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45話 笑顔の日々

「兄さん、最近なんだか楽しそうですね?」


 サラが超至近距離からそんなことを言ってくる。

 あまりに近くて鼻がくっつきそう。

「近すぎだよ」と肩を押して距離を取る。


「兄さんと私の間に距離なんて必要ありません!」


 そんなとんでもない反論をしてきた。

 スラムの頃は家が狭かったから仕方がないが、今は違う。

 余裕をもって生活しようじゃないか。


「それより兄さん、何があったんですか?夏の頃からずっとピリピリされてて心配してましたけど、最近とってもいい雰囲気ですよ」


 サラには俺の変化はお見通しだったらしい。

 なのに


「ずっと気になってたんですけど、黙ってたんです。兄さんならきっとご自分でなんとかされるだろうって、信じてました。そして本当に困った時は相談してくれるって、信じてました」


 俺を信じてくれていた。

 俺を見守っててくれていた。

 気になっていただろうに、あえて口を出さずにいてくれた。


 嬉しくて、でも情けなくて

 涙が出そうになるのをぐっとこらえながらサラの頭をなでる。


「ありがとう。妹を心配させるダメな兄ちゃんで、ごめんな」


 そう感謝の言葉を、伝えたんだ。



 なお、「兄さんをダメ呼ばわりするなんて、いくら兄さんでも許されませんよ!?」と怒られた。

 そのまま俺の雰囲気が変わった話は流れてしまった。


 今度、ちゃんと説明しよう。



 ---



 俺が楽しそうな理由は簡単だ。


「ソラ。下民の街の増設、大成功してるらしいじゃありませんの。顔を見てすぐわかりましたわ。本当におめでとう!お父様も興味をもったようで、色々聞かれてしまいましたわ」

「ありがとうミネルバ!」


 そう。下民の街が大成功なのだ。


 騎士ベディ・ビレン

 祖父の乱費で落ちぶれたビレン家は、ある意味貴族社会で有名人だった。

 凋落し、破産間際の貧乏騎士として。

「ビレン家よりはマシ」と皆から思われるような立場だったのである。


 しかしその状況が一変する。

 理由は単純。

 ビレン家を悩ませていた種々の問題が一気に解決したのだ。


 領内に新しい街がいくつも建設された。

 農産物を襲う者がいなくなって治安が安定し、既存の街からの税収が増えた。

 もちろん新しい街からも税収が得られるようになった。

 新しい街の産業が既存の街を補完し、相乗効果を起こした。


 だがそれらはあくまでうわさ話。

 そのうわさ話を、裏付けしたのはベディ自身。


 彼は常に領地の安定化に心血を注いでおり、帝城にいることなどほとんどいなかった。

 その彼を帝城で見る機会が増えた。

 衣服も使い古しではなく、立派なものに新調されていた。

 血色もよくなり、顔にも自信がみなぎっていた。


 このベディが、とてつもない広告効果を生み出してくれたのだ。


 滅亡寸前と思われていたビレン家

 それが一気に持ち直してきたのだ。

 今まで彼を下に見てきた貴族たちの心が安らかなはずはない。


 嫉妬、焦燥、劣等感、さまざまな感情がうごめいたことだろう。


 当然黙殺する者もいた。

 ビレン家の真似をするなどプライドが許さないという者達。


 だがそれ以上に多かったのは、「我が家も、あのようになりたい」と思った者達。


 我先にと俺とノヴァの元へと訪れる。


「ぜひ私も、お二方の派閥に入れていただきたく存じます」


 そして異口同音に言ってくる。


「「我が領地にも、ぜひ下民の街を」」


 こうしてどんどん下民の街は増えている。


 もちろん下民のためではない。

 下民を道具として酷使するより、保護したほうが有益だと思われただけだ。


 だが別に問題はない。

 結果的に下民の待遇改善につながっているのだから。

 下民と臣民の対立を煽るより、よっぽど下民のためになる。


 新しくできた多くの下民の街。

 そこに住んでいる住民たちは皆笑顔。

 だから、これでいいのだ。


 こうして俺は嬉しくて楽しくて、ついつい顔が緩んでしまう。

 一応人前では隠しているのだが、サラやミネルバにはバレてしまった。

 二人とも俺のことをよく見てくれている。


「でも、バレス侯爵も興味をもたれてるんだ…」


 ちょっと驚いた。

 確かにうちの派閥に入ってくれる人はどんどん増えてるが、その全てが下級貴族。

 貧しい騎士が大半で少しだけ男爵。

 子爵なんて数人しかいない。


 伯爵以上の貴族はまだ皆無。

 侯爵のような大貴族などには全く眼中にないかと思っていた。


「まあ、我が家はその、あれでしょう?お父様は勢力拡大につながることには貪欲ですの」


 ミネルバの実家は元々公爵家だった。

 色々あって侯爵に落ちてしまったが、やはり返り咲きを狙っているらしい。


 現状で侯爵まで興味を持っていることを知れば、ノヴァは喜ぶかもしれないな。


「うまくいってるじゃないか。さすが僕の親友」

 そんなノヴァの邪悪な笑みが頭に思い浮かぶ。

 うん、言わなくていいか。


「もし侯爵がもっと話を聞きたいって思われてるなら、いつでも声かけてよ」

「ありがとうございますわ。お父様にも伝えておきます」


 そこで街の話は終わり、別の話題に移る。


「今年の新入生に大貴族はいないようですわね」


 春になって学院も年度が変わり、俺達は進級した。

 俺は魔法の授業で赤点とりそうだったが、実技はやばくても座学で頑張って留年はなかった。

 スポール先生、ありがとうございます。


 学年が進めば後輩ができる。

 そしてやはりこの時期一番の話題となると、新入生の家柄だ。


 学院内で家柄は関係ないとはいえ、気になるものは気になる。

 ノヴァが入学してきたときなど学院の生徒全員が戦慄したとか。

 爆弾が入学してきたようなものだし、危険回避のためにも重要な情報なのだろう。


 だが今年はそんな爆弾はいないらしい。

 平和そうでよかった。


 まあ、今学院で一番の爆弾は俺かもしれないしな。

 人のことは言えない。


「優秀な生徒はいるらしいですわよ。エメラルド様のように飛び級入学とか。私たちもうかうかしてられませんわね」

「マジか。すごいね」


 学院はレベルが高い。

 俺なんて予習復習しても日々の授業についていくのがやっとだ。


 飛び級入学とかすごい。

 飛び級で卒業していったエメラルドはすごすぎる。


「でもまあ、俺には関係ないしな」


 今は下民の街のことで手一杯。

 面白そうな後輩がいようと、そこまで気が回らない。


 今が春でよかった。

 これから田植えも始まるし、街をつくるにはちょうどいい時期だ。


 夏が来て実りの秋がくれば、もっともっと街は富むだろう。

 そうすればきっと、もっと多くの貴族が興味を持つ。


 そうしてもっと街が増えれば

 もっと多くの下民が笑顔になる


 それを想像するだけで、顔が緩んでしまう。


 楽しみだなあ



 ---



「最近、勉学がおろそかになっていた自覚はあるな?」

「はい…」


 進級して最初の実力テスト。

 その結果が散々であり、今俺はエメラルドの説教を受けている。


「ソラの目標はわかる。だからといって勉学をサボっていい理由にはならない。そうだな?」

「はい…」


 今の学年からは領地経営などの授業もある。

 通常の貴族の領地経営の考え方を学ぶためにも、サボるわけにはいけない。


「これからはまた私が日々の勉強を見てやろう!覚悟はいいな!?」

「はい!」


 そして再びエメラルド先生の特訓が始まった。


 つらくないと言えば嘘になる。

 だがエメラルドの教え方は上手だ。

 何より俺のことを思ってのことだし、感謝しかない。


 そしてエメラルドと一緒にいられる時間ができるのは、正直嬉しい。


「最近あんまり一緒にいられなかったしね」


 そう笑いかけると、エメラルドも笑顔で返してくれた。


「そ、そうだな!?」


 顔を真赤にして、一緒に喜んでくれた。



副作用で熱が上がってきておりますが、寝込む前に書き上げられてよかったです。

次は来週末の更新になると思います。

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