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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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第六十四話 鍛冶師Ⅱ

 ナダはコルヴォに武器の作成まで暫くかかると話すと「なら、遷移領域への挑戦の時期を少し遅らせる」と言った。

 十分な準備ができてから挑むことにしたようだ。

 他の仲間たちへの説明は、コルヴォ自身が行ってくれるようだ。ちなみに同じようにもう一度鍛え直すためにもっと訓練をしたいとの申し出がアスからもあったらしい。遷移領域への挑戦メンバーに、当然のように双色ジェメオスであるアスも含まれていた。


 それでも、ナダの冒険が止まることはない。

 一旦、テナシダの言うように新たな武器を模索するために、様々な試作品を試すことにしたナダは、アーザ第一部隊から離れて、一時的な部隊で迷宮を巡ることにした。


 そのメンバーが以前にも一緒に冒険したことがあるルルドとパウロ、それに一から冒険を練り直すことにしたアスだ。

今回のアスの冒険は剣を鍛えるためではなく、一人の風のギフト使いとしてパーティーに殉ずることにしたらしい。一から全てを学び直すことにしてアスは、着実に成長していた。


だからナダが先頭に立つことになる。

今回、テナシダから渡された武器はシンプルな槍だ。ペルセベランサで作られた柄に、鉄の刃がついている。鉄の刃が熱くなろうと、柄からは遠いため熱くなく思う存分に使えるのだ。


ナダは浅層で火人相手に槍を振るう。しなるようなその一撃は早く、火人を深く切り裂いた。だが、続けざまに来る二体目の火人相手へは、距離感が上手く噛み合わず、柄の部分のまま殴り、遠くの壁まで飛ばして爆発してしまった。結果はよかったが、思うような戦い方ではなかったため、ナダは不満げだった。


そんな単調な冒険が続く。

ルルドは土のギフトによるナダのサポート。アスは風のギフトによる移動速度の向上と剣の切れ味強化を行っていた。

矢面に立つナダの脇を剣で補助するのがパウロだ。とはいえ、パウロの活躍は少ない。扱い慣れていない武器であっても、ナダは平気で火人を殺していくからだ。


それから何度か振るっているうちに、テナシダから渡されて槍を床にぶつけて折ってしまったナダ。仕方なく予備で持ってきたいつもの剣で火人を殺すことになる。


 この日、ナダ達の冒険は中層には挑戦せずに、浅層だけを回ることで終わる。はぐれのような特殊な個体と戦う機会はなかった。あくまで火人を何人も倒しただけ。四人での冒険にしてはカルヴァオンは多少多い程度の稼ぎであるが、まだまだクラーテルの他のパーティーを考えると、全然だと言えるだろう。


 迷宮から帰ってきたナダの腰には、剣が一本しか残されていなかった。他の武器は使い潰したので、鞘ごと迷宮に捨てて来たのである。モンスターが拾う事もあるため、あまり推奨されていないがナダの武器は拾われても脅威になるような武器ではない為、誰も責める事はなかった。


 ナダの身体には傷一つ、煤一つついていない。迷宮から出た途端に上から被っていたナダは厚手のローブを脱ぐと、下の薄い服は汗でびっしょりであった。やはり、この迷宮の環境は過酷だと、ナダは改めて思った。


 そんな冒険は次の日も続く。

 次の武器は大剣だった。木のみで作られた大剣だ。オリハルコンで作られた大剣と比べると遥かに重たいのだろうが、以前に鉄で作られた大剣を持ったこともあるナダとしては、その剣を軽いと思ってしまった。


 縦横無尽に剣を振り、蛇人を殺していく。

だが、ナダが望むほどその一撃は重くなく、蛇人に防がれることさえあった。しかし二発目を続けざまにナダは叩き込む。この剣は威力はそこそこだが軽いので、連続で攻撃する武器だと瞬時に理解した。その戦い方で、パウロよりも実力を見せつけたが、やはりナダは不満げだった。思うような武器ではなかった。蛇人に通用したとしても、龍鱗を砕けるかどうかがわからなかったからである。いや、きっと無理だろう、と結論づけた。


 それから休息を一日だけ設け、またナダは迷宮へと同じメンバーで潜っていく。

 次の武器は二つの刃がついた大斧だった。まるでコウモリの羽のような形をしていた。全てが木で作られているが、両側に大きな刃をつけることにより、重量を増すことに成功している。それは力で押し潰すような武器だった。


 ナダはそんな武器をラプトルに叩きつけて、胴体を破壊していった。新たなラプトルは遠心力を活かし横に振るう。これまでの武器よりも使いやすかった。

 一つだけ不満があるとすれば、振った後の隙が大きいことだ。青龍偃月刀に比べると威力に傾倒しすぎて取り回しづらい。

 ああ、青龍偃月刀はいい武器だな、とナダは改めて思ってしまった。


「お前さんは、槍が好きかい?」


 ナダが素直に武器の感想を告げると、武器を打っているテナシダからそう言われてしまった。


「ああ、好きだな。バランスがいい。重量も、攻撃力も、取り回しやすさも。大剣も使いやすいがな。まあ、よく振ってきたから慣れているのもある」


「なるほど。大斧はお前さんに似合う武器だと思ったが……」


「別に使い込めば、馴染む武器だとは思う。だがな、今はその時間がない。武器が出来たら遷移領域に行くつもりだ。遷移領域の難易度は“それなり”なんだろう?」


「……それは急だな」


 テナシダは困ったように唸った。


「武器も考えずにこの町に来たからな。まさか愛用の武器が使えないとは思わなかったよ」


「最近の武器は槍だったな?」


「ああ、青龍偃月刀だ――」


 ナダはわざわざインフェルノから持ってきた青龍偃月刀は、ずっと自室にしまいっぱなしだった。わざわざバルバの手によって再調整をなされた武器だが、未だに活躍の機会は与えられていない。特に全てがウーツ鋼で出来た青龍偃月刀は、ソールの環境では使いにくいのだ。


(まあ、使おうと思えば使えるがな)


 とはいえ、ナダは――英雄だ。心臓が石のように固くなり、“不老不死”になるという病に悩まされている。

 だから手の平が焼けようと、不老不死の体で無理やり運用することはできなくはない。持っている手は勝手に回復させるはずなのだ。まるで癒やしのギフトを使っているかのように。


 だが、ナダはそれをしたいとは思わなかった。どんな怪我であれ、痛覚が無くなることはないのだ。出来ることなら痛みを感じたくはない。そもそもそんな武器の使い方をしている者は他にソールにいないのだから、きっと変な目で見られるだろう。いや、もっと酷い目に合うかも知れないと、ナダは自重していた。


「じゃあそれを持ってこいよ。今の愛用武器なんだろう? 少し様子を見て、新しい武器のインスピレーションにする。整備は……バルバがしているのなら問題はねえだろう? きっとお前さん専用にしている筈だ」


「だろうな――」


 ナダもバルバの腕は信頼している。何度か振ってみたが、特に問題はなかった。むしろ、バルバに何度も調整に出すごとに、少しずつ、本当に少しずつだが、より自分に合うように調整されているような気がするのだ。

 重量のバランス、刃の向き、切れ味、どこがどう変わったのか、ナダにはプロの仕事がよく分からないが、少しずつ青龍偃月刀も成長しているように感じる。以前よりも軽く振れ、より強く振るえるのだ。それはマゴスで使っていたときより、明らかに威力を増していた。

 とはいえ、ソールでは使えないのだからもったいない、とナダは思う。


 それからナダは自宅に戻ってから、青龍偃月刀をテニシダの元へ運んだ。

「なるほど」とテニシダは呟いた。その後に「いい武器だ」とも続ける。テニシダは青龍偃月刀について詳しく教えてくれた。


 この武器自体は数百年前に作られたものらしい。テナシダ曰く、当時のパライゾ王国と隣国のカルメロ共和国との間に大きな戦争が起こっている時代に作られたと仮定すると、「八百年ほど前か」と教えてくれた。


 戦争において銃が大きな意味を占める現代とは違い、その時は弓が大きな意味を占め、次に馬、最後に歩兵だった。

 馬上で使う武器の開発が進み、大型武器が発展した時代だという。また冒険者にとっては氷河期であり、戦争に駆り出されるものが多くあまり迷宮探索は発展しなかったようだ。


 そんな時代に開発された武器の一つが青龍偃月刀らしい。これが実際に戦争に使われたかどうかは多くのモンスターを倒した後なのでテナシダは分からないが、その時に作られた物でほぼ間違いないとのこと。当時はこれを馬上で屈強な男が振り回し、敵兵をなぎ倒していたらしい。とはいえ、そんな者は昔であっても稀らしいが。


「今じゃあ一般的な冒険者の武器はオリハルコンかヒヒイロカネの二択だ。これらをいかに合わせるか、また鉄も加えて重量をどうするか、に重きを置いている。そう考えると、ソールは特殊だな」


「とはいえ――」、とテナシダは別の選択肢も上げる。「モンスターの素材を使うのもよくあることだな。そもそもそれらは扱う職人も少ないが。あいつらの専売特許だ」


 あいつら、というのを御三家の一つであるウェントゥス家だというのをナダは知っている。

 モンスターの牙や骨を最初に武器にしたのが大昔の彼らであり、その加工技術によって御三家の一つに数えられたようだ。もちろんオリハルコンやヒヒイロカネの加工技術も優れているが。


「それなのにテナシダもモンスターを加工するんだな――」


 あの時は誰も陸黒龍之顎を作ってくれなくて困ったナダだが、助け舟を出したのがテナシダだ。

だが、テナシダはイーグニス家だ。火を愛し、火に愛された一族であり、その根本はヒヒイロカネやオリハルコンの精錬技術が秘奥であり、モンスターの素材とは無縁の筈だ。


「オレのことは気にするな。破門された身だ。一緒にするんじゃねえよ。今でも実家の奴らは依頼されてもモンスターの武器は作らねえよ。それよりも、優れた剣があるって言うさ」


「それは殊勝な心がけだな」


「ああ、全くだ――」


 テナシダは実家を貶すように言った。

 どうやら彼とイーグニス家には大きな隔たりがあるらしい。だが、野暮なことなので深く聞いたりはしなかった。


「で、いい武器は思い浮かんだか?」


 ナダは待ちかねたように言った。


「ああ。一つだけだが――いい武器が浮かんだ。あとは形になるか、だ」


「なるのか?」


「ここまで付き合ってくれたんだ。形にはしてやる。後使えるかどうかは、お前さんの努力次第だ」


「それは楽しみだな――」


 ナダは遠い空を見ながら笑う。

次回からは遷移領域への挑戦になります。

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