68話 商人
毎週様々な領地に行っては新たな街をつくりあげていく。
「はい。完成です」
「お、お見事です…!」
最近はカレンも街づくりの魔法を覚えて手伝ってくれる。
ユキが教えたのだが、あっという間に自分に匹敵する術者になって本人は複雑そうだ。
「私の、唯一の取り柄が…」
そんなふうに落ち込んでしまっている。
ユキはこの中で一番明るくて朗らかで、いいところはいっぱいある。
それだけが取り柄なんてとんでもない。
俺がそんなことを言うより先にカレンがフォローしていた。
「ユキさんにはまだまだ及びませんよ」
「え?そ、そうですかね?」
「はい。つくりあげる街の規模、そしてスピード。これらはすでに私のほうが上です」
「うぅぅぅ…」
フォロー?
「でも建造物の品質はまだ私のほうが劣っています」
「そう、ですかね?ほとんど同じように見えますけど…」
「いえ、私のほうが劣っています。今はほぼ同等の見た目ですが、年月を重ねれば結果はわかるでしょう。さすがユキさんです」
「そ、そうですか?そうですよね?えへへ!」
フォローだった。よかった。
「そしてノヴァさんも言ってましたが、やはり土ですね。これはユキさんが最高クラスの使い手です。お見事です。私も精進します」
「そうですよね!土には自信があるんです!私も負けませんからね!」
ユキが大喜びだ。
よかったよかった。
何はともあれ街は出来たのであとは入植だ。
入植準備はセリスがすでに完了している。
別件があるため今日はここに来ていない。
すごい謝ってくれたが、セリスは忙しいからしょうがない。
よくやってくれてありがとうと伝えておいた。
すでに物資の手配も完了しているようで、どんどん運び込まれ始めた。
ここまで準備してくれてるのだからさすがだ。
「これはこれは殿下。いつも我がプラン商会をご贔屓にいただき、ありがとうございます」
プラン商会
パラディスの頃から下民の街関連、俺達のこの活動を全面的に支えてくれている商会だ。
俺は知らなかったが、世界でもトップの商会らしい。
そりゃ物資も大量にもっててどの領地にもすぐ来てくれるわけだ。
よく下民なんかを助けてくれるもんだ。
他にいくらでも儲け話なんてあるだろうに。
「そんなことはございませんよ?」
「え?」
まるで俺の心を読んだかのような発言にビクッとした。
「魔法使い様でも心を読むことなどできないでしょうに、私ごときにはとてもとても。ただ我ら商人はですね、たまにあるのですよ。お客様が感じられたり考えられたりしていることがふとわかってしまうことが。商人の勘、というやつでございます」
「な、なるほど」
そういうものなのか?
まあ、そういうものなのだろう。
「それで殿下の疑問でございますね。この下民の街の商い、我ら商会はとても儲けさせていただいております」
「本当に?この物資、たしかに安くはないけど輸送費などを考えたら当然という価格で、ほとんど儲けはないように思えるけど?」
「殿下が聡い御方で我々も助かります。価値というものをわかっていらっしゃる。これで高く売りつけてるなどと思われていましたら、我々たいへんなことになっておりました」
男はニンマリ笑う。
「ただ、それは今だけのことです」
「今だけ?」
「はい。ここに新たな街ができれば、ここで人の営みが発生します。そうなればここと他の街々を結ぶ流通ルートが確定し、物資の輸送は効率化されるでしょう。そこで安くなった価格はどうなりますか?」
「商会の、利益になるな」
「いかにもでございます。そしてここの住民の方々が他の街にモノを売る際、直接売られたりすると思いますか?」
「商人を、介するだろうな」
「ご推察どおりでございます。我々が仲介し、仲介手数料をいただきます。そしてみなさんがその商売で豊かになり、それを元手に様々な商品を購入される。どちらから買われますでしょうか?」
「商会、だろうな」
「そのとおりでございます」
利益ゼロで物資を納入
だがそれからは効率化により利幅をとる
そして街の住人の仲介業者となりマージン収入をいただく
最後は街の住人たちを客にしてしまい、さらなる利益を得ていくわけだ
街ができればできるほど儲かるわけか
さすが商人
「納得したよ。でも、そんなこと俺に教えていいの?」
値切られたりするかもしれないだろうに。
「殿下はそのうちお気づきになりましたでしょうし。周囲の皆様方も察しておられるでしょう。それより我々が慈善団体ではなく利益集団であることを再度理解いただくことが重要だと考えました。今後も末永く、お互いのために付き合っていきたいですので」
「なるほどね」
お互い持ちつ持たれつというわけか。
それなら裏をかかれないかという心配もないし安心だ。
まあ、皇帝の兄の裏をかこうなんてあまりしないと思うけど。
「それにですね」
終わりかと思ったが、何か付け足しがあったようだ。
「個人的にも応援したいのです、殿下のご活動」
「個人的に?」
なんで?
「私、プラン商会で番頭などという大層な地位を任せていただいておりますが、本来はこんな地位をいただけるような生まれではございませんでした」
生まれ
この言葉で、察した
「私も、もともとは下民でございました。会長に見出していただき、このような過分な地位をいただいております」
下民
ここにも下民がいた
「本来ならスラムのゴミの中で生まれてゴミの中で死んでいくはずだった我が身。スラムから出られた時、一生かつての同胞たちとは関わることなどないとは思っておりましたが、まさか再び縁があるとは…。しかも助けることができるとは、想像もできませんでした」
「目を背けていたのです、己の過去と」
そんなふうに、番頭は呟いた。
「殿下のおかげで罪滅ぼしができた気分です。本当にありがとうございます」
手が差し伸べられる。
俺はもちろんその手を握り返す。
それは働き者の、とても良い手のひらだった。
---
「私達以外にも、活躍してる下民はいるんですね…!」
後日、セリスに番頭の話をした。
彼女は目を輝かせて俺の話を聞き、やる気に満ち満ちていた。
「これからは、プラン商会との連携をもっともっと密にして参ります…!」
そんなことも言っていた。
別に悪いことではないはずなのだが、何故か俺はこの発言に違和感があった。
セリスは頭がいいが純真だ。
何か騙されてるかもしれない。
そう思った俺は、頭がよくて邪悪な人物に相談することにした。
「さすが世界に冠たるプラン商会の番頭じゃないか」
ノヴァが口元に皮肉げな笑みを浮かべながら番頭を褒めている。
これで確信した。
番頭の発言にはやはり裏があると。
「彼の経歴は調べたことがある。正真正銘の下民さ」
…調べたことあるんだ。
「当然だろ?それなりに重要な仕事を任せるんだ。裏取りしないやつの方が、僕には信じられないね」
「まあ、なんというか、さすがだよ」
「お褒めに預かり光栄だね」
ノヴァはニヤリと笑った。
「君も早くそうなりたまえよ」と言っている感じだ。
「そういうわけで、彼の言葉に嘘はない。発言内容も本心だろうさ」
「じゃあ別に…」
「嘘ではなく、本心だからこそ、効果は大きい」
ノヴァの目に真剣なものが宿る。
ここからが本題か。
「人は己の見たいものだけを見るんだよ。下民から立身出世し、世界最大の商会の番頭にまで登り詰めた男。彼女、セリスからすれば羨望の的だろうね。君にしても下民出身の同胞が活躍してるのは嬉しいだろう?二人ともそこばかりに目が行く。己の見たいものだけを見る」
「そこだけを見て、他には目がいかない…」
「気づいたようだね。そのとおりさ。同胞意識で君たちの目はくらみ、プラン商会との結びつきは強くなる。そしてかの商会は莫大な利益を得続ける。君たちが彼らを優先することで競争相手もない独占的な市場で悠々と利ざやを稼ぐわけだ。”下民のため”という君たちが大好きな大義名分のもとでね」
ノヴァの言うとおりだ。
返す言葉もない。
俺もすっかり飲まれていた。
セリスの違和感がなければこのままプラン商会に全てを任せていたかも知れない。
危ないところだった…。
「少しプラン商会以外の商人もいれるようにするよ」
「それがいい。ただセリスの機嫌を損ねないように注意してくれよ?彼女は優秀だ。ショックで落ち込んだりしたら各方面に支障がでる」
「りょ、了解」
まさかノヴァがそこまでセリスを買っているとは。
ちょっと驚いた。
「僕は別に誰でも平等に評価するよ?僕にとっては皇帝陛下以外の全てが等しくどうでもいいからね。別に贔屓する意味がないのさ」
こいつにとっては俺もサラの兄である以外には意味がないんだろうな。
まあ、そのほうがやりやすい。
「最近は君やカレンのように面白い存在にも出会えてはいるがね。それでも、皇帝陛下の魅力の前では意味がないよ」
意外。
ちょっとだけ、評価が上がっていたようだ。
セリスにはプラン商会に問題が起きたときのリスクヘッジとして、他の商人も使うよう進言しておいた。
賢い彼女ならきっとそのうち自分でも気づいてくれるだろう。
そんなこんなで意外と忙しい日々を送っている。
そして忙しい時間はどんどん過ぎていき、あっという間に季節は変わる。
夏が来たばかりだと思ったら、もう時期は夏季休暇。
自由時間がいっぱいの、夏季休暇だ。
早めに書き上げられたので早めに更新させていただきます。




