幕間 ある貴族の独り言
ああ、いやだいやだ。
そもそも私は爵位など継ぎたくはなかった。
なのに兄よりも私のほうが優秀だった。
そして妹は他家に嫁入りしてしまった。
だから私にお鉢が回ってきてしまった。
貴族の一族というだけで十分だったのに、当主などになってしまった。
周囲の私を見る目も私への扱いも、別人のように一変してしまった。
気味が悪い。
気持ちが悪い。
さらに失敗だったのは、派閥に入ったことだ。
そもそも貴族はしがらみが多い。
そのしがらみが派閥のせいで指数関数的に増加した。
貴族ならば入って当然などという軽口に引っかかった己の愚かさがほとほと嫌になる。
こんなことなら貴族でなくて市民に生まれたかった。
何の義務も責任もなく、地上で臣民達とその日暮らしをする市民たち。
あんな楽な生活に憧れる。
だがそれは叶わぬ夢。
現実の私は貴族の当主。
しかも爵位貴族。
こんなくだらぬ地位につくために血道を上げる者がいるらしいが、正気を疑う。
ああ、いやだいやだ。
だがなってしまったものは仕方がないと、貴族としての義務をこなす。
くだらぬ派閥の政務もこなす。
上からは命令され、下からは責任を押し付けられ、早く一日が終われと祈りながら毎日を過ごす。
そんな哀れな私に、一族の者共は自分たちの繁栄のためと色々言ってくる。
自分のことだけでも精一杯なのに、一族のことなどは見ていられない。
適当に放置しておいた。
幸か不幸か私は子供ができにくい体質だったらしい。
妻との間に子供はできなかった。
妾をつくれと言われてつくったが、それでも子供はできなかった。
妻はどこぞで子供をつくってきたが、私には覚えがないため私の子供ではないのは間違いない。
妻は傍系とはいえ一応一族の出。
種がどこの馬の骨かはわからずとも、それなりの魔法使いだったら当主の座をくれてやろうと思っていたのにそれも叶わなかった。
せめてそれぐらいの安らぎをくれてもよかろうに。
しかも皮肉なことに、私は完全な種なしだったわけではなかった。
たまたま抱いた女が、子を孕んだのだ。
とは言っても私はそれを知らなかった。
自分に子がいると知ったのは、その子がそれなりに大きくなってから。
しかも存在を知ったのは他人経由。
力のある魔法使いとして発見され、利用できそうだと紹介されたのだ。
初めて会った瞬間、ひと目で自分の子供だと理解した。
うまく言葉にはできない。
だがなんというか感覚で理解したのだ。
この子が自分の子供だと。
自分と血がつながっていると。
母親である女のことを探したが、姿を消したらしく追うことができなかった。
所詮はゆきずりの関係。
私も深追いはしなかった。
子供に対しても、深追いはしなかった。
あの子が私を親だと見抜いたかは知らない。
ただ今さら自分から親だと名乗る資格がないことぐらいは、私にだってわかる。
母親ごと見捨てたも同然な私に、親と呼ばれる資格はない。
あれほどの力をもっていれば当主の座を譲ることも問題ないだろう。
むしろ一族からも大歓迎されるかもしれない。
だが、私にはそれができなかった。
あれほど望んでいた当主の座からの解放。
全てのしがらみからの解放。
それら全てをあの子に押し付けることが、何故かとてもとても嫌になってしまったのだ。
どうしてこんな気分になってしまったのだろう?
この胸をかきむしりたくなるような感情はなんなのだろう?
彼女の名前を聞いた時、それは私があの女に「もし子供ができたらどんな名前がいい?」と聞かれて答えたものだったことに気づいたあの感情。
あれはいったい、なんと呼べばいいのだろう?
ああ、いやだいやだ。
今日も嫌なやつと顔を合わさなければならない。
嫌な仕事がたくさん待っている。
仕事中、あの子のことを小耳に挟んだ。
何か任務に失敗して、どこかに放逐されたらしい。
管理してた騎士はすでに処分されたとか。
あの子にそんなことをさせるのを、もっと前に止めておけばよかった。
そんなことを思ってしまったが、今や後の祭り。
そもそも私の手の中にあの子がいたことなど、今の今まで一度もないのだ。
私とあの子の間には、血がつながっている以外何も関係がないのだから。
ああ、いやだいやだ。
全てがいやになる。
こんな自分が、私は本当にいやなのだ。
昨日更新したかったのですが、遅れました。
みんなで地上に行くのは次の話になります。
短編は微妙だったようでモチベーション下がりましたが、その下がった感情を利用してこの幕間を書き上げました。




