38話 新年
「あけましておめでとうございます、サラ」
「あけましておめでとうございます、兄さん」
帝城での初めての新年を迎えた。
スラムでも年末年始は仕事が休みだった。
年が変わるまで二人で夜ふかしし、一年あったことや新年の抱負を語っていた。
今年の抱負は確か…
「兄さんは「ずっとサラと一緒にいる」で、私は「ずっと兄さんと一緒にいる」でしたね」
「そうだな。二人とも守れて何よりだよ」
どちらかが先に死んだりせず、ずっと一緒にいたいというささやかなお願い。
かなってよかった。
もうそんなことを願う必要もないだろう。
「えー。全然一緒にいられてないです。私、もっともーっと、ずーーっと兄さんと一緒にいたいです!」
サラの方は物理的に一緒にいたいということだったらしい。
その意味なら、たしかに一緒の時間はずいぶん減ってしまった。
でも
「わがまま言わずに我慢してくれて、ありがとな。サラが成長してくれて、兄ちゃん嬉しいよ。」
言うまでもなく、サラは皇帝だ。
サラの意志は全てに優先され、サラが命令すれば誰もが言うことを聞く。
命令せずとも、サラなら自分の望みは全て自分で実現できてしまう。
サラの魔法は文字通り、なんでもできてしまうのだから。
でも、サラはそんなことしない。
俺を自由にしてくれている。
そのおかげで俺は学院に通え、自領でパラディスをつくることができた。
サラは俺のサポートこそしてくれ、邪魔なんて決してしない。
感謝しかない。
「え?えへへ…。そうですか?そうですかね?実は兄さんがずっと私のそばにいてくれるようにしようかと思ってたんですけど…。やっぱり、やめておきますね!」
決してしない。はず。
一抹の不安を抱きかけたが、そこは流した。
深く突っ込んではいけない。
地雷しかなさそう。
さっさと話を変えてしまおう。
「俺の今年の抱負は、「サラが誇りに思えるような兄ちゃんになる」にするかな!」
もちろん心からそう思っている。
だがこれなら少々会えない期間ができても「兄ちゃんは今頑張ってるんだよ」って言い訳できる。
そんな下心も多少はあった。
「え?私、今以上に兄さんのこと誇りに思えるようになるんですか?」
え?逆に今の兄ちゃんのこと、そんな誇りに思ってくれてるの?
以前から薄々気づいていた。
俺とサラの、俺に対する現状認識にはとんでもない差があることに。
「いやー、サラ?兄ちゃん、そんなすごくないと思うよ?」
「兄さん!いくら兄さんでも兄さんのこと悪口なんて絶対ダメです!許されません!兄さんは、最高なんです!」
自分で自分のことを悪く言うのも許されないらしい。
こっちにも地雷原があった。
撤収撤収。
「じゃ、じゃあ、サラの今年の抱負は?」
再び話題を変える。
「えー。私ですかー?」
そしてサラは笑顔になる。
よかった。
「私の今年の抱負はですね、「兄さんの力になる」に決めました!」
サラはそんな可愛いことを言ってくれた。
「最高なのにより高みを目指す兄さんのこと、私全力で応援しますからね!困ったら何でも言ってください!」
たぶんサラに相談したら俺の困りごとなんて99%は解決してしまうのだろう。
だから、それはしない。
俺が俺の手で、自分で解決する。
俺は、サラの誇らしい兄ちゃんだからな。
だから俺は「ありがとう」とだけ言ってサラの頭をなでた。
「えへへ…」
そんなサラの笑顔を見ながら。
俺は頑張るんだと、誓ったんだ。
---
「旦那!あけましておめでとうございます!」
「新年早々来てくださって、ありがとうございます!」
「今年もよろしくお願いいたしやす!」
サラに会ったあと、自室でみんなと新年の挨拶を交わした。
そしてその後、すぐこのパラディスに来たのだ。
街のみんなはすでに働いていた。
丈夫に育つようにと麦踏みというのをやっている。
「ここの土地は肥沃なので必要ないかもしれませんが…。できることはなんでも、全部やっておきたいんです」
みんな元気そうで楽しそうに見える。
でももしかしたら、内心は不安なのかもしれない。
ちゃんと収穫できるのか?
なにか失敗はしていないか?
秋の豊作は偶然だったんじゃないのか?
だから何でもやろうと、休みもなく働いている。
自分たちの全力を尽くしている。
「俺も手伝わせて」
「え?旦那、いいんですか?」
「ああ。俺も麦踏みは経験あるし、迷惑はかけないよ」
「そうなんですね!じゃあ遠慮なく、お願いしやす!」
ここの農場は広い。
俺が手伝っても焼け石に水だろうが、やらないよりはマシだ。
スラムでも年末年始は休みだったのに、貴族になったら新年早々働くことになるとは。
なんだか少し、面白くて
ちょっと笑ってしまった。
「ソラ様、みなさん、食事ができましたよ」
ビスケッタさん達がご飯をつくってくれていた。
農作業の手を止めてすぐに食べられるような簡素な食事。
でも、すごく美味しい。
「お菓子もありますよー」
「わ、私も手伝いました!」
ユキがクッキーを焼いてくれていた。
焼き立てだろうか?
あたたかくて美味しい。
寒い中がんばった体に甘いものが染み渡る。
リゼルのクッキーはちょっと形がいびつだ。
でも味に問題はない。
ちょっと焦げてるところもあるが、これはこれで香ばしい。
「温かい飲み物もある。酒も準備してあるぞ」
エメラルドは飲み物を準備してくれていた。
酒…?と思ったが、寒い時にはお酒で対策する地域もあるらしい。
ここの住民たちは酒に強い者が多いらしい。
みんな水のように飲んでいる。
「いやー、新年とはいえこんなに酒が飲めるなんて人生初ですよ!」
「しかもまだまだある!」
「飲んでも飲んでもなくならないなんて、なんて幸せなんだ…」
「「ありがとうございます!!」」
酒がおもいきり飲めること自体にもみんな感動していた。
「みんなの飲みっぷりが気持ちよくて、私も嬉しいぞ!準備したかいがあった!」
エメラルドも上機嫌で飲んでいる。
上等なワインの瓶をどんどん空けている。
作業が一段落していたこともあり、そのまま新年の宴会のようになってしまった。
それぞれが故郷の歌を歌ったり踊ったり
宴会というか、むしろお祭りだろうか?
「やっぱり、どんどんいい街になってきているね?」
気づけば踊りの輪の中に、いつぞやのマーニャがいた。
「おうちの方は大丈夫なんですか?」
普通の貴族なら新年は家族の集まりや派閥の長への挨拶で大忙しだ。
「私ははぐれ者だからね。そんなの関係ないんだよ」
だがマーニャは俺の言葉なんて意にも介さず、再びみんなと踊りだす。
子供に大人気で、抱っこして踊ったりもしている。
あんなに若くて綺麗なのに、まるでお母さんみたい。
「まあ、いいか」
ああいう自由な貴族がいることが嬉しい。
そんな貴族が、もっと増えればいいと思う。
もっと増やすには、俺には何ができるんだろう?
そんなことを思いながら、貴族になって初めての元日は終わりを迎えた。
そして時は過ぎ、春の収穫の時期を迎えたのだ。
サラは毎回おしゃれしてソラをお迎えしてますが、ソラは一向に気づきません。




