表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/125

65話 騎士カレン

 カレンとの同居生活。

 最初はどうなるものかと思ったが、特に問題もトラブルもなく日々は過ぎていった。


 カレンは基本的に無口だ。

 ときどきすごく饒舌になるが、あれは例外であって一日口を開かないときだってある。

 だから俺との登下校も基本的に会話はなく、ミネルバと一緒に帰ってるときに相槌を打つぐらいだ。


「ソラの家での生活には慣れまして?」

「はい」

「みなさま良い方ばかりですもの。そう思いませんこと?」

「はい」

「そうでしょうそうでしょう。エメラルド様にビスケッタ様、そしてユキ様。あんな素晴らしい方たちに囲まれて過ごせるなんて、とても幸せですわ」

「はい」

「そういえば、何か困ったことはありませんの?」

「いえ、特に」

「それは良かったですわ!おーっほっほっほっほ!」


 こんな感じ。

 たぶん俺なら二回目の「はい」で会話が終わっている。

 ミネルバはすごい。


 だが今日はそんなミネルバもいない。

 だから俺たちは無言で下校しているが、向かう先は家ではない。


「入れ」


 扉の前で待っていたオスカルが俺を中へと促す。

 そう、今日はサラと会う日。


 さすがに皇帝の私室に入ることはできず、カレンはここで俺が出てくるまで待機となる。

 ちょっと申し訳ないがカレンは特に気にしないらしい。


 そもそも今や貴族でもなくなった彼女は、本来なら帝城内のこのエリアに入ることもできない。

 皇帝の居住空間とその周辺は選ばれし者以外は近寄ることすら罪となる。

 だからサラに会いに来る日は毎回事前に申請している。 

 理由は「皇帝陛下の謁見者の付添」

 許可が降りなかったことはないが、少々手間だ。


 もちろん俺がサラに頼めばもっと話は早くすんだろう。

 皇帝の私室への入室許可すらくれたかもしれない。

 

 だが、そんなことを軽々しく行ってはいけない。

 皇帝とはそんな軽々しい存在ではないのだから。

 俺もさすがに学習した。



 ---



「兄さん、おかえりなさい!!」


 部屋に入ると同時、サラが満面の笑みで迎えてくれる。

 この前白いドレスを似合ってると褒めたせいか、今日も白系の服に身を包んでいる。


 サラは何を着ても似合ってるな。


「今日の服も似合ってるよ」

「そ、そうですかね?そうですかね?えへへ…」


 褒めながら頭をなでるとサラはすごく幸せそうな顔をしてくれる。

 本当にかわいらしい。


 それからはサラが作ってくれたというサンドイッチを食べながら、とりとめのない話をした。

 サラは俺の生活の細かいところまで興味があるらしく、色々質問してくる。

 別に隠すようなこともないので、当然俺は全部答える。

 面白いようなことは何もないはずなのに、サラはどれも楽しそうに聞いている。


 サラが今回一番興味をもったのはカレンのことだ。

 毎回俺が新しい人と出会うとよくその話を聞きたがる。

 今回もご多分に漏れず話をせがまれた。


 ちなみに他のみんなへの反応はこんな感じ


 エメラルド

「兄さんのお友達なんですね!親衛隊副隊長にしましょう!」

 本人から「お願いだから辞退できるようとりなしてくれ」と懇願され、なしになった。


 ビスケッタさん

「オスカルの推薦で兄さんのサポートをお願いしたんですよ。兄さんが気に入ってくれて何よりです」

 ここで初めてオスカル推薦だと知ってびっくりした。

 俺には色々思うところがあるようだが、サラの兄として真剣に人選をしてくれたようだ。


 ミネルバ

「兄さんが褒めるなんてすごい方なんでしょうね。晩餐会で会えるのが楽しみです!」

 さすがのミネルバも皇帝に楽しみにされては恐縮してしまうかと心配だった。

 しかし実際は「皇帝陛下にそんなことをおっしゃっていただけるなんて!」と興奮していた

 さすがミネルバ。


 セリス

「私たちと同じスラム出身で頑張ってくれてる方がいるって、嬉しいですね。今度会いたいなあ」

 このことはセリスに伝えていない。

 ショックで心臓が止まりかねないからだ。

 たまにサラがセリスのことを思い出すが、何とか毎回やんわり話をそらしている。


 カレンとの出会いから今までのこと、ザッハとの件は省いて全部話をした。

 サラは終始ニコニコしながら話を聞いていた。

 ただ最後の方で少し難しい顔になってしまった。


 サラのこんな顔は珍しい。


「兄さん。カレンって、この部屋の外で待っている子のことですよね?」

「あ、ああ」


 サラはカレンの居場所を把握していた。

 魔力で探知しているのだろうか?

 さすが皇帝


「オスカル、カレンを連れてきて」

「御意」


 オスカルはそのまま部屋を出ていき、カレンを連れてきた。

 カレンはサラと俺を交互に見ている。


 俺に視線を送ってきたとき、珍しく怯えたような顔をしていた。

 カレンが、怯える?


「あなたがカレン?」

「は、はい。いえ、御意にございます」


 サラの問にカレンが返事をする。

 カレンは落ち着かず、明らかに動揺している。


「あなたに騎士の位を叙勲します。兄さんを、守ってくださいね」


 この瞬間、カレンは騎士になったのだった。



 ---



 カレンも交えて少し話をした後、俺たちはサラの部屋を辞した。

 カレンは終始緊張しながら、必死でサラの言葉に返事していた。


 部屋を出てからもカレンの顔は緊張していた。

 いくつか扉をくぐり、サラの部屋より我が家のほうが近くになった頃


「はぁ~~~~~~~~~」


 カレンがとてつもなく大きく息を吐いた。


「ど、どうした?大丈夫か?」


 思わず声をかけてしまう。

 カレンはふるふると顔を横に振り、再度大きく息を吐く。


「大丈夫なはずがありません。先輩は、本当に、すごいですね…」

「俺がすごい?」


 どういうことだ?

 全然意味がわからない俺を、カレンがジト目で見つめてくる。


「わからないのがすごいです。皇帝陛下を、あの偉大なる御方を前にして、あのように何でもなく振る舞えるのが、すごすぎです」

「ああ。そういうことか。まあ、サラは俺の妹で家族だからな。あまり、そういう意識がないんだよ」


 サラのすごさはもう理解できている。

 今日のように騎士を、貴族を生み出すことなど、サラにとっては何でもないこと。

 サラが「騎士にしたい」と思う魔法使いがいれば、その瞬間にその者は騎士になる。


 下民や臣民にとって絶対的な支配者である魔法使い。

 その魔法使い達が憧れる存在である、貴族。

 そんなものを簡単に生み出せるのが、皇帝だ。


 すごさはわかっている。

 ただ皇帝である以前にサラは俺の可愛い妹なんだ。

 大事な大事な、家族なんだ。


「そういう意味じゃないんですけど…」


 と思っていたのに、カレンに否定されてしまった。

 そしてようやく気づいた。


「もしかして、サラの持ってる魔力に驚かないってこと?」

「はい、そうです」

「なるほどね」


 カレンは皇帝に怯えていたのではなく、強大な力をもつ魔法使いに怯えていたらしい。

 地位に怯えるわけではないというのはカレンらしい。


 だがカレンとて強力な魔法使い。

 それを怯えさせるサラがすごすぎるというわけか。


「それこそ俺には理解できないよ。俺には魔力なんてないんだから、わかりようがない」


 魔力のないただの下民。

 それが本当の俺。


 今の皇帝の兄なんていう分不相応な地位にいる方がおかしい。

 それこそサラの気まぐれの結果だ。


「なのに皇帝陛下にあれほど慕われてるんですよね。本当に不思議です。そしてすごい」


 カレンはずいぶんと俺のことを高く買ってくれているようだ。

 全然そんなことはないのだが。


「まあ、何はともあれ騎士になれておめでとう。カレンならすぐにもっと上の地位にいけるんじゃないかな?」


 さっきも言ったが改めて祝福した。

 だがカレンの実力ならすぐに騎士よりも上にいけるだろう。

 学院卒業してからが楽しみだ。


「ありがとうございます」


 俺の祝福に対し、カレンは素直にお礼を言ってくれた。


「先輩が私を皇帝陛下と結びつけてくださったおかげです。本当にありがとうございました」

「カレンの実力のおかげだと思うけど…」

「いえ、実力だけだったら私はすでに貴族であって当然でした」


 カレンは断言する。

 とんでもない自信だ。

 もちろんそれだけの実力があるからだが。


「でも違いました。それは私のせいではなく、私の周囲の環境のせいです。私にはコネもツテもなかったから、私一人では貴族になることはかないませんでした。そのうちなれたでしょうけど、もっと時間がかかったでしょう」


「ペラス家を継ぐのは論外です」とのこと。

 よほど養父母との折り合いは悪かったらしい。


「だからありがとうございます。自分の力が認められるって、しかもあんな偉大な御方に認められるって、本当に嬉しいことって初めて知れました」


 カレンは本当に嬉しいらしく、ちょっとだけ笑っていた。


「それならよかったよ」


 サラの行ったことがこんなに喜ばれて、俺もなんだか嬉しくなった。


「先輩、改めて今後もよろしくお願いいたします」

「もちろん。こちらこそよろしく」

「それこそ、もちろんです」


 こうして俺たちは家に帰り、その夜はカレンの騎士叙勲のパーティーが開かれたのだった。


 なお

「私も負けないぞー!」

 と、エメラルドがジョッキを片手に吠えていた。



カレンが無事貴族になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  カレンの大活躍回がありそうな予感。
[一言] 個人的にミネルバさんの肝の太さすこです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ