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37話 トレーニングと魔法使い

 実りの秋が終わり、冬が来た。

 だが魔法で気候を安定させている帝城に季節感などほとんどない。

 寒いことも暑いこともない、過ごしやすい日々が続いている。


 それでも間違いなく時は立っている。

 俺が学院に入学して半年近く経った。


 ミネルバとの放課後のトレーニングは、今も続いている。

 ただ、少し変化もあった。


「ではお二方とも、本日も最後に模擬戦を行いましょうか」


 トレーニングをビスケッタさんが見てくれるようになったのだ。

 俺はもちろん、ミネルバの成長にもつながっている。


---


「ビスケッタ様が!?」


 実際ビスケッタさんが名乗り出てくれた時は、ミネルバもこのように感激していた。


「私が少しでもお力になれれば幸いです」

「とんでもございません。ビスケッタ様が教えてくださるなんて光栄ですわ!」


 ビスケッタさんの実力は貴族社会では有名らしい。

 ミネルバは嬉しくてたまらなさそう。

 きゃーきゃーと笑顔で騒いでる。


「お二方ともエメラルドの教育を受けたことがありますので、まずはあのレベルから始めましょうか」


 しかし、この台詞で笑顔は消え去った。


「エメラルド様が、基準なのでしょうか…?」

「そうですが、物足りなかったでしょうか?でしたら、最初からもう少しハードにさせていただきますが?」

「い、いえ、とんでもないことですわ…」


 嬉しさ半分、絶望半分

 こうしてエメラルドのシゴキが最低レベルという、ビスケッタさん基準のトレーニングの日々が始まった。


 放課後だけの限られた時間だったのが、救いだな。


 ---


「はじめ!」


 模擬戦開始の合図。

 それと同時に、腰を落としたミネルバが突っ込んでくる。

 まるで黄金の矢のように、一直線で。


 この行動は想定通り。

 今まではここで膝蹴りでカウンターをとろうとして失敗してきた。

 後ろに避けても、ミネルバは逃してくれない。


 だから今回は、前に飛び跳ねる。


「えっ!?」


 低い姿勢になったミネルバを難なく飛び越え、そのまま背中を取る。


「しまっ!」


 みなまで言わせず、そのまま背中から地面に叩きつけた。

 馬乗り体制になったところで、ビスケッタさんが再び合図を発した。


「それまで!ソラ様の勝利です」

「やった!」


 ミネルバに勝てた!

 剣を使った戦いではまだ勝負にもならないが、素手なら勝てないことはない。

 最初は連戦連敗だったのに、めちゃくちゃ成長した!


「やられてしまいましたわね…」


 ミネルバは悔しそうだ。


「ビスケッタ様!魔法ありでもう一勝負、お願いいたします!」

「それでは勝負にならない気がしますが?」

「魔法なしで一戦、魔法ありで一戦が適切かと。制限がある戦いなど、勝負ではございません!」

「確かにそうですね。実戦で魔法は禁止できませんし」

「そのとおりでございますわ!」


 心底負けず嫌いな性分らしい。

 だが魔法使いとの模擬戦なら俺も望むところだ。


 やってやろうじゃないか。


「はじめ!」

「あぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!」

「それまで!ミネルバ様の勝利です」

「おーっほっほっほっほっほっほっほ!これが、実力ですわ!」


 俺のやる気も虚しく、勝敗は一瞬でついてしまった。

 勝負開始と同時にミネルバが炎魔法を詠唱し、俺を火だるまにしたのだ。


 なお見た目は派手でも威力は全然弱い。

 ミネルバがそのようにコントロールしてくれていた。

 火傷もしないくらいだが、熱いものは熱い。


 こうして一勝一敗。

 ミネルバも満足したようで、今日のトレーニングは終了した。



 ---



「魔法使いって、圧倒的だよな」


 帰り支度を済ませて三人で帰路についた。

 今日はミネルバの部屋で食事会をすることになっており、みんなで同じ方向に向かう。


「どうしたんですの?藪から棒に」


 ミネルバが問い返してきた。

 自覚がないのだろうか。


 素手ならようやく互角になったというのに、魔法を使われた瞬間に再び圧倒的な差をつけられる。

 これを圧倒的と言わずしてなんというのか。


「そういうことですのね。魔法を使えるのが当たり前ですので、あまり意識してませんでしたわ」


 当たり前過ぎて意識してなかったらしい。

 魔法を使わない模擬戦は、本当にただのトレーニングの一環程度の認識なのだろう。


 魔法はあって当たり前。

 制限して使わないときもたまにはある。

 ただ、それだけなのだ。


「火は起こせるし、氷もつくれる。天候や気候を操っちゃって、この帝城はいつも快適。しかも何もないとこから街までつくれる。魔法使いって、なんでもできちゃうよな」


 魔法使いのことを知れば知るほど、下民や臣民との差を思い知らされる。

 だがそんな俺の言葉を聞いて、ミネルバとビスケッタさんは不思議そうな顔をした。


「私は、氷の魔法は使えませんよ?」


 ビスケッタさんの驚くべき発言。


「え?そ、そうなんですか?」

「はい。火は多少使えますが、氷は全く。そして以前申し上げましたとおり、転移魔法も得意ではございません。天候や気候、街の建設も一切できません」


 ビスケッタさんは何でもできると思っていたが、違ったらしい。


「そうですわよ、ソラ。魔法使いにも得手不得手はございます。エメラルド様のように何でもできる方が珍しいのです」


 なんと。

 回復魔法も使いこなすエメラルドだが、それは単に彼女個人がすごいだけらしい。


「街の建設は伯爵以上の貴族でないと使えませんが、全員ではありません。ですので、ユキは貴重な存在なのです」

「ユキ様は気さくな方ですが、とても優秀ですのよ?それに天候や気候を操るなんて大魔法ですもの。使いこなせるのは皇帝陛下ぐらいですわ」


 天候や気候を操れるのは皇帝の専売特許。

 他に可能性があるとすれば、特に優秀な大公ぐらい。

 帝城が過ごしやすいのはひとえに皇帝の力によるものらしい。


 本来はこの時期の夕方なんてかなり寒いはず。

 だが実際は全然快適。

 これは全て皇帝のおかげ。


 サラ、すごすぎ。


「魔法は万能かもしれません。ただそれを万能のものとして使いこなせるのはこの世で皇帝陛下ただお一人だけです。個々の魔法使いには得手不得手がございますよ」


 ビスケッタさんが優しい声で教えてくれた。

 それに少しだけ勇気づけられる。


 魔法使いだって万能じゃない。

 ならば俺たち下民にだって、何かできるかもしれないって。


 パラディスのみんなの顔が頭をよぎる。


 秋の収穫はうまくいった。

 春に向けて麦の栽培も開始している。

 やはり主食は市場規模が段違い。

 ここに進出できれば、パラディスにとって大きな一歩になる。


 牧畜も林業も始めている。

 工芸細工の職人も移住してきているから、それを広めたりもしてる。


 これら全部、魔法使いなら簡単にできることかもしれない。

 だけど、魔法使い全員ができることではないのなら。


「下民だって、魔法使いに必要とされる存在になれるかもしれない」


 そうなれば、世界は少し変わるんじゃないかって


 そう、思えたんだ。



ソラも毎日頑張ってます。

エメラルドが勉強を見てくれる日もあります。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ソラ殿下が魔法抜きで魔法に対抗できるように なったら、本当に凄い事ですけどねぇ。  今の所全くイメージできませんね。  何か秘策があるのか、それともノープランなのか。  可能なのか不可能…
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