51話 昼食と後輩
言うまでもないがオスカルは有名人だ。
皇帝親衛隊隊長。
一代で公爵に上り詰めた傑物。
そして貴族の中でも際立つその美貌。
これで有名にならないはずがない。
しかもそんなオスカルが皇帝の兄と並んで歩いていたのだ。
さらに注目を集めて当然だ。
普段ならノヴァやミネルバが現れて気にならなくなるのだが、運悪く今日は二人共学院にはいない。
別に体調不良などというわけではなく、予定してた休みだ。
ノヴァは大公会議に行っている。
「議題はくだらないものばかりだけどね。だが僕がいないところで勝手に判断されるのも癪だから、休むわけにもいかない。真面目だろ?」
癪だから、って自分で言ってるのになんで真面目につながるんだろう?
あいつの思考回路はよくわからない。
そしてミネルバは家の用事らしい。
「お父様のお手伝いですわ。別に私がいなくてもと思ったのですが、どうしてもと言われてしまっては断れませんもの」
相変わらず父親想いだ。
用事の中身は聞いてないが、滞りなく終わってるとことを願ってる。
しかしタイミングが悪かった。
結局教室に入るまでずっと何かしらの視線を感じ続け、一息つけたのは授業が始まってからだった。
「それではぁ。授業を始めまぁす」
まさかスポール先生の声で癒やされる日がくるとは。
人生とはわからない。
---
昼食の時間。
一人でとるためどこにしようかと学院内を散策する。
ミネルバがいないとはいえ、彼女の取り巻き、友人たちはもちろん今日も通学している。
彼ら彼女らと昼食をとることはもちろんできる。
だがなんというか、気まずいのだ。
ミネルバと俺は友達だ。
ミネルバと彼ら彼女らは友達だ。
俺と彼ら彼女らの関係はミネルバがいるから成り立っている。
ミネルバが一緒にいれば当然会話をする。
笑い合いもする。
だがミネルバがいないと、距離感がつかめない。
一気に気まずくなってしまう。
俺が皇帝の兄ということもあるのだろう。
あちら側も俺との距離感を測りかねてる様子が多分にある。
好き好んで気まずい昼食の時間を過ごすこともない。
だから俺は昼休みになるとさっさと教室から自主的に姿を消した。
これが一番お互いのためなのだ。
結局学院の裏手、人気のない場所で食事をとった。
帝城の外に飛び出しており、空が見える場所。
芝生が植えられ、なかなか快適だ。
お弁当の中身はサンドイッチ。
サラと俺が二人でつくったのだ。
サラが一生懸命作ってくれたタマゴサンド。
卵なんてスラムでは高級品で、なかなか口にできなかった。
それがこんな簡単に食べられるなんて、本当にありがたい話だ。
サラに感謝をしながら口に運ぶ。
うん、うまい!
卵の次はツナサンド。
ツナの次はレタスとハムのサンドイッチ。
次から次へと手を伸ばし、あっという間に食べ終わってしまった。
食後のコーヒー。
俺が豆を挽いてサラが淹れてくれたコーヒー。
コーヒーは帝城に来て初めて口にした。
こんな苦いものをなんで飲むのかと不思議だったが、牛乳と砂糖を入れるとあら不思議。
あの苦味がびっくりするほど美味しくなるのだ。
まあ、ビスケッタさんなんかはブラックで飲んでたりする。
人それぞれかな。
そんなビスケッタさんほど上手なコーヒーはつくれないが、俺とサラの共同作業でできたこのコーヒーも悪くはない。
幸せの味だ。
しかしこの豆はサラの部屋にあったもの。
きっとというか間違いなく世界最高の品なのだろう。
せっかくだから牛乳と砂糖なしで口にしてみる。
うん、苦い。
やはり俺には砂糖と牛乳たっぷりのコーヒーが口にあうようだ。
無理して背伸びせず、自分にあうやり方で味あわせていただこう。
こうして食後のコーヒーも食べ終え、芝生の上に寝転んだ。
春の陽気が心地いい。
もちろん帝城は魔法で気候がコントロールされており、いつも天気がいい。
だがそれでも春はやはり格別だ。
午後の授業さえなければこのまま昼寝してしまいたい。
大きなあくびをする。
たまにはサボるのもいいかもしれない。
そんな願望がふつふつと湧いてきた、そのときだった。
突然日が遮られる。
雲?と思ったが、違った。
一人の少女が、寝転ぶ俺を覗き込んでいた。
「春とはいえ、外で寝たら風邪を引いてしまうのではないですか?」
それは昨日出会った、水色の少女だった。
---
「カレン・ペラス…」
「はい。カレンです」
びっくりして思わず名前を口にしてしまった。
そんな俺に対して、その少女は素直に返事を返してきた。
「あ、いや、別に呼んだわけではないんだ。ごめん」
「そうなのですか?でも私はカレン・ペラスで間違いありません。先輩に謝っていただく必要はございません」
なんというか、ずいぶん冷静だ。
俺は一人だけだったと思っていた所にいきなり人が現れてめちゃくちゃ驚いているのだが。
「こ、ここに何か用なの?」
用があるのなら邪魔なのは俺だ。
さっさと場所を明け渡そう。
「いえ、ここには特に用事はありません」
だが彼女はここに用事があるわけではないらしい。
「なら、なんでこんな場所に?」
こんなとこ、選んで来るような場所ではないだろう。
俺のような地上育ちならまだしも、帝城育ちの貴族のお嬢様が。
いったいぜんたい、どうしてわざわざこんな学院の外れに来たんだ?
そんな俺の疑問は、次の言葉で吹き飛んだ。
「先輩がいたから来ました」
「え?」
俺がいたから?
なんで?
「先輩が一人でちょうど良かったんです」
一人だと、ちょうどいい?
「先輩と二人だけで会いたかったんです」
二人だけで、会いたかった?
これは、これは、もしかして…。
学院の外れ。
先輩と後輩。
二人だけで話がしたい。
これは、これはもしかして伝説の…
「今日は先輩が一人で、しかもこんな人気のないところに来られて、こんなチャンスはまたとないって思いました」
少女、カレンの真っ直ぐな瞳が俺に向けられる。
真正面から俺を見つめながら、語りかけてくる。
これは間違いない。
考えられる答えは一つ。
これが噂に聞く、物語の中だけに存在すると思っていた、あの!
「先輩を殺すのにちょうどいいかなって、思ったんです」
「へ?」
思わず変な声が漏れてしまった。
真っ直ぐな瞳。
俺を射抜くように見つめる水色の瞳。
それは、獲物を狙う狩人の瞳だったのだ。
前話が登校だけで終わってしまったので急いで書きました。
後輩ちゃんが再登場です。




