第五十四話 復帰Ⅺ
ディノニクスまで辿り着いたブラミアとアマレロは左右に分かれるように剣を振るった。
ブラミアは地面すれすれまで体を倒し、ディノニクスの足を斬りつける。ディノニクスの足だけに『重力からの解放』によって足だけに羽を生やし、左右のバランスを崩した。
アマレロは『自由への疾走』によって足場を作り、上から自分の重力をも加えた一撃をディノニクスの頭へ食らわせた。
二人の連携によって、ディノニクスは地面に頭から倒れた。未だに目がやれられているようで、手足をばたばたとさせて抵抗するが、それはブラミアにもアマレロにも当たらない。二人は攻撃についてヒットアンドアウェイを心掛けているからだ。ずっとディノニクスに張り付くことはない。それはディノニクスの腕の爪が鋭く、足にも同じような爪が生えているからだ。
「おらおら! どんどん行くぜえ!」
ブラミアは“わざと”声を出す。決して無音で攻撃するわけではない。
「ブラミア殿は戦闘が上手いでござるなあ。拙者もここにいるでござるよ!」
アマレロもブラミアを真似て、攻撃の最中に声を出す。
普段は戦闘中にあまり声を出すことはないアマレロ。それは敵に気づかれないこともそうだが、先頭に集中し過ぎるがあまり声にまで気が回らないのである。
だが、今回だけはそうはしなかった。
「二人ともやるな――」
二人へと近づくナダは、その意図がよく分かった。
ディノニクスは辺りをきょろきょろと見ている。目は見えていない筈だが、“声”がする場所を的確に狙って手の爪へと振るっていく。
だが、その場所に二人はいない。既にその場所から離れているからだ。爪は何度も空を切った。
ディノニクスはすぐに立ち上がる。そのたびに二人は大地と空から剣を振るう。まるで事前に打ち合わせをしたかと思うほど、即興とは思えない連携だった。
「今がチャンスなんだ!待ちきれないっ!」
「待て! アスっ!」
そんな状況で、アスは剣に風を貯め切る前に痺れを切らして飛び出した。二人に翻弄されている今が、ディノニクスへの攻撃の好機だと思ったのだ。
ナザレはそんな彼を手を伸ばして止めようとするが、もう遅かった。飛び出した彼には言葉も手も届かない。
未だにディノニクスまでたどり着いていないナダは、後ろからアスが近づいてくるのを感じていた。
普段ならその判断に何も言わないナダだったが、小さな舌打ちをしてからアスに叫んだ。
「戻れっ! ディノニクスは俺達で十分だ!」
「何を言っている? オレがあいつを倒すんだ!」
だが、アスはナダの言葉に聞く耳を持たなかった。視界にはディノニクスしか入っていない。
すぐにアスはディノニクスにたどり着き、『竜巻の如き一撃』を叩き込んだ。だが、当たった場所はディノニクスの胴体だ。
龍鱗と、風がぶつかる。アスの必殺の一撃は十分な“溜め”が足りず、威力が少し足りなかった。龍鱗を割っただけだ。だが、その衝撃までディノニクスは受け止められたわけじゃない。体が後ずさる。
「それだけで済ますわけがねえだろうがよ!」
そんなディノニクスへ、ブラミアは追撃を行った。剣で切ってアビリティによってディノニクスへ羽を生やし、より壁へと追い詰める。
「何度も斬りつければ腱も切れるでござるか?」
アマレロは頭から狙いを変えて、地上から何度も足首の裏を狙っていた。狙っているのは神経だ。モンスターが人と同じ構造をしているのかアマレロは知らないが、腱が切れなくても足が傷つけば動きが遅くなる。そうなればもっと簡単にモンスターが倒せるようになる。
だから執拗に龍鱗が薄い足首の裏を斬りつける。ディノニクスの踏みつけは、その場で華麗なステップを踏み、アマレロは紙一重で避ける。
だが、その顔に焦りはなく、まるでわざとのようだった。
「それなら、オレが切れなくてもいい! 壁にぶつけるだけで!」
アスは再度、『竜巻の如き一撃』を使った。今度は貯める暇もなかったので、周りに風を生み出して、ただ集めただけの質量のような風だ。全く鋭くなかった。だが、その圧倒的な質力の風は塊として、ディノニクスへと叩きつけた。
ディノニクスは壁に頭からぶつかった。
力の抜けたディノニクス相手だと、アマレロの追撃も少しだけ通じ、足の腱を切れた。勢いよく血が飛び出た。
アマレロの剣技は、確かにディノニクスに通じている。
「どんどん行くぜ!」
ブラミアはそんな中大剣を振り回し、ディノニクスを切りつけていく。その大剣には羽が生えており、適宜重さを変えていた。
ブラミアが剣を振るうときには軽く、当たる瞬間には重さを威力に加えるために重たくするのだ。学生時代は軽くしかできなかったブラミアも、その使い分けがうまくなっていた。
その一撃は重く、光のギフトも相まってかディノニクスの龍鱗を破壊していく。圧倒的な“暴力”をブラミアは獲得していた。
それだけじゃない。
ブラミアの振るうごとに力が増しているのを感じる。
その事実に、思わずブラミアの頬はつり上がった。
嗤った。
アビリティの、更なる可能性に。
重力を軽くするだけではなく、“重たくしている”という事実に、ブラミアは確かな手応えを感じたのだ。
「オレだって!」
アスもそんな二人に負けじと風を生み出す。壁にぶつかているディノニクスは体をじたばたとしているが、そんなのにはお構いなく、風の剣をぶつけるのだ。ブラミアの傷つけた龍鱗の下にある皮膚を切り裂いた。
「調子がよさそうでござるから、拙者は陽動に準じるでござる――」
アマレロはブラミアの変化に気づいていたので、わざわざディノニクスのトドメを奪うような無粋な真似はしない。
仲間のために動いた。
『自由への疾走』によって生み出した光る足場によって空中にいたまま、ディノニクスの眼前に立ち、ひたすら鼻先を切りまくる。何度もディノニクスはアマレロへと噛みつこうとするが、その度にアマレロは後ろへと下がり、また光る壁を蹴ってディノニクスへと迫る。どれも硬い頭の龍鱗に攻撃が阻まれるが、ディノニクスは確かにアマレロへ対処しなければならない。気がそれる。さらにブラミアとアスのための時間が生まれる。
「何度だって砕いてやるよ!」
「オレの風は確かに通じているんだ!」
ブラミアとアス、二人の波状攻撃によって確かにディノニクスは傷ついていた。至る場所で龍鱗が剥がれ落ち、肉が裂かれ、体が血によって真っ赤に染まっていく。
その度にディノニクスは絶叫するが、眼の前にいるアマレロへと執拗に歯を向ける。手の爪も伸ばすが、その全てが空を切っていた
「――拙者を無視できないであろう? 隙を見せればその目を、その鼻を、いつでも潰すつもりでござるからなあ!」
アマレロは嗤った。
ディノニクスの思考が手に取るようにわかったからだ。
足元の虫が鬱陶しい。それよりも目の前の羽虫が邪魔だ。だからまずは羽虫であるアマレロを殺すとする。だが、まるで蝿のように小賢しいアマレロは、その身を決してディノニクスに捕まえさせない。
三人の連携は確かに上手く行っていた。
少しずつディノニクスへと一方的にダメージを与え、反撃の隙を与えない。戦いを完全に支配していると言ってもいい。このままのペースで行けば、確実にディノニクスの命を刈り取れる。
それが三人もわかっているからこそ、余計なことはしない。決して無理に責めることもせず、確実に、少しずつ削っていくのだ。
三人の口元に笑みが浮かぶ。初めて戦うモンスターに対し、圧倒的に有利な状況だったからだ。
だがーー
「――もう、いい」
そんな戦いに、ナダが割り込んだ。
アマレロが注意を引き、ブラミアが龍鱗を砕き、アスが傷つけた肉へ向かって、ナダは的確に剣を突き刺した。その一撃はディノニクスの内部まで到達し、たった一撃でディノニクスの動きが止まった。
死んだのだ。
見事に。
いつも感想ありがとうございます。
明日からの展開はいつもより楽しみにして頂けると嬉しいです!
また、第二巻発売中です。web版より熱くなってると思いますのでよろしくお願いします!




