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40話 臣民襲来

 会場全体が重苦しい空気に包まれていた。

 それを吹き飛ばしてやろうと、思い切り声を出す。


「臣民がどうした!ここは、俺達の街だ!」


 だが俺一人がどれだけ声を張り上げようと焼け石に水。

 重苦しい雰囲気はそのまま。


 ただ、多少の変化はあった。


「ソラの旦那なら」

「旦那は臣民なのでしょう?」

「旦那なら、なんとかしてくれる」

「俺たちを、臣民様から守ってくださる」

「旦那は、俺達を助けてくれるんですよね?」


 そんなすがるような瞳が、一斉に俺に向けられたのだ。


 誰かが口を開いたわけではない。

 だが彼らの瞳が、百万の言葉より雄弁に物語っていた。


 俺なら助けてくれると

 俺に助けて欲しいと、願っていた。


「まだ、ダメか…!」


 パラディスの住民たちは着実に成功を重ねている。

 その積み重ねが自信につながっていると、そう期待していた。


 しかし現実はこれだ。

 臣民が来ただけで萎縮してしまっている。

 百人程度ならこの集会場にいる人数でもはるかに数で勝る。

 夏秋春と力を合わせて自然の猛威に対抗したように、パラディスの住人総出で立ち向かえば勝負にもならない。


 だがそのたった百人の臣民が、彼らには天災よりも恐ろしいのだ。

 一人の臣民の怒号で、この場全員が震え上がるだろう。


 これが臣民と下民の差

 乗り越えられない、深い深い谷。


 それでも、せっかくつくったこの街を、こんなところで追わせるわけにはいかない。

 俺が、やるしかない。


 相手は百人もの臣民だ。

 そもそも俺自身が臣民を完全に克服できたとも言い難く、何かの拍子でフラッシュバックが起きる可能性は捨てきれない。


 そして何よりも数の差だ。

 魔法使いでない俺は、暴力沙汰になれば多勢に無勢で勝てるはずもない。


 百人もの臣民を前にして、ちゃんと話せるだろうか?

 街の代表として、対抗できるだろうか?


 自信はない。

 だが自信があろうとなかろうと、やるしかない。


「殿下、我々も…!」


 リゼルが一緒に行くと言ってくれた。

 その後ろではユキも頷いてくれている。

 だがそれを手で制し、首を横に振る。


 二人が来てくれれば安心だ。

 むしろこの二人が来てくれれば、それだけでこの問題は一瞬で解決するだろう。


 フードを取り、顔を見せればそれでおしまいだ。


 魔法使い様がこの街にはついている。

 つまりこの街は実質市民の街のようなもの。

 だから、仕方ない。

 下民が調子に乗るのは癪にさわるが、魔法使い様には逆らえない。


 そうして、今日の問題は終わるだろう。

 だが、それでは意味がない。


 みんながこの街で頑張ってきたことが、水泡に帰す。


 下民の、下民による、下民のための街

 だったらこの街を守るのも、下民の役目


「俺がやらなきゃいけないんだ」


 俺がやるしかないんだ。


 後ろを振り向くこともせず、俺は会場を飛び出した。



 ---



 臣民の数は百人以上

 なるほど、間違いではない。


 数百人は、たしかに百人より多い。

 これは間違いなく、百人以上だ。


「お前が責任者か!?」

「下民か?代官様に仕える臣民か!?」

「なめたまねしてくれたなあ!!」


 怒号が飛び交う。

 何が言いたいのかわからない。

 何が目的かもわからない。


 ただ、今にも俺を絞め殺そうとするほどの怒りが場を覆っているのは嫌でもわかる。


 ここで「下民だ」と言えば、なぶり殺しになるのは確実だ。

 そうはいっても俺は臣民でもない。

 嘘をつくのは憚られる。

 サラの権威を使うのは論外だ。


 だから言い方を少し変える。


「代官の、屋敷の者だ」


 間違いではない。

 俺は代官の屋敷に住む、領主本人なのだから。


「ちっ。代官様の秘書官か」

「下民だったら八つ裂きにしてやるとこだったのによう」

「みんな、傷つけんなよ!傷つけたら面倒なことになる!」


 やはりか。

 危ないとこだった。


 さっき会場に飛び込んできた住民の顔を思い出す。

 震え上がるのも当然だ。

 こいつらに捕まっていたら、今頃彼は死んでいた。

 文字通り、彼は死の淵から逃げ延びたのだ。


 やつらが俺を秘書官と誤解してくれたのは都合がいい。

 秘書官の振りをして、対応させてもらう。


「ここは領主様がつくられた下民の街、パラディスです。臣民の皆さんがいったい、何のご用でしょうか?」


 震えそうな唇を噛み締め、はっきりと口にする。

 だがそんな俺の気合を吹き飛ばすほど、臣民達の怒りは激しかった。


「何のご用、だあ!?」


 さっき以上の怒号。

 音が質量を帯びて襲いかかってくるようだ。


「ここの下民どもが勝手に商売始めてくれたおかげでよう、こっちは商売あがったりなんだよ!ふざけてんじゃねえぞ!」


 そんな内容の言葉が、数十数百と浴びせられた。

「死ね」「殺すぞ」「下民の分際で」「虫けら風情が」

 そんな罵声と共に、降ってきた。


 頭がクラクラする。

 恐ろしくて逃げ出したくなる。


 圧倒的な数に圧倒的な怒り

 これは臣民や下民なんて関係ない

 こんなものと向かい合ったら、誰でも恐怖でおかしくなってしまう。


 ()()()()()()()()()()()


 かつてリゼルは、百人近くの山賊共を一人で制圧した。

 魔法使いなら、貴族なら、この程度の人数に怯むことはない。

 例えさらに十倍の数となろうと、貴族ならものともしないのだ。


 俺は下民だ。

 だが同時に、貴族だ。


 だからこれぐらいの数に怯えちゃ、ダメなんだよ!


「下民が商売を始めた!それが質も量もあなた方より勝っており、市場を奪った!ただそれだけのことであり、何の問題もない!!」


 体全身を使って声を張り上げる。

 臣民たちが一瞬怯んだのを見て、さらに畳み掛ける。


「お客様方、魔法使い様方がこのパラディスの品を選んだ!ただそれだけなのに、なぜあなた方は文句を言うのか!?承服しかねる!!」


 価値の高い商品の行き着く先。

 それはこの世界を支配する階級、魔法使い。


 市場原理、商売の原則だけでは対抗できない。

 臣民は下民に対し、そんなものは簡単に超越してしまう。


「うるさい黙れ」

 ただこの一言だけで、臣民は正論を吐いた下民の命を奪い去る。

 そんなことは、この世界ではありふれた日常なのだ。


 だから魔法使いを持ち出した。

 下民がやったことではなく、魔法使いが選んだことだと。

 今自分たちが批判していることは魔法使いの選択を批判したのだと、言ってやったのだ。


 これでやつらは怯む。

 そう、思ったのに


「うるせえ!黙れ!!」


 かつて何度も聞いた言葉。

 聞くだけで体が萎縮しそうになる。


 この言葉のあとは、いつもいつも意識がなくなるほど叩きのめされた。


 だが、俺は運がよかった。

 今もこうして、生きているのだから。

 そのまま意識が戻らなかった者も、大勢いたのだから。。


 運がよかった、のに


「みんな!こいつは下民の仲間だ!ヤっちまうぞ!」

「いいのかよ?代官様の秘書官だぞ!」

「かまわねえ!この街の住民全員ヤっちまえば、誰が犯人なんかわかりゃしねえ!」

「そうだそうだ!こんなクソな街、全員ヤっちまえばいいんだ!」

「下民ごときにこんな舐められて、黙ってられっか!」


 ついに俺の番が来たのか


「「「下民どもを、ヤっちまえ!!」」」


 ああ。いつもの目だ。

 臣民は下民をいつもこの目で見つめてくる。


 この、ゴミを見るような瞳で

 俺たちを、見つめてくるんだ。




「そ、そこまで、です!」


 それは、臣民達の手が俺に襲いかかろうとした直前だった。

 いつも弱気なあの声が、力強く響き渡った。


 後ろを振り向くと、そこには声の主がいる。


「その方に手をだすこと、この街に手を出すこと。それは、わ、私達全員が、許しません…!」


 セリスだ。

 セリスが来てくれた。


 そしてその後ろには、街のみんながいる。

 どんどん集まってきている。


 みんな、来てくれたんだ!!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 人は見下せるものが無いと気がすまないのか 身分だけでは力は得られないというのに。
[気になる点] 身分が絶対の世界で、代官の秘書官に安易に手を出そうとするのは少し不可解、短絡的。 何より主人公は皇帝から全権委任状を戴いているのだから、それをかざせば済む話。 このままでは来た臣民全員…
[一言] 続きがめっちゃ気になります!
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