第六十二話 武器探し
クラーテルのすぐ傍にある活火山ウェスウィオ山では、時たま噴火口から溶岩が溢れ出す。とはいえ、クラーテルまで届くことはもう当の昔なのだが、ウェスウィオ山には溶岩の影響か動物もほとんどいなかった。本来なら草木も生えずただの岩山となるのだが、どうしてかウェスウィオ山には一種類のみの木がところどころに生えている。
それが――ペルセベランサだ。
ペルセベランサは赤茶色の木であり、大きな緑の葉がつく。茶色の固い木の実もつくが、固すぎて食べる生物は一つとして存在しない。そんなペルセランサの特徴はと言えば、とても固いことと熱に耐性があるということだ。
もちろんマグマに直接触れれば燃えて消し炭になってしまうのだが、熱気程度では性質がほとんど変わらず、鉄とは違い熱の伝導率も低いため熱い迷宮内でも武器として問題なく持つことが出来る。その分重量が他の木と比べるとあるのだが、くりぬいたり、薄くしたり工夫することで従来の剣と同じ性能を誇っている。また人によっては熱が比較的もちやすいがアビリティやギフトとの親和性が高いヒヒイロカネや硬く軽いが同じく熱を持ちやすいオリハルコンを刃の部分のみに使う武器も数多くある。
とはいえ、多くの者がペルセベランサのみで武器を作ることが多い。木と金属の組み合わせは接合部分が脆くなりやすいので、耐久力に難があるのだ。
クラーテルでソールに挑戦する冒険者は、そんなペルセランサを思い思いに加工した武器を作らなければならない。そうしなければ迷宮で満足に武器を振るえないこともあるからだ。
この町でも有名な冒険達はそんなペルセランサを使って、専用の武器を作るのだが、当然ながら幾つかの武器種は大量生産されており、この町に唯一ある小さな武器屋にも溢れている。
だが、ナダが求めている武器は、そのような武器ではなかった。
何故なら現代の武器は――小型化しているからだ。
冒険の歴史において、現代の冒険は最もアビリティを酷使している、と言われている。その要因の一つとしては、過去よりも強力なアビリティ持ちが多い事だと言われている。アビリティに目覚めた冒険者が出始めた黎明期では、今よりも添え物のようなアビリティが多かったとされている。それだけでモンスターを倒すものではなく、モンスターを倒す手助けをするものだったようだ。
例えば現代ではカテリーナの『光の剣』やコルヴォの『鬼殺しのようにアビリティの一撃でモンスターを倒すことが出来るが、過去のアビリティでは使った上で何度も剣を振るわなければモンスターを倒せなかったものが多い、とされている。
そのため、当時は武器だけでもモンスターが倒せるように、重さや威力を求めて大型武器を使う者もある程度はいたとされている。
だが、現代においてはモンスターを倒すのに武器ではなく、アビリティに偏る為、武器に攻撃力は求めず継戦能力や持ち運ぶ安さを重視して軽量武器を選ぶことが多いのだ。
だからナダのような大型武器は現代ではほとんど作られておらず、愛用者もごく一部であった。そんな武器であるため、どの鍛冶師もナダの武器を作るのを嫌がる。鍛冶師が多いインフェルノですらほとんどいないのに、ここ――クラーテルでは大型武器を作るような者は一人もいなかった。
「最近は忙しくてね。申し訳なかったよ」
コルヴォはそんなナダの武器問題を部下に任せて失念していたようだ。部下からの報告は受けていたが、その部下の報告では何人鍛冶師に声をかけた後、誰にも断られたので現在はインフェルノにまで行っているようだ。きっと今頃、インフェルノについた頃だろう、とコルヴォは語る。
「俺の方も何度か鍛冶師に直接会ってみたが、感触はよくなかったな。少しでも要望を伝えようとすると門前払いされる。あと、腕のいい鍛冶師が少ないのも注文を躊躇する理由の一つだ」
ナダも武器探しに関しては忘れていたわけではない。
だが、そもそもクラーテルでは武器を探す前に、鍛冶師を見つけないといけないのだ。これまで多くの武器を手に入れてきたナダだが、その殆どが過去に作られた”遺物”である。現在の鍛冶師が作ったものではない。
だが、ソールに潜るにあたって、過去の冒険者達が使っていた大型武器は存在しない。ソールが正式に迷宮として機能していたのは遥か太古のアダマスの時代であり、その次代の遺物は現代においても殆ど発見されていないからだ。
だから鍛冶師にあたってみたが、クラーテルには新気鋭の鍛冶師が多かった。腕がイマイチな鍛冶師も多い。そもそも木製の武器というのが、鍛冶師にとっては初挑戦だ。新しいノウハウが必要なため、ベテラン鍛冶師にはそんなものを作っている暇がない。手掛ける多くの職人がまだまだ経験が足りない者が多いのである。
それこそ――一流の冒険者の相棒を作り出せる者はほぼいなかった。
どうやら他の二つのクランは何人かのお控えの鍛冶師によって、この問題を解決しているようだ。だが、コルヴォのクランにはそんな者は存在しなかった。
「ここはそもそもの鍛冶師が少ないからね。ナダが使っている木剣ですら、数を揃えるのは大変さ」
「……じゃあ、アマレロやブラミアはどうやってあの武器を手に入れたんだ?」
「アマレロは独自の伝があるようだ。ブラミアは大剣と言ってもクレイモアだ。ナダが求めるほど長くなく、刃も薄くて細いから既に既製品があったんだよ。他のクランからのお下がりさ」
「なるほどな」
ナダは納得したように頷いた。
クラーテルに来てまだそんなに長くないので、武器に関してはもう少し待ってもいい、とさえ思っていた。遷移領域の挑戦ももう少し後でいい、とさえナダは考えてしまうのだ。今のままでも中層程度なら戦えているのだから。
「この挑戦には是非ナダも加えたいから、もう少し人手を増やしてみる。インフェルノに行った部下もいい知らせがあるか分からないからな」
だが、すぐにでもクランとしての結果が欲しいコルヴォが焦るように言った。
いい知らせがあったのは、それから数日後のことだった。
◆◆◆
「コルヴォ、この武器は誰が作った?」
だからナダは、アーザの屋敷でコルヴォが持ってきた方天戟を怪訝そうに見つめていた。
目の前にあった方天戟は、確かにペルセランサが使われた武器であった。
方天戟とは、長柄武器の一緒である。槍の刃の隣に月牙と呼ばれる三日月によく似た刃が二つつけられているのだ。現代ではその使い方や戦術は既に焼失したと言われており、過去の戦場で偉大な将軍が使ったとされている武器である。
この武器はそんな方天戟を現代風にアレンジしており、柄の部分はペルセランサが使われており、刃の部分にはオリハルコンが混ざっている。
見た目よりも重量が軽く、とても扱いやすい武器のように思えた。
「どうやら町外れの鍛冶師のところにひっそりとあったらしい。誰だったかな? 変わった職人と聞いている。この町にまだいたはずだ。どうだい? この武器はナダの為に探し回ったんだ。好みの武器だろう?」
「ああ、そうだ。もしかして、その職人の名前は――テナシダ、という偏屈の爺じゃなかった?」
「どうだろうね。名前までは知らない。知り合いか?」
「……以前に武器を作ってもらう事があったからな」
ナダはテナシダという男をよく知っていた。
かつてテナシダはナダの要望により、エクスリダオ・ラガリオという龍の牙を用いて作った陸黒龍之顎を作り、ナダの愛用武器でもある青龍偃月刀の整備を何度も行った職人なのだ。
テナシダは偏屈で、頑固で、扱いづらい職人だが、現代では珍しく特大武器を扱う鍛冶師なのだ。
最近はあまり連絡を取っていないが、まさかこの町に来ていたとは、と驚いたナダであった。
「まさかナダとこの武器を作り出した職人が顔見知りだったとは思わなかったよ。会いに行くかい?」
「まだこの町にいるのか?」
ナダは驚いたような声で言った。以前の情報では気に入った山の麓にある田舎からあまり出てこず、買い物や食事などは数人の弟子が対応していたのだ。
時々、ふいに街から下りてくるらしいが、稀だと言う。
「それは分からない。少し調べてみる」
コルヴォはナダの要望通りにその鍛冶師を調べてみると、確かにテナシダがこの武器を作ったのだという。
どうやらこの近くに生えているペルセベランサ、という武器の素材が気に入ったので、最近は槍を率先して作っているとのことで、そのままナダに伝えた。
「なるほど。そんな事情があるんだな」
ナダはテナシダ、という男の事を詳しくは知らない。武器の製作依頼や整備依頼を行う際にはインフェルノにある馴染みの武器屋であるバルバを通していたからだ。
――あの偏屈爺、オレの依頼をえり好みしやがって
だから実際にはナダはテナシダとは会っていないのだが、時々バルバが愚痴っていたことを思い出すと、どうやら性格が厄介な人間であるのは間違いないようだ。
だが、これまでのナダの武器を作ってもらった縁があり、次の武器もナダとしては出来ればテナシダに作ってもらいたかった。
「なあ、テナシダって、簡単に会える距離にいるのか?」
「興味があるのなら案内する。この武器も悪くなさそうだが、専用の武器のほうがいいかも知れないからな」
こうして、ナダはテナシダと会いに行くことになった。
今回の武器はもう決まっているのですが、当てた人は凄いと思います。
登場はもう少しお待ちください!
本作の第二巻発売中です。
また、新連載の「異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。」もよろしくお願いします!




