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16話 魔法の授業

「ごきげんよう。共にエメラルド様から学んだ者として、あなたを私のお友達として認めて差し上げますわ。ソラ」


 翌日登校すると、ミネルバがそんなことを言ってきた。

 取り巻きの数は減っている。


「ごきげんよう。でも、本当に間に合ってるんで。大丈夫です」


 そう返すと不満そうにしていたが、仕方ない。

 友達とはこういうふうに宣言してなるものではない。たぶん。

 だから、そう答えさせてもらう。


 さて今日の最初の授業はなんだっけか

 そんな風に準備を始めると、廊下から声が聞こえてきた。

 わざわざ俺を見るために、別のクラスや学年から見物に来てるらしい。

 そんな面白いものでもないのに。


「あれが噂の編入生?」

「エメラルド様とお知り合いだとか。羨ましい…」

「俺だって、勉強教えてもらいたいぞ…!」


 あれは決して羨ましがられるようなものではないのだが。

 大いなる誤解があるようだ。


 だがこれで納得がいった。

 編入生というより、エメラルドの知り合いを見に来たらしい。

 あわよくばエメラルドが現れるかも、という期待半分に。


 だがエメラルドには仕事がある。

 放課後はまだしもこんな朝にいるはずもなく、授業が始まった。



 学院の授業は難しい。

 だがついていけないほどでもなかった。


 これもひとえにエメラルドの受験勉強の賜物だろう。

 あれに比べれば授業というのはなんと楽しいものだろうか。

 命の危険を感じる必要もない。

 パラダイスではないか。


 体育の授業も楽しかった。

 こちらも慣れない体操やら何やらをさせられるのは戸惑うが、ビスケッタさんの特訓に比べれば遊びのようなものだ。

 体を動かすことが楽しいだなんて、生まれて初めて感じた。


 スラムでは頭を使うといえば金儲けのため。

 体を使うといえば金儲けのため。


 金儲けのためでなく頭や体を使う

 それはとても新鮮な感覚で、楽しかったのだ。


「ソラ。編入生というわりには、あなたそこまでではございませんのね?」


 たまにミネルバが突っかかってくる。

 編入生たる俺は抜群の実力を持っていると思われていた。

 だが実際は実に平凡。


 すでに小テストもいくつか受けたが、結果はそこそこだ。


「先程の小テスト。私は、満・点でしたが、あなたはいかほどだったのかしら?」


 わざわざ満点を強調してくる。

 って、満点?


「そりゃすごい!」


 そりゃ強調もしたくもなるね。

 さっきの小テストは数学で、暗記だけすればいいというものではない。

 彼女は意外と、すごいらしい。


 思わずパチパチと拍手もしてしまった。


「へ?あら?そ、そうでしょ!私は、すごいんですのよ!」


「おーっほっほっほ」なんて笑いながら去っていった。

 ただの偉そうなお嬢様ではなかったようだ。

 俺も負けていられないな。


 その後の授業は、さらに熱が入った。

 そして、とても楽しかった。


 だが楽しい時間というのはすぐ終わってしまうもの。

 寂しいねえ。



 放課後、今日はビスケッタさんが校門で待っていてくれた。


「ソラ様、本日もお疲れさまでした」


 俺の鞄を持ってくれるビスケッタさん。

 断っても、「主人に鞄を持たせるなど、メイドの恥です」と許してくれない。


 そんな俺とビスケッタさんを見て学生たちが何かを話している。


「あれ?あれって、ビスケッタ様?」


 違った。

 俺たちではなくビスケッタさんを見ていた。


「お前、失礼だぞ。ロッキー公爵家のビスケッタ様と言えば、鋼鉄のビスケッタ様だぞ?そんな方が、メイドなんてしてるわけないだろ」

「まあ、そりゃそうか…」

「でも確かに、そっくりだな」

「だろ?いいなあ。俺もビスケッタ様そっくりのメイドさんが欲しいなあ…」


 立ち聞きする限り、彼らは両親に連れて行ってもらった晩餐会でビスケッタさんに会ったことがあるらしい。

 最後に俺のことを羨ましそうに見つめ、去っていった。


「ソラ様、お帰りになられないのですか?」


 うわさ話など気にもとめず、不思議そうなビスケッタさんが問いかけてくる。


「ぼーっとしてました。すいません。帰りましょうか」


 ビスケッタさんがメイドしてくれることは、まあ、羨ましがられても仕方ないかな。

 頼りになるし。

 美人だし。



 今日はそのままサラのところにも寄った。


「兄さん兄さん。学院は楽しいですか?」


 目をキラキラさせながら興味津々に聞いてくる。

 俺は頭をなでながら答える。


「もちろん。サラが理事長の学院だからね。楽しいに決まってるじゃないか」


 サラは頭をなでられてとても嬉しそうだ。

 目を閉じて体を預けてくる。


「よかったー。兄さんが楽しんでくれて。私、とっても嬉しいです!」


 上目遣いで微笑みかけてくる。

 本当に嬉しそうに。

 幸せそうに。


 そんなサラには言えない。

 明日から始まる魔法の授業。


 それが不安で不安で仕方ないなど、口が裂けても言えなかった。



 ---



「ではいってらっしゃいませ。ソラ様」


 ビスケッタさんが校門で見送ってくれる。


 ビスケッタさんは毎朝こうして俺と一緒に登校してくれる。

 そして帰りは必ず迎えに来てくれる。

 ビスケッタさんがどうしても外せない時は他のメイドさん、そしてときにはエメラルドが。


 なぜか?

 理由は簡単だ。


 俺が魔法を使えないから。


 魔法を使えないから、帝城内を自由に移動することすらかなわない。

 なぜなら、帝城内は魔法使いのために最適化されているから。

 魔法使いでない俺には、扉一つ開けることすらままならないのだ。


 だから、登下校には必ず魔法使いに一緒にいてもらう必要がある。

 移動するためだけに、付き添ってもらう必要があるのだ。


 みんな笑顔で付き合ってくれる。

 それでも、申し訳ない気持ちにならないはずがない。

 少し気持ちが重くなる。


 特に今日は、憂鬱だ。

 だって今日は、俺が初めて魔法の授業を受ける日なのだから。


「ではぁ、授業を始めまぁす」


 微妙に言葉を伸ばすのは詠唱の訓練のためだと自称している。

 だが誰もそんなこと信じてはいない。


 この人は学院魔法科教授、スポール先生。

 子爵位をもつ貴族であり、口調はどうあれ実力のある魔法使いだ。


 でも俺には関係がない。

 だって俺には魔法が使えないから。

 俺にとって魔法の授業は、何の意味も持たないものだから。


「今日はぁ、予定していたとおり実技を行いまぁす」


 当然だが俺のことを教師陣は知っている。

 俺が皇帝の兄であることも、そして魔法が使えないことも。

 そんな俺が初めて受ける魔法の授業だからといって、一切手心は加えず予定通り実技を行うという。


 初代皇帝の「学院内は全て平等」という訓示はちゃんと生きているらしい。 

 自分にとって不利なことなのに、なんだか嬉しかった。


「みなさんのぉ、炎魔法を見せてくださいねぇ。学院入学前に予習してきたこととぉ、入学後に習ってきたことぉ、何でも使ってかまいませぇん」


 炎魔法は初歩的で魔法使いならいの一番に覚えるものらしい。

 だからといって簡単ではなく、奥も深い。

 ゆえに炎魔法を極めた魔法使いが貴族になることも珍しくはない。


 良い例がエトナ大公家。

 炎を司る、大公家筆頭。

 かの家の存在が、炎魔法の重要性を端的に示している。


 そんなことを考えているうちに俺の番になってしまった。

 俺が魔法を使えないことを理解したうえで、スポール先生は次は俺だと指名してくる。


「あなたはぁ、どうやってこの場をやり過ごすんですかねぇ?」


 という眼差しを送りながら。

 

 なるほど。

 他の生徒にとってはこれはただの魔法の授業。

 だが俺にとっては魔法が使えないでこの状況をどうやってやりすごすか、という授業らしい。


 変な話し方以上に面白い先生だった。

 嫌いじゃない。


 こういうとき、普通ならからめ手でに終わらせたり逃げたりするのだろう。

 残念だが、俺はそんな器用ではない。

 器用に生きようとして、親方に殺されかけた。


 俺はこういうとき、真正面からぶつかるしかないんだ。



 ---



 繰り返しになるが、俺には魔法が使えない。

 そもそも魔力がない。


 だから当然、どれだけやろうと他の生徒のように炎を生み出すことなどできなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


 それでも必死に詠唱を行い、魔法を繰り出す振りをする。

 そして何も起こらない。

 それを何度も繰り返す。


 最初は笑っていたクラスメイト達

 今は怪訝そうな顔をしてひそひそと何か話をしている。


 先生は最初からずっと同じ顔で俺を見続けている。

 面白そうにではなく、興味深そうに。

 新しい観察対象を見つけた学者のような目つきで。


 まさに見世物だ。

 だが、負けてたまるか。


 負けちゃいけない。

 敗北を認めたやつから死んでいく。殺されていく。

 俺は、俺たちは、そんな世界で育ってきたんだ。


 気を奮い立たせて俺が再度詠唱を始めた、そのときだった。


 ゴオッ!


 俺の真横で、とてつもなく巨大の火の玉が生み出された。


「これが炎魔法というものです。皆さん、これを見本にして励むとよろしいですわ」


 それを作り出したのは、ミネルバだった。


 俺の体よりも大きな火の玉

 他の生徒はせいぜい俺の頭ぐらいの大きさだったのに

 彼女はそんな巨大な火の玉を、事もなげに生み出していたのだ。


「さすがミネルバ様!」

「こんな巨大な火の玉、私の父にも作り出せません!」

「どうか私にも教えて下さい!」


 これのおかげで場の注目は俺から一気にミネルバへと移った。

 そしてそのまま俺の番などなかったかのように、ミネルバ主導で授業は続いていった。


 俺の横を通り過ぎるとき、先生が囁いた。


「良いお友達を、お持ちですねぇ?」


 別に友達ではないのだが。

 だが事実として、間違いなく、俺はミネルバに助けられたのだ。



 ---



 それから、俺への見物客の視線は変わっていった。


「あれが、魔法が使えないって編入生?」

「なんでそんなのがエメラルド様と?」

「魔法が編めないほどの魔力しかないのに、なんで入学できたんだ?」

「勉強もそこそこだってよ。マジで意味わかんね」


 興味深い視線から疑いの視線へ。

 だが別に俺には関係ない。


 逆にこの視線こそ、下民の俺にはふさわしい。


 下校時間になり帰ろうとすると、声がかけられた。

 直接声までかけられると思わなくて、少し驚きながら振り向く。


「ソラ、ちょっと付き合いなさい」


 そこにいたのは、ミネルバだった。

 有無を言わさぬ感じで無理やり連れて行かれる。

 場所は先程の授業で使った、魔法の実技場。


 いったい何のつもりだと思う。

 いや、嘘だ。

 何のつもりかなど、明白だ。


「ソラ、私があなたを特訓して差し上げます」


 予想通りの展開。

 だが理由はわからない。

 俺など放置してもいいだろうに。


 俺の心を読んだかのように、ミネルバは理由を教えてくれた。


「言ったでしょう?私とあなたは共にエメラルド様に学んだ者同士だと」


 彼女はそんなことで、わざわざ放課後を使って俺に特訓をしてくれるという。


「あなたの恥は私の恥、そしてエメラルド様の恥。心してかかっていらっしゃい!」


 別にそんなことはないと思うが、彼女にとってはそうらしい。

 そこでわざわざ放課後の自分の時間を潰してまで、俺を特訓してくれると言っている。

 何の見返りも期待できないのに、ただの善意で。


 なるほど。

 取り巻きに囲まれておかしくなってただけで、根は悪いやつではないらしい。


 その日は日没まで特訓したが、当然俺が魔法を使えることはなかった。

 だがミネルバはめげることなく俺に教えてくれた。

 多種多様な魔法も見せてくれ、圧倒されたし勉強になった。


 そして何より、楽しかった。


「ソラ。あなたはまず魔力の練り方から学んだ方がよさそうですわね…。明日からは、そこを行いましょう」


 なんと、明日以降も付き合ってくれるらしい。


「それはありがたいけど…。でも、いいの?」


 そんな手間を掛けさせて申し訳ない。

 だがミネルバ「おーっほっほ!」と笑いながら答えてくる。


「愚問ですわ。未熟な魔法使いを導くのは貴族の義務。ましてそれが同門ならなおさらですとも。何より、人に教えてるのって意外と自分のためにもなりますのよ?」


 俺を気遣ってか本心からか、そんな風に自信満々に。


「そうか。なら、ありがとう」


 だから俺は素直に、お礼を言う。

 そしてミネルバはやはり自信たっぷりに返してくる。


「お礼など不要!と言うところですが、あなたの感謝、受け取って差し上げますわ!」


 彼女だけは魔法の授業の前後で何も変わらず、少しうれしくなった。



 その日のお迎えはエメラルドだった。

 俺がミネルバにお世話になったことを伝えると、彼女はすごく嬉しそうな顔をした。


「ミネルバ、成長したなあ!」


 生徒の成長を喜ぶ、先生の顔で。



先生の中には「下民ごときが伝統ある学院に…」と思ってる者もいれば、「あの方に取り入れば皇帝陛下のお近づきに…」と思ってる者両方います。

スポール先生はどちらでもないフラットな考えを持っているというか、純粋にソラのことに興味津々です。

ソラがある意味期待に答えて無事初回を乗り越えたので、次回以降は柔軟に対応してくれます。


昨日はついに50000PV/1dayを達成いたしました。

前作の完結ブーストの1.5倍です。

たくさん読んでいただき、たくさん評価いただき、たくさん感想頂いてとても嬉しいです。

がんばります。

まだの方はぜひ↓の☆☆☆☆☆を★★★★★へ変更いただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界の魔法って庶民は知識がないから使えないとか魔力が少ないから大したことないとかじゃなく本当に全く魔力がなくて一切魔法が使えないんだね、努力してもどうにもならないのかな?
[一言] > そんな俺が初めて受ける魔法の授業だからといって、一切手心は加えず予定通り実技を行うという。 >初代皇帝の「学院内は全て平等」という訓示はちゃんと生きているらしい。  あ、「学院内は全て…
[良い点] 魔法の授業を、どんな風に切り抜けるかと思ってましたが、正面からぶつかっていきましたねー ヘタにごまかしたりしない態度は好感が持てますが、さすがに風当たりが強くなったりしないかなー、と思った…
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