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34話 パラディス

「おーっほっほっほっほ!この私が、遊びに来て差し上げましたわよ!」


 もうすぐ夏季休暇も終わりというこの時期に、ミネルバが来てくれた。

 以前は毎日聞いてた高笑いが懐かしく感じる。


 もちろん突発訪問などではなく、事前に連絡をくれていた。


「遊びに伺ってもよろしいか、ソラに聞いていただけますでしょうか?」


 と、控えめな問い合わせがエメラルドの元に届いたのはつい先日。

 そしてもちろん俺はOKと即答した。

 断る理由がない。


「わ、私、お友達の家に遊びに来たのって初めてですの…」


 そんなことをつぶやきながら、物珍しそうに部屋をキョロキョロしている。

 別に珍しいものなんてないだろうに。

 友達の家、というだけで珍しく感じてしまっているのだろうか。


 ミネルバが来たと聞いて他のみんなも俺の部屋にやってくる。


「よく来てくれたな、ミネルバ!」

「エメラルド様!今回はお取次ぎいただき、ありがとうございました」

「なんだ、そんなこと気にするな。あれぐらい手間でも何でもない。会えて嬉しいぞ」

「私もですわ!」


「ミネルバちゃんだ!こんにちはー!」

「これはこれはユキ様。お元気そうで何よりですわ」

「ミネルバちゃんも元気そうで何よりですよ。あれ?またちょっと大きくなりました?」

「どこを触ってらっしゃっるんですの!?」


「ミネルバ様、私もおりますよ。お久しぶりです」

「リゼル様ではございませんか。こちらこそお久しぶりです。先日は父がお世話になったとか。感謝申し上げます」

「とんでもございません。バレス侯爵のお力になれて光栄です。またいつでもお声がけください」

「本当にありがとうございます。父に伝えさせていただきますわ」


 貴族のご令嬢同士で盛り上がっている。

 元々知り合いらしく、仲も良さそうだ。


 他のメイドさん方も子爵や男爵の娘さんであり、ミネルバと面識があるようで挨拶している。


 しかし俺の周りって、女性ばかりだよなあ。

 さすがに疑問を感じ、ビスケッタさんに理由を聞いたことがある。

 回答は実にシンプルだった。


「どの貴族の派閥にも属しておらず、かつソラ様と歳近い者で選んだらこうなりました」


 とのこと。


 ユキはのほほんとしており、派閥とは無縁だ。

 それをいいことに父親に政略結婚させられかけてたらしい。


 ビスケッタさんやリゼルは一匹狼タイプ。

 自己の研鑽を追求しており、宮中政治とは一線を画している。

 一線を画しても独立独歩で生きられる実力を持つ者達だ。


 そういった者がたまたま若い男の貴族にいなかった。

 ただそれだけの理由らしい。


 男のほうが先輩後輩の関係を作りやすく、それで先輩の派閥にいつの間にか入れられていることが多いとか。

 派閥とか気苦労多そうでたいへんだ。

 みんなかわいそうに。


 派閥なんかに興味がなさそうでしかも一匹狼な男の顔が一瞬頭に浮かんだが、すぐに消しさる。


 ちなみにビスケッタさんは所用があるとかで今は席を外している。

 いたらきっとミネルバが緊張してただろうから、ちょうどいいかもしれない。


 さてどうするかと思っていたら、ミネルバが声を弾ませて尋ねてくる。


「そういえばソラ、新しい街をつくったらしいですわね?早く見せてくださいな!」


 すでに予定が決まっていた。

 案内するなんて一言も言ってないのに、行くことが決定していた。


 もちろんいいんだけど、別に見ても楽しいものでもないと思うのだが…。


「ソラ達の努力の賜物なのでしょう?友人として、ひと目見せていただかないといけませんわ」


 なんというか、やっぱりミネルバはいいやつなんだよな。



 ---



 下民の街


 今は世界に立った一つだけだが、これからもっと数が増えるはず

 そう考え、この都市に名前をつけることにした。

 そして選ばれた名前は、パラディス


 世界で初めてつくられた、下民の街

 それが、パラディスだ。


「まあ!可愛らしくて素敵な街ではありませんか!」


 そんなパラディスを、ミネルバが褒めてくれた。

 素直に嬉しい。


「えへへ。そんな褒められると照れちゃいます…」


 そしてユキも嬉しそうにしている。

 実際、可愛らしい町並みなのはつくったユキのセンスのおかげだからな。

 普通にすごい。


 ちなみにユキとミネルバの仲はエメラルドつながりらしい。

 彼女もミネルバの受験勉強を手伝ったとか。 

 ユキがアメでエメラルドがムチかな?


 ちなみに俺以外のみんなはフードを被って外見がわからないようにしてある。

 全員美女ばかりだから、住民に見られたら一発でバレてしまうからだ。


 フードの集団が怪しくないのか?と思うが、そこはそれ。


「ソラの旦那!お疲れさまです!」

「今日も街の見回り、ご苦労さんです!」

「うん。みんなもお仕事お疲れさま」


 俺はこの街の建設計画の主要メンバーとして、住民に顔を覚えられている。

 そんな俺がフード集団を引き連れているのはもはや恒例。

 今や誰にも気にされることはなくなった。


 もちろん最初の頃はすごい不審な目で見られたが、今はすでに当然の光景となっている。

 この異常な光景ももはや日常。

 やはり慣れというものは、強い。


「新しい街というので人も少ないと思っていましたが、かなりの数の住民が住んでますのね?」

「ああ。移住希望者が後をたたなくてな。今も毎日人口が増えてるんだよ」


 下民は数が多い。

 貴族、市民、臣民、下民と数は増えていき、下民は圧倒的に数が多い。


 その圧倒的な数を誇る下民だから、そのうち一部だけが移住を希望したとしても数は十分。

 そのうちパラディスでは受け入れられなくなるだろう。


 そうなれば、また新しい街を建設する。

 どんどん、増やしていくんだ!


「私、下民の方々がどのように暮らしているか知りませんでしたが、普通の街と変わりませんのね?」


 ミネルバは市民の街しか行ったことないらしい。


「たくさんのお店があって、多くの人々が行き交って、素敵ですわ。帝城では見られないものばかり」


 市民の街と比べれば全然劣るだろうに、そんな風に言ってくれる。

 本当に素敵なものを見たと言わんばかりに、褒めてくれる。


「さすがソラがつくった街ですわね?」

「ああ!ありがとう!」


 本当に嬉しい。

 何かお返しがしたいが、俺に何ができるだろう。

 とりあえず屋台で買ったものでも一緒に食べるか。


 友達と食べ歩き。

 いいかもしれない。


「金平糖ですか?小さい頃、私もよく食べましたわ。お星さまみたいでとっても綺麗で大好きでしたの」


「や、焼き鳥、というんですの?このままかぶりつくって、ソラ、まさか私のこと騙してませんわよね?エメラルド様!?そんな、はしたない!」


「も、もぎたて野菜を、そのまま噛じる?きゅうりは味噌との相性が、最高…?いえ、ちょっと私、お腹がいっぱいで…」


 途中いくつかはやんわり断られてしまった。

 焼き鳥はサラにもお土産で渡したことを伝えたのだが、そのときはみんなに変な目で見られてしまった。

 お土産に焼き鳥って、そんなおかしいんだろうか…?


 ちなみにこういった店々、今は行商人が開いているものがほとんどだ。


 まあ、まだパラディスにはまともな産業なんてないから当然だ。

 なのに相場で考えると破格の値段で売りさばいている。

 相場通りの価格で金を支払ってるのは俺たちぐらい。


 商人は普通に臣民だし、なんでこんなことするのか疑問になって聞いてみたことがある。

 まさかの奉仕精神?ボランティア?と

 でも違った。


「商人の勘ってやつですよ。この街はきっと発展します。そして下民は臣民より遥かに数が多い。こんなビジネスチャンスなかなかございません。これは、先行投資ってやつですよ」


 ボランティアなんかではなかった。

 これが商人か。

 商魂たくましい。


「今後も、我々プラン商会をご贔屓にお願いいたします」

「あ、ああ。もちろん」


 そんなことまで約束させられてしまった。

 商人に認めてもらえて嬉しいが、同じようなことを新しい街全部にやってる気もする。

 商人、怖い。


「あら?ソラ、あそこに人だかりがありますわ。大道芸人かしら?」


 大道芸人?

 そんなものまで来てるの?


 商魂たくましい者は大道芸人の中にもいるのだろうか。

 とりあえず近くに行ってみる。


 するとそこには、美しい歌声を響かせながら踊る

 天女のように美しい女がいた。


「…彼女、魔法使いではなくて?」


 うん。俺もそう思った。



 ---



「あはは!魔法使いがこんな下民の街で下民に囲まれておひねりもらっているはずがないだろう?私はしがない、旅の踊り子さ」


 一通り歌と踊りが終わった後に俺たちは声をかけた。

 だが彼女は投げられたおひねりを拾いながら、そんなこと言う。


 おひねりを拾う姿すら様になるなんて、魔法使い、しかも貴族ぐらいだと思うんだが…。


「お名前を、教えて下さいます?」

「名前?私の名前はマーニャだよ、美しいお嬢さん」

「ありがとうございます。そしてお褒めに預かり光栄ですわ。…ソラ、少なくとも私は聞いたことのない名です」


 ミネルバは知らないらしい。

 他のみんなも同様だ。


 マーニャ嘘をついている様子はない。

 偽名ではなさそうだ。

 なら本当に魔法使いではない?


「旦那ー、魔法使い様がこの街にいるわけないですよ!」

「そうそう。魔法使い様がいたらもう、俺たちみんな震えながら土下座もんですよ、土下座」


 周りの男衆もそんなふうに笑っている。

 まあ、確かにそれはそうだろう。

 実際のところは君たちの目の前にいるフード集団は全員魔法使いなのだが。


 もちろん美しい=魔法使いではない。

 だから魔法使いに見間違うほど美しい臣民や下民がいないことはない。

 彼女もそんな例外なんだろうか。


「君がこの街をつくったんだってね?」


 女、マーニャが笑いかけてくる。


「いや、その、俺は場所の提供を手伝っただけというか…」


 この街を実際に建設したのはユキだ。

 そして人を集め、生活基盤をつくりあげたのはセリスだ。

 街の警備はダグエルやビスケッタさんが手を回してくれている。


 正直、俺がつくったというのは、少し違うと思う。


「君、「〇〇を建設したのは誰?」って質問に「大工さん」って答えたくなるタイプ?」


 だがそんな考えを、マーニャは笑い飛ばしてくる。


「誰かが決断してみんなを動かしたから、結果的に何かが成し遂げられる。そのきっかけとなった誰かが重要なんだよ。君はもっと自信をもっていい。ちゃんと胸を張りなさい」


 自信をもて。胸を張れ。

 そんなことを言われたのは初めてだ。


 ただ褒められるより、なんだか誇らしい気持ちになる。


「私は仕事柄世界中をまわってるけど、ここは本当にいい街だと思うよ。君は、すごいことをやった。すごいものをつくった」

「あ、ありがとう」

「ああ。次に来た時は、より大きく、より豊かになっていることを期待しているよ」


 それだけ言い残し、女は姿を消した。


 そう、姿を消した。

 これは間違いなく


「転移魔法じゃん!」


 つまり


「魔法使い…ってか、貴族じゃん!」


 転移魔法を使えるのは貴族だけ。

 つまり彼女が貴族なのは確定的。


 おそらく当主ではなく、どこかの家のご令嬢だろう。

 それで名前も顔も知られていない。


 だからってなんで踊り子?

 しかもこの街で?


「たまにいるんですのよ。変な貴族って」


 ミネルバも呆れ顔だ。


 だがまあ、下民に偏見のない貴族がいるってことは収穫かな?

 たぶん



 ---



「ソラ。素晴らしいものを見せてくださって感謝いたしますわ。次はぜひ我が家にいらしてくださいと言いたいところですが、お父様を始め家の者が大わらわになってしまうでしょうから…」


 ”皇帝の兄”が領地に来ては、どんな貴族でも持て余すだろう。

 それぐらいは想像がつく。

 自重しよう。


「でももうすぐ学院も始まりますし、また毎日会えますものね。それに帝城の私の部屋なら招待できますわ。もちろん、みなさんもご一緒に」

「ああ、ありがとう」

「喜んで行かせてもらうよ」

「クッキー焼いてもってきますね!」

「楽しみにしております」


 みんな笑顔で即答だ。

 それにミネルバも笑顔を返してくれる。


「皆様、本当にありがとうございました。では、ごきげんよう!」


 こうしてミネルバは帰っていった。


 夏季休暇はもうすぐ終わる。

 でもなんだかようやく、夏休みらしい一日を過ごせた気がした。



ミネルバは金髪縦ロールなので、一人だけフード姿のシルエットが特徴的です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 踊り子の名前・・どこかで聞いたことあるような・・? 今後のキーマンになるのかな?
[一言] 踊り子マーニャ…… 占い師ミネ……あっと誰かが来たようだ
[良い点]  金髪縦ロール!(声を大にして言いたい) [一言]  そっか、少し大きくなったのか。
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