17話 学院と貴族
一口に貴族といっても、その中でも階級がある。
一番目が大公。
四家しか存在せず、増えることも減ることもなく皇帝を支える世界の支柱。
帝位を巡って争いが起きれば、大公が皇帝を選定する。
それほどの力を持つ存在だ。
二番目が公爵。
大公はある意味例外のため、実質的に貴族の最高位。
ビスケッタさんは初代皇帝時代から続く名門公爵家。
そして親衛隊隊長オスカルは一代で公爵に上り詰めた傑物。
最高の血筋と最高の才能が揃った、貴族の中の貴族達。
三番目が侯爵。
金髪縦ロールさんことミネルバの実家、バレス侯爵家はここだ。
三番目かと思うかもしれないが、貴族社会のヒエラルキーでは全然上。
巨大な領邦を持つ大貴族、それが侯爵家だ。
四番目が伯爵。
エメラルドの実家、エメラルダ家はここにあたる。
地上にある魔法使いの都市はたいがい伯爵家以上の領邦にある。
魔法使いの上に立ち、魔法使いを治める存在だ。
ここから先は子爵、男爵、騎士と続いていく。
エメラルドが叙勲された騎士は一番下の階級だが、そもそもそれを世襲の地位として必死で守り抜いている一族が大勢いるのだ。
それを一代で、俺と同い年でなし得るなど、普通はありえない。
普通の魔法使いが幼い頃から夢見る、おとぎ話のような話だ。
なお繰り返しになるが、ミネルバは侯爵家の公女である。
つまり彼女は、この貴族社会のほぼ頂点の出身。
偉そうなのではない。
偉いのだ。
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ミネルバとは少し仲良くなり、一緒に昼食をとることもあった。
彼女の取り巻きも、一緒に。
「ミネルバ様、今日の実技も素敵でしたわ!」
「地水火風の四大属性はもちろん、他の属性も軽々と使いこなすなんてさすがです」
「俺も何か一つでいいから、ミネルバ様レベルの魔法が使えるようになりたいです!」
「そうでしょうそうでしょう!」
取り巻きが煽れば煽るほどミネルバは調子に乗る。
根が単純らしく、周りの声で簡単に悪い方向にも行ってしまう。
下手に地位も才能もあるだけに色んなのが周りに集まってかわいそうに。
スラムだったら間違いなく絞られたあげくに最後は身ぐるみ剥がされるタイプだ。
何人も見てきた。
彼女が侯爵家公女であることも絡めて褒めそやす輩もいる。
そういうのは貴族でない、いわゆる地上出身者に多い。
大貴族に気に入られるというのは、彼ら彼女らの人生にとってそれほど重要なことなのだろう。
俺はある意味それの最高峰だ。
妹のコネで分不相応な地位を手に入れた男。
彼らのことをとやかく言う資格はない。
だがあからさまな言い方についつい嫌な顔をしてしまった。
そういうのを見たくないから学院に来たのにな、と。
「なんだソラ。お前、ミネルバ様と一緒に昼食をとらせて頂いてるのに何が不満なんだ?」
目ざとく見つけて指摘してくる取り巻きの一人。
確か母親が騎士の家の出身で、自分は次男。
兄と家督を争っている彼としては、ミネルバとの結びつきは重要なのだろう。
ミネルバの実家、バレス侯爵家との結びつきが。
「いや、別に」
ミネルバとの昼食に不満はない。
もちろん彼と一緒にとることも。
不満があるのは、会話の内容だ。
「ならもっと楽しそうにしろ。ミネルバ様と一緒に昼食をとれることの喜びを噛み締めながらな」
まるで自分の手柄であるかのように言ってくる。
なんと返すべきか迷う。
だがミネルバが「そんなこと感じなくてもよろしいですのよ」とたしなめ、この話は終わった。
せっかくの昼休みなのに、逆に疲れてしまった。
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「学院はいつでもそうですよ。常に理想と現実の板挟み。それでも学外に比べればありえないくらい平等ですし、適当に折り合いつけていかないと、ですね」
帰宅して夕食を取り、食後の休憩と数人で雑談している。
最初はメイドさん達みんなから恐れ多いと拒否されてしまったが、最近は何人か参加してくれるようになった。
主に学院卒業生のメイドさん達が。
「年によってまちまちなんですよね。ある学年は大貴族が全くいなかったり、逆にある学年は何人もいたりって。私のときは公爵家と侯爵家はいなかったけど、逆に大公家の御曹司がいてびっくりしましたよ」
さっきから話をしているのはリゼル。
マスタング伯爵家次期当主、リゼル・マスタングだ。
以前部屋に入れなくなった俺を助けてくれた恩人メイドさんである。
彼女にとっては俺を部屋から閉め出してしまった大事件だが。
学院に入ってからは後輩である俺を色々気づかってくれ、段々と親しくなってきた。
休憩時間などはこのように少し話をしてくれるようにもなったのだ。
「私の学年は公爵家の者が数名おりましたが、平和なものでしたよ。身分というものから解放された、懐かしい思い出です」
これはビスケッタさんの発言。
ビスケッタさんはロッキー公爵家の公女だから、そもそも彼女より格上の貴族は大公家しかいない。
だが公爵家出身者が数名いる学年か…。
侯爵家のご令嬢一人で今あのような状況なのに、平和だったとは。
ビスケッタさん達の人徳によるものだろうか?
「私の学年は公爵家と侯爵家、さらに大公家もいたんだがなあ。ソラのような状況、見たことはなかったぞ?」
この発言の主は、エメラルド
エメラルダ伯爵家公女にして、自身も騎士に叙勲されている史上最年少の親衛隊隊員
エメラルド・エメラルダ
彼女の場合はちょっと違った。
「エメラルドちゃんは、例外だから…」
苦笑しながら指摘するのはユキ・ブロンコ。
ブロンコ伯爵家のご令嬢で、花嫁修業として俺のメイドさんになっている。
皇帝の兄のもとで働いたという実績は色々役に立つらしい。
俺には全く価値がわからないが。
ちなみに彼女、エメラルドと同じ年に入学したらしい。
「エメラルドちゃん、あっという間に飛び級で上の学年に行っちゃって、さらにどんどん上に登っていって、しかもずっと首席でそのまま卒業しちゃったから…。むしろエメラルドちゃんが一番恐れられてたんじゃないかな?」
「え、そ、そうなの?」
エメラルドが驚いてる。
さっきまでひょいひょいクッキーを口に入れてた手の動きが止まるほどに。
どう聞いてもやばい存在だが、本人は自覚がなかったようだ。
そこが一番やばい気がする。
「でもエメラルドちゃんのおかげで、そういう対立はなくなって助かったよ。一番すごいのがエメラルドちゃんってわかってるから、他のみんなの仲間意識が強まったの。今まで見たことがないくらい仲の良い学年だったって、先生達が喜んでた」
「そ、そうなんだ…」
笑顔のユキ
それに対して複雑な表情のエメラルド
自分がいたから逆に他のみんなが仲良くなれたなんてわかったら、まあ、そうなるよな。
エメラルドのおかげ、というのはたぶん違う…。
「ソラ様の学年はバレス侯爵家以外の貴族は伯爵家が数名で、子爵や男爵、騎士と数が増えていくようです。珍しい構成ですね」
貴族は階級が上になるほど数が減っていく。
だから当然、下の階級の貴族ほど数は増える。
だが学院の生徒数はそうはいかない。
なぜなら階級が上の貴族ほど一般的に才能を持っており、かつ勉学に費やす金も権力も持っている。
ゆえに数が少ないはずの大貴族が大勢入学している場合が多々発生するのだ。
今年は単に、同年代の大貴族の子弟が少ない年だった。
だからこんな珍しい構成になった、らしい。
「殿下が皇帝の兄君であることを公表すればミネルバ様の取り巻きなんてすぐ黙らせられるのに…。もちろん殿下が望まれないから、ありえませんが…」
「殿下の人徳を理解できないなんて!」なんてことも付け加え、リゼルが俺以上に俺のことで悔しがってくれる。
逆に恐縮してしまう。
俺に対してずいぶん恩義を感じてくれているようだ。
その後もみんなでワイワイと会話した。
みんなで楽しそうに学院の話をしてる。
「先代陛下が即位前に在学されていたときは、毎日晩餐会を開いておられたとか」
「大公家の御曹司でもそういう人いるみたいですよ。私の時は違いましたが」
「学院で社交界デビューって、よく聞きますよね」
「今は大公が学院に一人いらっしゃいますが、例外ですね」
知らないことばかりで、聞いてるだけで面白い。
「でもミネルバのおかげでソラが魔法の授業で困ることもなくなったようだし、本当に良かった。ソラ、これらかもミネルバと仲良くしてくれると、私も嬉しいな」
最後にエメラルドがそう笑顔で言ってくる。
仲良くしてるというよりお世話になってる感じだが、何か恩を返せるときがあれば返したい。
そう思っている。
そしてその機会は、思ったより早く来た。
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最近は数日に一回、放課後にミネルバと魔法の教えを受けている。
俺に絶望的に魔法の才能がないことに気づいたミネルバは、最近は座学に力を入れている。
実際はそもそも魔力がないのだが。
だが、その日は定刻になってもミネルバが来ない。
思い出すと昼休み以降見かけなかった気がする。
教室に戻ってみると、取り巻きの一人がいた。
ミネルバのことを聞いてみよう。
すると彼は、俺を馬鹿にしたような笑みを返したきたのだった。
「お前、まだミネルバなんかを気にしてるのか?あいつは終わりだよ。なにせ、あの方に逆らっちまったんだからな」
ミネルバに対する突然の態度の変貌
なにより、「あいつは終わりだよ」という言葉
強い口調で問いただすと、吐き捨てるように言ってきた。
「な、なんだよ?そんなに会いたきゃ、最上級学年のとこに行けばいいだろ」
最上級学年
そのキーワードで全てが察せられた。
もうこんな男はどうでもいいと、教室を飛び出て走り出す。
目標は決まってる。
ミネルバのもとへ。
扉を開けると、地べたに転がされたミネルバが目に入った。
いつも美しく巻かれていた縦ロールが、乱されながら。
「そ、ソラ…?あなた、いったいなぜ…?」
心底不思議そうに見つめてくる。
ありえないものを見るように、見つめてくる。
誰かが来るなど絶対にありえない、そう確信していた者の瞳で。
「へえ…。意外と人望、あるんだね」
その隣で腰掛ける男
侯爵家公女を地べたに這いつくばらせ、悠々と座る男
彼こそ、例外
「君。もしかしなくても、彼女を助けに来たんだよね?」
この学院で俺以外に存在する、もう一人の例外
「ああ。もちろんだ」
即答する俺を見て、面白そうな顔をする男
「そんな口の利き方されるなんて、久々だよ」
彼の名前は、ノヴァ・ガイア
全貴族の頂点に立つ四大公家が一つ、ガイア大公家
その当代当主、その人だ。
大公の一人が登場しました。
09話でセリフだけ出てるので、一応二回目となります。
ちなみにメイドのユキは初登場となります。




