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07話 少女騎士

「私はエメラルダ伯爵家公子、エメラルドだ。しかも私は親衛隊の隊員だから、個人としても騎士の位を叙勲されているんだぞ。どうだ?すごいだろう?」

「すごいですねえ」

「そうだろうそうだろう!」


 臣民達との一件があった翌日、少女騎士は朝一番から部屋にやってきた。

 そして自慢気に自己紹介もしてくれた。


 彼女の名前はエメラルド・エメラルダ

 魔法使いの中でも特別な、貴族の生まれ。

 しかも爵位をもつ名門貴族。

 それに加えて、彼女自身も己の才覚で騎士になったという。


 もはやすごすぎて何がなんだかわからない。

 とりあえず俺など彼女の前ではケシツブのような存在だということだけはわかった。


「で、お前の名は?」


 名前を名乗ることをを促される。

 自己紹介を受けたのだから返すのはある意味当然なのだが、それは人間同士でのこと。

 下民である俺が貴族たる彼女に名乗っていいのかという疑問が頭をよぎる。


 だが促されて名乗らないのはもっと失礼なことだろう。

 意を決して、口にする。


「そ、ソラと申します」


 名前を言うだけで意を決する必要があるとは、本当に帝城は下民には住みづらい場所だ。


「そうか。お前はソラというのか。いい名じゃないか」


 こちらの覚悟を知ってか知らずか、エメラルドは手放しで褒めてくれる。

 俺がつくった朝食を「なかなかうまいじゃないか」とつまみながら。


 騎士というのは運動するだけあって大食漢が多いのだろうか。

 そのまま俺が準備していた朝食を全部食べられてしまった。


「いやーうまかった」


 でも自分の手料理をこんな笑顔で褒められてしまっては悪い気がしない。

 初日は寂しい思いをしたが、少しだけ昔に戻れた気分になる。


「あ、あれ?もしかして今の、お前の朝食では?」

「あ、はい。そうですね」


 空いたお皿を片付けてる途中、突然気づいたらしい。


「す、すまん!えーと、あーと、どうしよどうしよ…。そうだ!ソラ、ちょっと一緒に来い!」


 そう言いながら、腕を掴んできた。

 そしてそのまま部屋の外へ。


「で、出ちゃってもいいんですか?」

「かまわん!責任は、私がとってやる!」


 そんな男前なセリフとともに、俺は数日ぶりに部屋から出ていった。



 ---



 帝城の中を歩くのは二度目だ。

 相変わらず圧巻される造りである。


 そして今回は、前回気づかなかったものの存在にも、ようやく気づくことができた。

 それは、視線。

 城のあちこちにいる、臣民達の視線だ。

 いや、視線だけではない。


「下民だ。下民がいるぞ」

「あいつが、噂の下民か」

「下民のくせに、貴族様の客室にいるとか」

「下民の分際で、騎士様と一緒に歩きやがって…」

「あんな下民をちょっといたぶっただけで、なんであいつらが仕置を…!」


 怨嗟の声が、際限なく俺の耳まで届いてくる。

 目の前を歩くエメラルドがいなければ、今すぐにでも俺は八つ裂きにされていただろう。


 迷路のように複雑で、さらにとてつもなく広い帝城の中

 俺はエメラルドに遅れないよう、彼女を必死で追いかけていく。


 しかしある区域に入った途端、さっきまでの視線と声はパッタリと止んだ。


「あれ?」

「お、気づいたか?」


 エメラルドが振り向いて自慢気に語ってくる。


「ここは基本的に魔法使い以外は立入禁止区間なんだ。例外は、今のお前のように貴族のお供である場合のみ。私が騎士であること、感謝するんだぞ?」

「は、はい!」


 そんな場所になぜ俺を?と思ったが、理由はすぐに判明した。


「ここが私の部屋だ」


 そこは俺が今いる部屋よりもはるかに立派で、はるかに広い部屋だった。

 いったいここで何をと思うが、さらに進んだ先にあるのはダイニングテーブル。


「お前の朝食を食べてしまった詫びに、お前にご馳走してやろうじゃないか!」


 とびきりの笑顔とともに、そんなことを宣告された。



 ---



「どうだ?うちのシェフの腕前は大したものだろう?」

「は、はい!」


 生まれて初めての高級料理

 生まれて初めてのテーブルマナー


 色々圧倒されすぎて半分程度も味わえなかったが、それでも十分に堪能できた。

 これがプロの料理人の業。

 俺の素材に塩焼きのようなシンプルな料理とは格が違う。


「でも私はお前の素朴な味の料理も好きだぞ。今度うちのシェフにコツを教えてやってくれ」


 なんて言われてしまうが、とんでもない。

 こんな腕前の人なら、塩焼きつくっても上手に決まっている。


 だがそんなことは口にせず、「機会があったら…」と言っておいた。

 しかしまさか俺の料理を食べたお詫びにこんなことまでしてくれるとは。

 ずいぶんと律儀な性格らしい。

 貴族にもこんな人がいるんだと、意外に感じた。


 視線を感じて、居住まいを正す。

 視線の主は当然のようにエメラルド。

 俺の顔をじっと見つめている。


「な、何か?」

「いや、別に。あ、そういえばお前に伝えることがあったんだ」


 話をはぐらかされてしまった。

 でも俺に貴族様に追求する権利などはなく、彼女の話題にそのままついていく。


「陛下の戴冠式の日取りが決まった。一週間後だそうだ」


 陛下という単語を聞いても、何のことだかわからなかった。

 だが俺の脳が必死に働き、幾百幾千もの連想ゲームを続け、ようやく気づくことができた。


 陛下とは皇帝のこと

 皇帝とは、この帝城の主のこと

 そして今の皇帝とは?


 サラだ


 俺の妹

 俺の妹、だった少女

 新たなる、この世界の支配者


 一瞬「早く会いたい」などという感情が宿るが、すぐに打ち消す。

 もはや身分どころから住む世界が違うのだ。

 会っても会話すら許されないだろう。

 そんなことを考えることすら、不敬にあたる。


「だから、お前もこれから準備するからな」


 準備?

 何の?


「戴冠式にお前が参列して、そこで再会する。それが陛下が戴冠される上での、絶対条件だそうだ」


 こうして、今日の今日までテーブルマナーすら知らなかった俺が

 あと一週間で、戴冠式に参列するマナーを身に着けなければならなくなったわけである。


 鬼教官の下で



感想でもご要望頂いてた、少女騎士の名前がようやく明かされました。

登場キャラに愛着もっていただけますと、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世話好きのお姉さん系美少女騎士とかイイじゃん
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