64話 護衛
「なるほどねえ。そんなことがあったわけだ」
昨日のカレンによる俺の専属護衛になる宣言。
今後の対応を話し合うため俺たちはそのまま帝城に帰ってきた。
色々あったが無事一夜明け、朝は普通に学院に登校してきた。
そして昼休みになってノヴァに捕まり、昨日突然休んだことを含めて洗いざらい吐かされたわけだ。
「君の行動については色々言いたいことはあるが、僕からは何も言わないよ」
意外だ。
パラディスでの騒動のときのようにめちゃくちゃ言われるかと思っていた。
「意外そうだね?僕が何も言わないことが」
心を読んだかのように図星を指してくる。
思わずドキリとしてしまった。
そんな狼狽える俺を見て、ノヴァの笑みが深くなる。
「僕が君を責めると、せっかくの説教の効果を薄れさせてしまうからだよ」
「薄れ、させる?」
「そう。僕が君に辛辣なのはいつものことだろ?そんな僕が責めたって君にとっては日常。パラディスの件で散々言われてるし、ダメージは少ない。そんな君に、エメラルドの言葉は響いただろう?」
「…ああ」
「彼女は君に甘いからねえ。今回ほど怒られたのは初めて。だからこそ君は心の底から反省しただろうさ」
その通りだ。
二度としないと反省した。
そしてまたミスを犯さないように、みんなの手を借りて監視してもらうことにした。
カレンに専属でついてもらうまでして。
「そこで僕まで君を責めたらどうなると思う?」
「どうなるって、俺はさらに反省するだけだろ?」
ノヴァは笑う。
人を小馬鹿にするような笑みで。
「違うね。君は、というか人間は、そんな殊勝な生き物じゃないよ。いや、そんなに責められたり怒られたりし続けたら耐えられない、というべきかな?全部受け入れたら頭がおかしくなっちゃうよ。だから防衛本能なんだろうね。人は怒られることに反発するのさ」
ノヴァは言うにはこうだ。
ある人は怒られ続けた場合、逆に怒り出す。
「どうしてこんなに怒られなきゃいけないんだ?」と。
またある人は最後に怒られたことだけを覚えてて、以前のを忘れてしまう。
今回ならエメラルドの注意を忘れ、ノヴァのだけを覚えているわけだ。
そしてまたある人は、怒られ続けて心が壊れてしまう。
反省するしない以前に、怒られること自体に恐怖を感じるようになるのだ。
どれもこれでは意味がない。
これがノヴァが俺に何も言わない理由。
エメラルドという俺に最も効果的であろう人物に説教をさせ、自分は何もしない。
俺に何も言わない。
それが俺に最も効果が高いとノヴァは理解している。
実際、ノヴァに色々言われることを覚悟していたのに何も言われないのは逆に気持ちが悪い。
散々罵倒されたほうがよっぽど楽だったろう。
ノヴァは本当に何事もよく考えている。
こういうところは、見習いたい。
「まあ、そういうわけだよ。僕は事情がわかって満足だし、これで失礼するよ」
自分の言いたいことを言い切って、ノヴァは立ち上がった。
このときになってようやくカレンの方に顔を向ける。
そう、カレンはずっと黙って隣りにいてくれた。
俺とノヴァの話は全く我関せずの顔をしながら。
「ソラのことを頼むよ?君ならまあ、大丈夫だろうしね」
それだけ言って、去っていったのだった。
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「ありがとうございました」
放課後
カレンと二人での帰り道。
突然カレンがお礼を言ってきた。
居候することになったことだろうか?
俺の護衛をしてくれるのだから別に気にしなくていいのに。
だが、カレンの回答は違った。
「お母さんのこと、あんなに一生懸命探してくれてありがとうございました」
俺がカレンのお母さんを探しにスラムに行ったこと
そのことに彼女はお礼を言ってくれていた。
「いや、でも、何も成果は得られなかったしね…。ごめん」
そう、何も成果はなかった。
カレンの母親の行方は不明のまま。
むしろ最悪の可能性を確認しただけだった。
「いいんです。お母さんのこと、覚悟はしてました。ペラスの家に引き取られたとき、お母さんの治療が交換条件でした。でも、結局あれからお母さんには一度も会えていません。認めたくなかったから目をそらし続けてましたけど、きっとそうなんじゃないかなってずっと思ってました」
確認してくれてよかったです、と
ようやくこれでスッキリしました、と
カレンは、言ってくれたのだ。
「私のために一生懸命頑張ってくれたのに、色々怒られてしまってすいません。さっきの人も、かなり辛辣でしたし」
「いや、それは、本当に気にしないで。だって、悪いのは俺なんだし」
そう、俺が悪い。
俺の浅慮で勝手に危ない目にあい、みんなに迷惑をかけてしまったのだ。
「それは、はい。先輩が悪いのは否定しません」
「あ、はい」
「私もスラム育ちですし気持ちはわかりますが、先輩は弱いです。一人で出歩くのはおすすめできません」
「そ、そうだね」
「でもこれからは大丈夫です」
カレンが少しだけ胸を張る。
「これからは、私が先輩を守りますから」
そしてカレンは少しだけ、笑った。
笑ったような、気がした。
こうしてカレンが俺の護衛をしてくれる日々が始まったのだった。
ちょっと短いですが更新いたします。




