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39話 春の収穫

 春のパラディス

 農園は、黄金に輝いていた。


 もちろん本物の金などではない。

 これらは全て麦だ。

 陽の光を浴びた麦達が、黄金のように光り輝いているのだ。


「すごい…」


 もはや言葉が出てこない。

 感嘆するしかない。


「でしょう!?」


 逆に住人たちは喜びが爆発している。

 嬉しくて嬉しくて、このことを話したくてたまらないようだ。


「初夏に収穫できるようにすると他の街と被ってしまって売上が下がるかと思って…。春に収穫できるよう、時期を調整したんです」

「管理が難しいので失敗するかもと思いましたが、大成功でしたね!」

「俺はもう嬉しくて、涙が…!」

「馬鹿!泣くやつがあるか!まだまだこれからだ!」

「おお!そのとおりだ!!」


 秋の収穫物は期待通り飛ぶように売れた。

 特に品質が良いものは貴族や市民向けに高値で取引される。


 今の時期、市場に出回る新鮮な小麦は少ない。

 だから今なら、さらに希少価値は倍増。

 これが売れないはずはない。


「今回も我々プラン商会にお任せいただけること、期待しておりますよ!」


 プラン商会の人間たちが目を輝かせている。

 彼らの目の輝きは普通にお金の輝きだ。

 きっとこの小麦が全てお金に見えているのだろう。


 ものすごい揉み手で迫ってきてて怖い。


「そ、それはわかってる」


 彼らの先行投資にはもちろん報いる。


「だけど、金額について妥協するつもりはないからな?」

「もちろんでございますとも!」


 当然だとばかりに笑顔で首を縦に振る。

 だが百戦錬磨の商人たち。

 俺やこの街の住民で立ち向かえるとは思えない。


「では、金額の折衝は私の方で…」

「首席秘書官殿が?」

「はい…」


 ここでセリスの登場だ。

 彼女の頭にはベクタと周辺都市のあらゆる情報が詰まっている。


 それはつまり、農産物の相場も全て。


「お互いに、有益な対話となること、期待しております…」


 セリスが精一杯の笑顔を作る。

 それに対して商人も笑顔で答えた。


「もちろんで、ございますとも」


 さっきと同じ台詞。

 だが先程までの余裕はない。

 口元は少し歪み、額には汗がにじみ出ている。


「では、詳細はあちらで…」


 セリスと商人は役場で話し合いを始めた。

 街のために、セリスは今日も彼女にしかできない戦いに励んでくれている。


 本当に、ありがとう。



 ---



「金額は相場相応ですが、初夏の出荷分も買い取っていただけることを確約してもらいました…。初夏は市場に物があぶれますので、出荷先を決められたのはパラディスにとっては喜ばしいこと、かと…」


 集会場に住民が集まり、そこでセリスが折衝の結果を報告してくれた。

 ちょっと申し訳なさそうだが、とんでもない。


 下民がつくったものだからと買い叩かれることもなく、相場通りで売れたのだ。

 しかも初夏の収穫分も先行契約済み。

 次の取引先を探す手間も省けるし、何か問題が起きたときも安心だ。


 もちろん次の次の取引に関わってくるので手を抜くことはない。

 商売は信用が大事だからな。


 それにこれはみんなにも良い効果をもたらしてくれる。


「お、俺達の麦が、こんな高値で…!」

「相場通りって話だけど、すごい!こんな金が手に入るなんて、パラディスに来なけりゃ考えられもしなかった!」


 自分たちの農作物が相場通りで買い取られたこと

 それはつまり臣民の街にも負けないということ

 そして自分たちがつくったものが、人々に受け入れられているということ


 これは、大きな自信につながる。


「初夏の分まで契約してくれたってことは、俺たち、期待されてるんだよな!?」

「頑張れば頑張るだけ結果が出るなんて…。すごい。すごすぎる!」

「馬鹿!だから泣くなって。これからだ、これから!」


 未来への希望。

 自分たちに対する期待。

 これらはどちらも、下民としてただ臣民に使役されている頃には考えもしなかったこと。


 今日生き延びることだけを考えて一日一日を過ごす

 そんな生活は、もう彼らには無縁のものとなったのだ。


 このまま祝賀会でも開かれそうなほどの盛り上がり。

 俺だって同じ気持ちだ。


 今日はビスケッタさんもエメラルドもいないので、食事や酒の準備は特にない。

 だが別にそんなものは必要ない。

 みんなで喜び合うだけで十分だ。


 それだけで、とてもとても嬉しかった。


 なのに


「た、たいへんです!」


 血相を変えて集会場に飛び込んでくる男がいた。


「どうした!?」

「何があった!」


 その表情からただならぬ雰囲気を皆が感じ取った。

 全員が男に注目し、次の言葉を固唾を呑んで待つ。


 そして男は、言葉を絞り出してきた。


「し、臣民様方が、お、大勢いらっしゃってるんです!ひゃ、百人以上で、「責任者を出せ!」って、大声で!」


 泣きそうな顔で

 恐怖に震えた声で


 臣民の襲来を、告げてきたんだ。



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