいで頭に血が上るとは、我ながら情けないよ」


 親のこと

 親殺し、とアルヴィスに呼ばれたことだろう。


「何か言いたそうだから先に言ってあげるよ。父親のことはおおむね事実さ。でも僕を殺そうとしてきたやつを返り討ちにして何が問題なんだい?文句を言われる筋合いはないよ」

「そ、そうか…」


 父親が自分を殺そうとしてきて、返り討ちにした。

 無関係な俺に口を挟めることではなかった。


「ただ母親のことはね…」


 母親

 俺は自分の父も母も知らない。

 ノヴァの母親はどんな人なんだろう?


「あいつはあんなことを言ったが、僕は母親の行方とは無関係だよ。そもそも僕は母親の顔を知らない。会ったこともないんだ」


 ノヴァは母親の顔を知らなかった。

 俺とノヴァにこんな共通点があったことに、ちょっとだけ驚く。


「父親はクズだし、一族の者たちもクズばかり。だから僕はきっと、自分でも知らず知らずのうちに顔も見たこともない母親に幻想を抱いていたのかもしれないね。だからアルヴィスごときに貶されて、その幻想に泥を塗られ、怒ってしまったんだろうさ。まったく、本当に人間は自分の見たい現実しか見ないね。しっかり自省しないとな」


 たしかに俺も、顔も知らない両親を貶されたら怒るだろう。

 言われるまで気づきもしなかったし、いざ起きても理由はわからなかったかもしれない。


 それを淡々と自己分析できるノヴァはさすがと言おうか。

 転んでもただでは起きない。


「アルヴィス、自分じゃ僕に歯が立たないからって陛下をけしかけるような真似をするとはね。最低のクソ野郎だけど、少しは頭を使ってるようじゃないか」


 すでにアルヴィスはこの場を去っている。

 ダイン大公をはじめ、自分の派閥の貴族たちに囲まれながら笑顔で何かを話していた。


 対するこちらは閑散としている。

 皇帝の寵愛を受けるものと、皇帝に誅されかかったもの

 この二人が一緒にいるのだから仕方がない。

 周りもどのように対応すればいいかわからないだろう。


 と思ったが


「先程は申し訳ございませんでした」


 声の主は一年前ぶりの人物。

 帝城の結界を司る名門、リズラン公爵だ。


「結界には当然大公同士の闘いも考慮にいれておりました、そのために補助の魔法陣やら何やらも準備しておりました。ただノヴァ大公の魔力はなかなか強大でおさえがたく…。申し訳ございませんでした」


 さっきのことを謝ってくれているらしい。

 当の本人は隣で偉そうに「気にしないほうがいいよ。僕の魔力を君の結界で抑えつけるのは不可能だし」とか言っている。

 なんてやつだ。


 しかし大公同士の闘いは考慮に入れて当然か…。

 物騒な話である。


 恐縮しきりのリズラン公爵に「気にしないでください」と何度も伝える。

 今後も俺と俺の仲間たちは自由に帝城と地上を行き来できる確約をもらえたので、むしろラッキーだったかもしれない。


 リズラン公爵が去ると、また一年ぶりの人物が現れる。


「お久しゅうございます、殿下!」

「プラナ公爵ですね。お久しぶりです」

「おお!私のことを覚えててくださって光栄にございます!」


 さすがに挨拶してくれた大貴族の顔は覚えている。

 この晩餐会ぐらいでしか会わないが、忘れるなどという失礼なことをしてはサラの兄として申し訳なくなってしまう。

 努力の成果だ。


「では私がお伝えしておりました話も覚えておいででしょうか?」


 話?

 そういえばプラナ公爵は前回変なことを言っていた。


「深い話、でしたっけ?」

「おお、まさか覚えておいでとは!」


 すごい嬉しそうだ。

 いったいどうしたんだろう?


「ただ実はあのときお話したかった案件はもうよくて、今は別件でより深い話をしとうございまして!」

「は、はあ」


 プラナ公爵は目を爛々と輝かせている。

 ちょっと怖い。


 ノヴァも気にしているようだ。

 たしかプラナ公爵は貴族でも屈指の大資産家とのことで、可能なら派閥に引き入れたいとか言ってたような。

 きっかけがあったら派閥の話をしたいのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、プラナ公爵が口を開く。

 果たしてその内容は


「実は我が領地にも下民の街を作り始めておりましてな!」


 とてもとても、意外なものだった。


「ただどうも私の手際が悪いのか、殿下ほどうまくは運営できておりませなんで…。ぜひご指導賜りたいと考えております!」


 指導の要請。

 それは、事実上の派閥への加盟申請。


「公爵がお望みなら、うちの精鋭を派遣させていただくよ?」

「おお、大公閣下が太鼓判を押される方たちを派遣いただけるとは!ありがたき幸せ!」


 当然、ノヴァは話に乗ってくる。

 そして二人の話は盛り上がっていった。


 こうして、今年の夏季休暇前晩餐会は終りを迎える。



 収穫は二つ。

 一つ目は、サラの力を目の前で見たこと。

 皇帝の力とは如何なるものかを、初めて俺は理解した。


 二つ目は、うちの派閥への公爵の加盟。

 今までの停滞を打ち破る衝撃を、彼は与えてくれた。


 あと付け加えるならば、ちょっと弱気なノヴァの姿だろうか?


 秋の収穫の前に、ずいぶん色んな収穫が得られたものだ。



キリのいいところまで更新させていただきます。次回更新は週末以降になる予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ぽんっ! はい子爵!  即断即決?! [一言]  誰も抗する事のできない存在。  しかしそれを御する事ができる唯一の存在。  ソラの存在がより重要になって来る予感。
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