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54話 後輩と散策

「……………」

「……………」


 さっきからずっと無言が続いてる。

 実に気まずい。


 俺とカレンがいるのはパラディス。

 最近は学院が休みの日はここや他の下民の街に来るのがほぼ習慣化されている。

 せっかくだからとカレンを連れてきたわけだ。


 ただ最初はもちろんカレンと二人きりなどではなかった。

 エメラルドにミネルバ、ユキもいた。

 みんなでいつものようにワイワイと街を歩く。


 そんな予定だったのに。



 ---



 パラディスに到着してセリスと会い、さあ街に繰り出そうとしたときエメラルドが口を開いた。


「今日は変身魔法を使おう」


 この一言が、きっかけだった。


 変身魔法とは文字通り姿かたちを変える魔法。

 便利だが悪用されたらとんでもないことになるため、帝城内では使用が厳しく禁じられているらしい。

 だがここは帝城ではなく地上。

 これを使えば、魔法使いもただの臣民や下民のように変身することができるわけだ。


 今まではフードで顔を隠していた。

 秋や冬といった寒い時期はそれでもよかったが、さすがにもう春になってきた。

 こんな時期にフードをかぶるなんて怪しいを通り越して異常者だ。

「そろそろ対策するか」とエメラルドが以前言っていたのだが、これのことだったらしい。


「変身魔法は地上と言えど使うには許可が必要のはずですが、大丈夫なのでしょうか?」

「問題ない。私の方で手続きは終わらせておいた」

「まあ、さすがエメラルド様!」


 そもそも許諾申請の受付は親衛隊らしい。

 仕事の休憩中にエメラルドが処理しておいてくれたようだ。


「変身魔法を使うなんて久しぶりです!」


 ユキは嬉しそうだ。

 けっこう高等な魔法らしいが、みんな普通に使えるらしい。


 ちなみにカレンはすでに姿を変えている。

 そのままなのは髪の色ぐらい。

 どこからどう見ても魔法使いではない。


「できましたわ!」

「うむ!いい感じだ!」

「みんな素敵です!」


 三人も完了したらしい。


 ユキは普通の臣民のメイドさん。

 エメラルドは臣民の女騎士。

 ミネルバは臣民の金髪縦ロールのお嬢様。


 そんなふうに見える。


 ミネルバ、髪型変えなかったんだ…。

 まあ、口調がそのままだから逆に普通の髪型だと違和感あるのかも。


「見てくださいなソラ!どこからどう見ても魔法使いになど見えませんわ!」

「う、うん…」

「でしょう!?おーっほっほっほっほ!」


 本人も楽しそうだし、たぶんこれでいいのだ。


 いつもと違う服装をしているような感覚なのだろうか。

 みんな楽しそうだ。


 ただカレンだけはいつもと変わらない。

 楽しいのか楽しくないのかもわからない。


 そんなときだ。

 あの発言が飛び出したのは。


「今日は別々に街を回ってみませんこと?」


 ミネルバが嬉しそうに口を開く。


「今まではあのフード姿ですし、ソラと必ず一緒に行動しなければいけなかったでしょう?でもこの姿ならソラといなくても、それこそ一人でも問題ありませんわ!ね?別々に行動してみましょう?」


 ミネルバの言っていることの筋は通っている。

 だがエメラルドは難色を示す。

 理由はもちろん俺の警護のためだ。


「パラディスの治安の良さはご存知でしょう?大丈夫ですわ!それに、カレンはこの街を知らないからソラと離れられませんもの。護衛はカレンで十分でしょう?」


 ビスケッタさんがいたらここでミネルバの提案をピシャリと否定できただろう。

 だがミネルバは基本、押しが強い。

 エメラルドとユキの二人に、目を輝かせたミネルバを止めることはできなかった。


 こうして今日はそれぞれが別行動をとることが決定した。

 昼前になったらまたここに戻ってくることを決め、それぞれ好きに街を散策することになったのだ。


 エメラルドは「魔法で監視はしとくから」と、一応警戒はしてくれているようだ。

 とはいってもカレンのことは心配していない。

 俺を狙うなら学院のときのほうがよっぽどやりやすかった。

 今さら狙ってくる道理がない。


 それより心配なのは、カレンと二人きりなこと。

 間が持つだろうか?という俺の不安は的中し、今に至るわけだ。


「…」


 カレンは全然自分から話をしようとはしない。


 間が持つどころか、間など存在しなかった。

 出発してから今まで、会話らしい会話などほとんどない。


「あの出店、けっこう美味しいんだよ」

「そうなんですね」


「あそこ、この街の名物なんだよ」

「そうなんですね」


「この農場、俺も前手伝ったことあってねえ」

「そうなんですね」


「家畜って見るの初めて?近くで見るとなかなか可愛いよね」

「そうなんですね」


 会話が続かない…!


 街中から街外れまでだいたい見て回ったが、「そうなんですね」以外の感想を聞くことはできなかった。

 当然話が発展することなどありえない。


 ただひたすらにパラディスの紹介をしていくだけ。

 この街のこと。

 この街ができて大きくなっていった過程のこと。

 周囲の街とひと悶着あって、俺が間違ってしまったこと。

 全部俺が一方的にしゃべっていた。

 一人芝居のようでなかなかに疲れた。


 もうすぐ昼だし、一旦戻ろう。

 カレンとのことはまた考えよう。


 そう思って街の中心地に向かい始めたときだ。

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ?お前、あのときの…」


 振り向くとそこには男がいた。

 男がもつのは大きな斧。


 斧と男の顔を交互に見る。

 両方ともどこかで見たことがある。


 俺が一生懸命思い出そうとしていると、男は突然笑い出した。


「あっはっは!お前、薄情だなあ。あんなに仲良く遊んだのによお。これなら思い出すか?」


 そして突然斧を持って構える。

 この構え、見たことあるぞ…。


「あ!お前、バーツ!」


 パラディスに乗り込んできた臣民の一団。

 下民の台頭に腹を立て、パラディスを潰そうとしたやつら。

 その中のリーダー的存在だった男。


 そんな男が、なんでここにいる!?


「ようやく思い出したか!」


 そんな嬉しそうに、笑いながら!



明日も更新いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カレンよ、「そうなんですね」をちょこっと言い換えて「そうですね!」と言ったら某番組のタモリさんの一言で答える観客みたいな感じになってしまうがな。 そう思ったのは私だけだろうか?
[一言] このひと下民落ちしたんだっけ? 下民落ちしたってことは下民の街の住民になれるってことで 住民になれたことで逆に平穏で充実した日々を送れるようになったのかな
[良い点] >「そうなんですね」  少しは興味を持ってあげてw [一言]  どうやら敵意はなさそうですね。
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