第五十三話 復帰Ⅹ
アーザ第一部隊はそのまま中層を突き進む。
ラプトルがいた場所も簡単に突破し、一体ずつ計三体ものパキケファロサウルスとも出会ったが、どれもアスが率先して戦い、アマレロとブラミアのサポートがあった末に倒した。
その後、引き返すこともナザレは考えたが、アスの強い希望で遷移領域の手前まで行くことをアーザ第一部隊は決める。
「ここからはどんな龍種が現れるか分からない! 気を引き締めて行こう――」
ナザレはパーティーメンバーたちを鼓舞するように声をかけた。
迷宮内は様々な層に分かれており、それらの中間層である遷移領域には互いのモンスターが行き来することは数多くある。その中でもソールに存在する遷移領域は、他の迷宮とは違い遥かに長く複雑な構造になっていると言われている。その分、モンスターの数も多く、それらが“はぐれ”として中層へと紛れ込むのだ。
そんなモンスター達は遷移領域に近づけば近づくほど、数や種類が増えていく。龍種は基本的に龍鱗によって“固い”ので、倒すが一苦労だからこそ、クラーテルでは遷移領域に挑戦する冒険者すら少なかった。
「もちろんだよ!でも、ここにはオレがいる! モンスターは全部見つけるからきっと大丈夫だ!」
アスが自信満々に言った。
ナザレはその言葉を信じたのである。
そんな第一部隊が向かった先にいたのは――新たなモンスターだった。最初に見つけたのは当然ながらアスだ。
「――この先にいる。モンスターがいるよ。ラプトルかな? いや違うね。似ているけど、まだ見たことのないモンスターだ」
アスの風が導くもとに、アーザ第一部隊は先へと進んだ。七人とも岩陰に身を隠しながら決して音を出さないように気を付ける。七人とも冒険者としての経験から、足音を出すような愚か者はいなかった。
「いたな――」
小声でナザレが言う。
ようやく第一部隊の全員が視認できる位置まで辿り着いた。
そこにいたのは――ディノニクス、と呼ばれる龍種であった。二足歩行であり、似たような姿をしているラプトルよりも全長は大きいだろうが、ティラノサウルスほど巨大ではない。
特徴としては手が大きいことだろうか。まるでナイフのように鋭い爪が三本も手には生えている。もちろんラプトルと同じく足の爪も鋭いので、純粋に攻撃手段が増えたモンスターだと言えるだろう。
そのラプトルは、蛇人を“食べて”いた。
口で突くかのように胴体へと口で突いているのだ。だからディノニクスの口は血で染まっており、こちらに気づく様子はない。
「……仲間はいないようだな」
ブラミアはきょろきょろとあたりを見渡しながら、他のモンスターがいないかを探す。
ディノニクスはラプトルと同じく群れで行動するモンスターだ。最低でも、三体以上で構成されている。
だが、いなかった。
他のモンスターは確認できない。
「……オレも見つけられなかった」
アスも風の範囲を遠くまで広げているが、他にモンスターの姿は確認できなかった。
「……なら、はぐれたな。群れから抜ける程に“強い”か、追い出されるほど“弱い”か」
ナザレはディノニクスの強さを判断しようと思うが、初めて見るモンスターの事は分からない。
どちらもはぐれだが、戦う時の差は歴然だ。強くてはぐれた個体なら、逃げる必要があるかもしれない、とナザレは頭によぎった。
「……で、どうやって戦う?」
ナダは大きな図体を最も後ろで小さくしながら身を隠す。もちろん話している声も小さい。緊張感がある他の仲間とは違い、ナダはいつもと同じ自然体だった。
(あれは弱い個体だな)
と、これまでに様々なモンスターと戦った経験から、深層あるいは繊維領域からも逃げ出した個体のモンスターだと思った。少なくとも、倒すのに一苦労したような“はぐれ”ではない。ナダの勘がそう告げている。
「……まずはオレが……」
「……いや、まずはマルチーザが『閃光』で目を潰して、ブラミア、アマレロが先行しろ。それからナダが続く。お前たち三人は連携が出来ているみたいだから、私が変に入るよりも都合がいいだろう?」
ナザレはアスの言葉を遮って言った。
「……その通りだな」
「……承知したでござる」
ブラミアとアマレロが頷いた。
「……それからアスが必殺の一撃を決めるんだ。最短であいつを倒すぞ」
ナザレがアスにそう進言すると、アスは満足したように頷いた。
そんな作戦が組まれてから、アーザ第一部隊はディノニクスを観察する。
未だにディノニクスは蛇人へと食らいついていた。どうやら未だにその場から離れる様子はない。他の仲間が目を瞑っているのを確認してから、マルチーザは右手を伸ばす。既に祝詞は唱え終わっている。だが、まだギフトは発動しない。ディノニクスがこちらを見るまで待った。
ふとディノニクスがきょろきょろとあたりを警戒するように頭を上げた。もしかしたら自分たちに気づいたのかも知れない、と思うが、その様子は無かった。こちらへと顔を向けた瞬間にマルチーザは小声で言った。
「『閃光』」
彼女の右手から指向性のある光が発射される。だが、その光に質量はない。あくまで目を潰すためだけの広大な光だった。そんな光を咄嗟に受けたディノニクスは後ろにのけぞるように光から逃れようとするが、その目は確かに光を喰らってしまった。
その場でくらくらと上体を揺らし、混乱しているようだった。その好機を見逃さない男たちがいる。
「行くぜっ!」
「拙者も続くでござるよ――」
ブラミアとアマレロだ。
待ちきれなかったブラミアが先に飛び出し、アマレロが後を続く形となった。
「俺も行くか――」
その後にナダが続く。
二人から少し遅れたのは、飛び出したタイミングは同じであるが、単純に足が遅かったのである。もちろんナダがまだ“本気を出していない”のも理由の一つだが、それ以上にブラミアとアマレロのやる気が格段に上だった。
二人は己が出せる最高速度でディノニクスへと向かったのである。
「アス、分かっているな?」
「分かってるよ――」
ナザレの指示通り、アスは剣に風を集めていた。
『竜巻の如き一撃』だ。
その一撃はアスの中で、現在のアーザ第一部隊の中で、最も強い。当たり所さえ間違えなければ、これまではどんなモンスターにも通じて来た。
「――アス、頼んだぞ」
だから――ナザレは自分の“夢”として、アスを信じていた。
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