第五十五話 復帰Ⅻ
「……マジかよ! やるじゃねえか!」
その優れた一撃をブラミアは破顔した様子で褒めた。
「キレが増したでござるな! 拙者も誇らしいでござる。いやはら、これは昔に拙者が突きを教えた甲斐があったというものよ!」
アマレロも似たような反応だった。
「なっ――」
だが、そんな中、憤りを隠せないのがアスだった。あまりの見事な一撃に、言葉を失っていた。何かナダに言おうとするが、言葉は見つからなかった。口をぱくぱくとさせているだけだった。
そんな彼らに残りの仲間であるナザレとマルチーザがやってきた。
「アス、どうして待てなかった!」
ナザレは合流して早々アスを攻めるように言った。
「それは……」
アスは言葉に詰まる。
確かにあの時に飛び出したのは早計だったと、今のアスは考えている。確かに大きな隙がディノニクスに生まれていたが、威力が足りず有利な状況だったがジリ貧になっていたのも確かだ。
「全く、もう少し待っても問題ない状況だった! もう少し大局を見ろ! お前はこのパーティーの“切り札”なんだ! 然るべき時にその力を使い、素早くモンスターを倒すんだ!」
「……わかっているよ」
アスはうなだれるように頷いた。
「反省しろ――」
ナザレは強く言った。
アスは歯を食いしばるように受け止めた。
それからアーザ第一部隊は遷移領域の手前を巡る。決して遷移領域まで行こうとしない。ディノニクスのようなモンスターが多数出現するのがディノニクスだからだ。
それからも何度かディノニクスと戦った。
どうやら今日はディノニクスがよく“はぐれる”モンスターのようだ。
それからのアスは大人しく待った。自身より先に出たブラミアとアマレロが戦っているのを歯がゆい思いで見守るのだ。その時には思わず唇を噛み締めており、血も出ていた。
ブラミアとアマレロはたったの一度の戦闘でディノニクスに慣れていた。
ディノニクスは簡単に言えばラプトルよりも少し大きく、手の爪が大きくなった竜種だった。攻撃方法としては手が増えたぐらいで、牙、足の爪とそう違いはなかった。
どの個体も多少の大きさの違いはあれど、そう大きな変化はない。優れた冒険者ならすぐに対応できるのだ。
ブラミアとアマレロは二人でディノニクスをまずは翻弄する。ブラミアはディノニクスのあちこちに羽を生やし動きを阻害し、アマレロは顔を中心に縦横無尽の動きを披露する。そしてディノニクスがこけるか、壁にぶつかった時にブラミアはアビリティの使い方を変えて、より重たい一撃でディノニクスへと斬りつけるのだ。アマレロも完全な補助だけではなく、ブラミアの砕いた龍鱗の下を的確に切り裂いていく。
そんな戦場に、ナダが辿り着いた。
ナダの一撃は、最初のディノニクス戦と変わらない。ブラミアほどの重さもなく、アマレロほどの鋭さもないが、鋭く重たい。その一撃は確かにディノニクスに通じている。龍鱗を砕き、肉を裂くのだ。ブラミアのつけた傷の上なら、骨まで達するほどの威力を発揮する。
「もう少しじゃねえか!」
「相変わらずやるでござるな!」
二人が褒める通り、ナダはアビリティがなくともその斬撃だけで一定の評価を得る。
その事実に、アスは確かに――嫉妬していた。
「溜めたぞっ! ここからはオレの番だっ!」
そんな中、アスの風が溜まりきった。
戦場を一筋の風が駆ける。ディノニクスは既に弱っており、壁にもたれ掛かっていた。
「まあ、いいか――」
ナダは剣を振るっていた手を止めて、すぐにその場から退く。モンスターにトドメを刺す権利などどうでもよかった。
「おや?」
そんな中、アスの風はあまりにも溜めすぎた結果剣から溢れており、空中にいるアマレロの体制を崩していた。
だが、そんな状態で放った『竜巻の如き一撃』であっても、確かにディノニクスの胴体を貫いていた。
「やったぞ!」
アスはやっとディノニクスを殺したことに、確かな手応えを感じていた。
「……ううむ」
一方のアマレロは、そんなアスに冷たい視線を送る。
「どんどん行くぜ!」
ブラミアの威勢のいい声が迷宮に響き渡る。
次のディノニクスとの戦闘でも、基本的に変わりはしない。
今度の個体は今までよりも少し大きくて、力強い個体だった。つまり的が大きくて、より攻撃は大振りなのだ。それはアマレロにとっては避けやすく、ブラミアにとってはより強く剣を振るえるのだ。
「しっ――」
そんな中、ナダは新しいことを試すような真似はせずに、愚直にシンプルな剣でディノニクスへと斬りかかるのだ。
新たな工夫をしないのは、自らの身体に竜種との戦闘を馴染ませる為だった。
そんな状況で、大き過ぎるが故にアマレロの翻弄がより上手くいき、ナダの脛切りが思ったより深く突き刺さった。ディノニクスの体制が崩れ、頭を壁にぶつける。既にディノニクスはブラミア、アマレロ、ナダの連携により体は傷ついていた。
特に胴体には、ナダが切りつけた深い傷から血が流れ出ている。そんな好機を、ブラミアが見逃すわけがなかった。
「こいつはオレが貰うぜ!」
大剣を上に掲げる。そのまま全力で振り下ろした。思わずブラミアの口元に笑みがこぼれる。
「――オレがやるんだ! 退けっ!」
そんな状況で、アスがブラミアの後ろから迫ってくる。その手に持っている剣には風が集まりきっている。必殺の剣だった。
「オレに任せろよっ!」
だが、ブラミアの大剣による振り下ろしも、必殺の剣だった。有利な状況でわざわざ味方に譲る必要があるなんて思えなかった。だからアスが迫っている状況でも、自身の行動を優先する。
ブラミアはアスが引いてくれると思っていて、アスはブラミアがその場から離れてくれると思っていた。だから両者ともにそこから退くことはなく、アスがブラミアへ風が漏れたままぶつかった。そこから体がもつれるように転がり、ディノニクスの前から消え去った。
「はあ――」
そんな事実に、ナダは大きなため息を吐いてから、先程二人が目指していた場所へ無言で剣を突き刺した。ディノニクスはそれだけで絶命した。
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