第六十一話 新たな挑戦
現在、ソールは冒険者たちの攻略によって、主に七つの層に分かられる事が出来る。
第一層が浅層。これは多くの冒険者が最初に環境に慣れるための場所であり、他の迷宮でしっかりと冒険を積んだ者なら躓くことはない場所とされている。主に出現するモンスターは火人で、他のモンスターは基本的に出現しない。
第二層と第三層が中層とされていた。二つを区切る点としては、第二層は火人が武器を持ち、第三層は基本的に第二層と比べて火人のバリエーションが増えると言われている。例えば大きく太った個体や背の高い個体、中には冒険者の腰ほどの背丈の火人が天井から落ちてきて爆発する、なんていう記録も残っている。
それらを超えた先にあるのが遷移領域だ。現在では遷移領域は三つに分けられており、この度アーザが挑む第四層からは、自ら“爆発しない”個体が現れるようだ。彼らは強く、爆発しなくても冒険者を殺せるほどの能力を持っているから、爆発しないと言われている。殺しても体からマグマが溢れるだけだ。
それらの個体の姿かたちは浅層に出現する個体とあまり変わらないと言われているが、彼らよりも見た目の“黒”がより強く、より皮膚が分厚いように見えるようだ。もちろんその分装甲も固く、力も強いと言われている。
今回のソールは、それらの第四層の個体のモンスターを狩るのが目的だった。まだまだソールの最前線と言えるような場所ではないが、そこに行く為に、ソールを攻略するためには避けては通れない道ではある。
これまでは挑戦すること自体を憚っていたが、コルヴォの一言によって挑戦することが決まった。
「――さあ、もう待つのは十分じゃないか?」
この日、コルヴォは待ち構えた様に言った。
その場所は、アーザの本拠地。そう大きくはない家の中のリビングに、アーザへ所属する老若男女様々な冒険者が集まっていた。その中には部屋の隅で壁に背中を預けて立つナダの姿もあった。
誰もがコルヴォの話を真剣に聞いていた。
最近のアーザの冒険者は特に志が高く、このように多くの冒険者が集まっての会議も増えた。時には喧嘩が勃発し、コルヴォなどがなだめるほどに冒険に傾倒していたのである。
「オレ達は他の二つのパーティーよりも、設立が新しい。それに貴族の後ろ盾も殆どない。資金にも、人材にも大きく苦しんだ。それでもこれまで耐えて、攻略を夢見てこれまで頑張ってきたんだ。そろそろいい頃だとオレは思うんだ。人は集まった。金も稼いだ。そろそろ、次の段階へ行こう!」
コルヴォは力強く宣言した。
その声に答えるように仲間達が「おう!」と勢いよく答えた。
コルヴォはそれから口頭で、次の冒険、すなわち遷移領域への挑戦を考えたメンバー編成を行い、その為のブリーフィング並びに物資の調達を次々に命じた。
アーザのメンバーはやる気に満ちた顔で、コルヴォの指示に従うようにリビングから出ていく。それぞれが己の仕事を全うするためだ。
「いい姿だな――」
そんな彼らを見ながら、ナダも心地よい感覚に浸っていた。
冒険に挑戦する冒険者の姿は、やはりいいものだと思うのだ。
彼らは皆が冒険にひたむきで、まだ見ぬ未来の自分を夢見ている。かつての自分が、いや、今の自分と同じように。彼らの顔つきは真剣であり、そんな彼らと潜るのならばいい冒険が出来そうだ、とナダは微かに口角を上げた。
「オレが集めた仲間たちだ。他のクランに比べると実力が足りない冒険者もいるかもしれないけど、熱意だけならどのクランにも負けていないと思うんだ。それぞれが、夢を持って、この町に来た。冒険者として、大成したいと言う夢だ。そうでなければ、この街に来て、わざわざオレのクランに所属する意味なんてないだろう?」
「そうだな――」
コルヴォの意見にナダも頷く。
そもそも冒険者を続けるだけなら、元々いた街でいいのだ。インフェルノやセウであれば、冒険者のサポートをしてくれる機関や人材が潤沢に存在する。例えば冒険者組合、鍛冶師組合、貴族、迷宮調査機関、迷宮学術連合などだ。もちろん稼ぎに関しても、純粋な収支を計算するとそれらの街で冒険者をしたほうがいいだろう。
だが、冒険者には夢を持つものもいる。
彼らは冒険がしたいからこそ、冒険者になり、迷宮に潜っているのだ。そんな彼らのモチベーションは高かった。
「ナダも、その為にこの町に来たんだろう?」
「……そうかもな」
コルヴォの問いに、ナダは即答できなかった。
熱意、という面では彼らに劣っているとは思えない。だが、彼らのように立身出世などの上を目指して冒険しているわけでは、ナダは決してなかった。むしろ病というマイナスをゼロに戻すために果てしない冒険に挑んでいるのである。
ナダの状況はあまり気軽に打ち明けられるものではないが、複雑なものだ。不老不死という利点と引き換えに、迷宮に潜らなければ体に激痛が奔る。迷宮を冒険することを強いられているかのように。
だから、“英雄”と呼ばれるのかもしれない、とナダは自嘲気味に嗤いそうになるが、ぐっと堪えた。
「話を戻すが、今度の遷移領域の攻略の話だ。先の冒険を鑑みても当然ながらオレはナダにも行ってもらいたい。仲間たちもきっとそれを望んでいるだろう――」
「それは何よりだが――」
「だが? 何か不安点でもあるのか? あのディノニクスを一人で狩ったナダが? 嘘だろう? まだ挑戦は誰もしていないかもだが、未だにアーザの中で成し遂げたのはナダだけなんだぞ――」
アスが欠けた状況でも、アーザ第一部隊はつつがなく冒険を行っていた。遷移領域一歩手前を歩き回り、着実に実績を重ねているのだ。
その中で最も活躍しているのがナダである。
どんなモンスターが現れようと、例えそれが初見の龍族であっても、問題なく倒すのだ。傷を追うことさえ今のところなかった。
「でもな―」
だけど、ナダはうんとは言わなかった。
「何か不安があるのか? もう少し迷宮に慣れるための時間を取ろうか? まだナダはここに来てから一ヶ月も経っていないからな」
「いや、そうじゃなくてだな――」
「じゃあ、何だ?」
「武器がねえ――」
ナダは今の不安を正直に言った。
アーザ基準でどれだけの活躍をしようと、未だにナダは量産品の安い剣しか持っていないのだ。
ナダより遅くアーザに加入したブラミアやアマレロであっても、それぞれ専用の武器を用意しているのに。
「……それは大変だ。すぐに用意しないといけないな。話はそれからだな」
コルヴォはナダの状況を思い出して、困ったように悩み始めた。
ナダの望む武器は、そうやすやすと手に入るものでもなかった。
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本作の第二巻発売中です。
また、新連載の「異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。」もよろしくお願いします!




