49話 一周年
今日はサラの即位一周年記念式典。
つまり俺とサラが帝城に来て一年と一週間だ。
色々あったが、振り返るとあっという間だった。
「御即位一周年、御目出度う御座います!」
「「「御目出度う御座います!」」」
謁見の間には大貴族たちが勢揃い。
アルヴィスの声を合図にして、全貴族が一斉にサラを祝福する。
「はーい。ありがとうございまーす」
貴族たちのかしこまった態度とは対称的に、サラは実にゆるい。
ひらひらと手を振っている。
ちなみに俺は謁見の間の入口近くにいる。
この位置を勝ち取るのには苦労した。
「兄さんは私のそばにいてください!」
そんな駄々をこねる偉大なる皇帝陛下。
このままでは最前列どころか、サラの隣で貴族たちと対面させられる可能性すらある。
そこで俺は言ったのだ。
「遠くから、立派になったサラを見守りたいんだ。謁見の間の入り口。あそここそ最高の場所さ。立派ならサラを見守れる特等席。そこにいることを、許してくれるかい?」
「え?そうなんですか?」
「そうだよ。だって俺はいつでもサラのそばにいるからね。今もほら、こんな近くだ。だから式典のときは、むしろ逆に遠くから見守ってあげたいんだよ」
「じゃあOKです!」
サラが素直で助かった。
遠くから見守りたかったというのも本音だし。
ここからはサラがよく見える。
全貴族にかしずかれるその姿は、皇帝以外にありえない。
この場に集まっている貴族は誰もが実力者ばかり。
むしろこの場にいることがステータスであり、出席するために血道を上げた争いすらあった。
サラに跪くための権利を得るために、争う。
恐ろしい話だ。
最前列には四大公家のトップ達。
一番いい位置は当然のようにアルヴィス。
ノヴァは二番手といったところか。
三番手はダイン・アテネ
四番手にセティ・クリマ
貴族至上主義者は大公家の第一位と第三位を占めている。
権力を持っているはずだ。
ノヴァ曰く「アルヴィスの腰巾着」のダインだが、外見はしっかりしている。
年齢は初老といったところで、四人の中では一番年上。
真っ白い髪と口髭が特徴的だ。
いつか言葉を交わすこともあるだろうか。
そんなことを考えながら他の貴族に目を移しているうちに、式典はいつの間にか終わってしまった。
サラの要望で式典はずいぶん短くされたらしい。
長い式典なんて疲れるだけだからいいことだろう。
たぶん。
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式典終了後はサラのところに行く約束をしていた。
貴族たちが出入り口に集まる前にさっさと出ていこうと、謁見の間を後にする。
ただ失敗した。
さすがに式典となると皇帝親衛隊は謁見の間に集められるらしく、サラの部屋に行く途中の扉の前に誰もいなかった。
俺は魔法が使えないから一人では扉が開けられない。
メイドさん達には部屋で待ってもらっている。
むしろビスケッタさんやユキにリゼルなんかは式典に普通に参加してた口だ。
さすが大貴族。
だからここで立ち往生するしかないのだが
「なぜこんなところで立ち止まっていらっしゃるのですか?」
突然、声がかけられた。
振り向くとそこには一人の少女。
水色の髪に水色の瞳。
全く見覚えがない。
誰だろう?と思うが、まずは質問に答えるべきか
「いや、扉がね…」
「魔法が使えないから扉を開けられないんです」とはちょっと言いづらく、言いよどんでしまった。
ここは通常なら魔法が使えない人間は入れない場所だから。
だがそれが事実だし、隠してもしょうがない。
正直に言おうと決めた、そのときだ。
「ああ、扉が開けられないんですね。じゃあ、私が開けて差し上げます」
そして扉は開けられ
「どうぞ、先輩」
それだけ言って、少女は去っていった。
「ということがあったんだよ」
「そんな子がいるんですねえ」
さっきの少女のことをサラに話してみた。
謁見の間の近くにいたのだから、どこかの大貴族のご令嬢だろう。
だからサラが知ってるかもと思ったんだが、どうも知らないらしい。
「困ってる兄さんを助けるなんて素晴らしいことです。花丸です!」
まあ、そもそもサラは全然別なところに注目してるけど。
「こういうときってご褒美あげるものですよね?兄さんを助けたんですから爵位とかでいいんでしょうか?」
そんなとんでもない提案は一生懸命止めておいた。
爵位をそんな安売りしちゃいけないよ!
「それよりどうでした?遠くから見た私、立派でした?」
そしてすぐに話題はさっきの式典に移る。
俺の目に自分がどう映ったか、サラは興味津々だ。
俺の答えは決まっている。
「もちろん、最高だったよ。今までも最高だったけど、もっともっと立派になってる。兄ちゃん、嬉しいよ」
「ありがとうございます!!」
花丸の笑顔で返してくれた。
あまりに可愛いので頭を思い切りなでてしまう。
サラは気持ちよさそうに目を細めていた。
本当に、サラは立派だ。
俺だったらあんなに多くの貴族の前にいたら萎縮してしまうだろう。
だがサラはそれらを全て受け止めている。
受け止めるだけの力を持っている。
「本当に、サラはすごいよ」
「えへへ…」
俺はそうして、俺より遥かに立派な妹の頭を、なで続けたのだ。
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「謎の少女?」
サラの部屋からの帰り道
送ってくれたエメラルドに聞いてみた。
「ソラを先輩と呼んだってことは、普通に考えると学院の後輩だろうな」
「まあ、それはそうだよな」
新しい学年に進んだことで自動的に俺には後輩ができた。
彼ら彼女らにとって、俺は無条件で先輩だ。
「俺は知らないけど、向こうは知ってると」
「ソラが”皇帝の兄”ってことはもう広まってるだろ?だから顔を見て察したと考えるのが普通だろうな」
「やっぱり、そうだよなあ」
逆にそれぐらいしか考えられない。
元々彼女は”皇帝の兄、ソラ”を知っていた。
そしてたまたまあそこで俺を見つけ、困っているようだから助けた。
「じゃあ、なんで俺が魔法を使えないって知ってるんだろ?」
「ソラが魔法を使えないことなんて、魔法の実技で周知の事実でしょう?」
いつの間にか隣にミネルバがいた。
ちょっとびっくり。
「式典に参加されたお父様にお会いしてきた帰りで、偶然ですのよ!?決してストーカーではございませんわ!?」
いや、そんなことはわかってる。
普通に驚いただけだ。
必死で否定すると逆に怪しくなるよ、ミネルバ。
しかしまあ、ミネルバの言う通りか。
俺が魔法を使えないなんてみんな知ってる。
皇帝の兄なんて有名人の噂、下級生まで知れ渡っていても全然おかしくない。
「ミネルバ、今年の新入生生に髪と目が水色の少女っているかい?」
エメラルドが俺の代わりに聞いてくれた。
もしかして少し気になってるのかもしれない。
「ええ、もちろん知っておりますわ」
「知ってるの!?」
あっさり答えられて逆にびっくりだ。
「え、ソラ、あなた、知らなかったんですの?」
ミネルバはミネルバで俺が知らないことに驚いてる。
え、もしかしておかしいのは俺の方?
「以前話をしたでしょう?飛び級入学の優秀な新入生がいると。学院の有名人ですわよ?」
「その話は、たしかにした…」
「どんな生徒かまでは確認してなかったんですので?もっと何事にも興味を持って調べないといけませんわよ。そうでないと、今回のようなことが起きるのです」
「はい…」
反論しようもない。
たしかにあのとき調べてみれば、今日の出会いは別に特別とはならなかっただろう。
「なるほど。噂の飛び級娘が、その水色の少女というわけだな」
エメラルドもその噂は知ってるらしい。
だがさすがに生徒の外見までは知らなかったようだ。
「ええ。そうですわ」
「名前は?」
「カレン、カレン・ペラスというそうです」
「なるほど。爵位持ちの家出身ではなさそうだな。聞いたことがない」
「さすがエメラルド様ですわ。ご推察通り、お母様が騎士だとか」
「出身はどうあれ飛び級とは素晴らしい。優秀な後輩が出てきてくれて、嬉しいな!」
「ぜひ私の記録を超えてほしい!」なんてエメラルドは嬉しそうだ。
自分の記録を超えられるのって普通は恐れるもんだと思うのだが…。
「だが、これでソラの疑問は解決だな。カレンは学院でソラの顔を知っており、魔法が使えないことも知っていた。それで先輩のために扉を開けたと。これで辻褄が合うな」
「たしかに」
わかってしまえば単純な話だ。
スッキリした。
「これで縁ができたし、学院でも顔を合わせるかもな?」
何が嬉しいのか、エメラルドは笑っている。
「可愛い後輩できてよかったですわね、ソラ」
ミネルバも笑っている。
自分にとっても後輩だろうに。
これでこの話題はおしまい。
俺達はそのまま、とりとめのない話をしながら家路についたのだった。
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この日は即位式典以外にも重要な用事があった。
それは
「リゼルちゃん!絶対に、絶対に、私のこと忘れないでね!!」
ユキが顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらリゼルを抱きしめてる。
リゼルは苦笑いしながら「忘れるわけないでしょ」とユキの頭をなでていた。
そう、今日はリゼルのお別れ会。
彼女は晴れてマスタング伯爵となるのだ。
元々一年間と区切っており、これは予定していたもの。
だからこの場にいるほとんどは寂しがるというより彼女の爵位継承を祝福している。
しているのだが…
「リゼルちゃんんんん!!」
ユキだけは別だった。
俺の知らない間にリゼルとずいぶん仲良くなっていたらしい。
「ユキ。リゼルが困っていますよ」
ビスケッタさんがユキを諭す。
だがそれでおさまるユキではなかった。
涙が止まる気配すらない。
リゼルはリゼルで、ユキの涙につられたのか少し涙ぐんでいる。
そんな二人でハグしあっている姿はちょっと微笑ましい。
「リゼルは当主就任と同時に新しい街をつくることを許諾済み。つまり僕たちの派閥にようやく伯爵家が加わることになる。大きな一歩だねえ」
俺の隣で邪悪な笑みを浮かべるノヴァ。
これと対比すると、目の前の二人は本当に輝いて見える。
「ユキも爵位を継げば間違いなくうちの派閥に入ってくれるだろうね。そろそろ、ブロンコ伯爵を詰めといた方がいいかな?娘に爵位を譲れって」
「やめとけ」
とりあえず邪悪な企みの続きは止めておいた。
ノヴァも特に反論はしてこない。
「そうかい?まあ、君がそう言うなら今はいいよ」
今は、というのがちょっと気になるが聞き流そう。
帝城に来て一周年。
貴族になって一周年。
色々あった一年だった。
これからの一年も、きっと色々あるのだろう。
連載開始して2ヶ月経ちました。
スローペースになって恐縮ですが、読んでいただきありがとうございます。




