第五十二話 復帰Ⅸ
そんな時、アマレロが流し目でナダに向かって笑う。どうやら“わざと”先に行くみたいだ。
どんどん先に進んでいく彼らに対して、ナダとマルチーザの歩む速度は変わらない。
「ナダ、彼らに追いつこうとは思わないの?」
「思うわけがないだろう。どんどん先に行くんだぞ。こんな重たい荷物を背負って走る気かよ?」
走れないとは言わなかった。
走ろうと思えば走れたが、わざわざパーティーの要であるギフト使いのマルチーザを置いてまで、彼らに追いつこうとは思わない。
「じゃあ、戦わなくていいの?」
「マルチーザは戦いたいのか?」
ナダは期待するように言った。
「……私はどっちでもいい。私のギフトはサポートがメインだから、今も使っているもの。どこで戦おうと私の仕事は変わらない。冒険者に付与するだけ。それ以外の仕事はいかに死なないように立ち回るか、それだけなの」
マルチーザは諦観したように言った。
「本当にそれでいいのか?」
ナダは嗤いながら言った。
「……どういうこと?」
「もしかしたら、マルチーザの力が必要になるかも知れないぜ?」
ナダはその場に立ち止まり、後ろを見た。彼らが向かった先はなく、これまで通った道の暗闇から息遣いが聞こえるからだ。
それは人のように規則正しいものではなく、もっと荒れ狂ったものだった。それも一つではなく、複数もナダには聞こえていた。
「……何かいるの?」
マルチーザはそれらの音がまだ聞こえていなかった。
「どうする? 前に急いであいつらに助けを求めるか?」
ナダは既に剣を抜いており、戦う気満々でマルチーザに尋ねた。
「そんなふざけたことを言って。ナダは戦うつもりなんでしょ?」
「そうだな――」
「じゃあ、私の行動について聞いているんだ?」
「よく分かったな。俺は戦うつもりだ。前に出て、この頼りない剣で。だからマルチーザを守るだけのつもりはない。あいつらの元まで急いで逃げてもいい。それともここで一緒に戦ってもいい。どうする?」
ナダとしてはマルチーザの行動はどうでもよかった。
ここから先、味方までの道は一直線である。きっと走って行けば他の敵に見つからることなく、彼らと合流することが出来るだろう。
きっと彼らは倒したモンスターのカルヴァオンを取る為に立ち止まっているから、追いつけないと言う可能性は低い。
そんな選択肢を突き付けられたマルチーザは、ナダを睨むように考えた後、ため息をついてから覚悟したように言った。
「戦う。その代わり、私が先に死ぬのは許さないから。きちんと前衛として、私の命を預けるからね」
「分かった。肝に命じながら戦うことにするよ――」
ナダは満を持して、マルチーザの前に出た。
「知っていると思うけど、私のギフトはたったの三つ。まだまだ新人のアスよりも少ないわ。ずっと使っている加護と、矢と、光線だけ。しかも光線は威力が高いけど、発動するまでに必ず祝詞を唱えないと私は使えないから時間がかかるわ」
「なら、矢だけでいいさ。それを適当に打ち出してくれ。決して俺に当てないようにな。それだけで十分だ――」
「大した自信ね。でも、当てたらごめんね?」
「……本当に気を付けろよ」
マルチーザは片目をつぶりながら可愛らしく事前に謝るが、ナダは少しだけ背筋に戦慄が走った。マルチーザの矢を頭や心臓に食らうと、自分でも再生できるかどうかの自信がなかったからだ。未だにそれらの場所にはまともに攻撃を喰らったことは無かった。
「冗談よ。それよりも敵が来たわ。任せたわよ!」
マルチーザもようやく敵のことが発見できたようだ。
現れたのは、ラプトルだった。それも二体もいる。普通なら一人で戦うような敵ではない。マルチーザは蛇人だと思っていたため、予想外の敵相手に思わず顔が引きつるが、それでも前にいるナダを信頼して祝詞を唱え始める。それが自分お仕事だと深く理解していた。
「さあ、どう戦おうかな――」
ナダが頼れる武器はこの剣だけ。他に選択肢はない。けれども、あまり緊張すらしてなかった。
もっと強い敵を倒してきたため、この程度のモンスター相手は簡単に対処できると自負している。
だから、ナダはマルチーザへと微笑みかけた。
「なに? 敵が来るわよ?」
「先制は譲ってやるよ――」
既にマルチーザは祝詞を唱え終わっている。
「分かったわよ! 『光の矢の雨』!」
マルチーザが右手を伸ばすと共に、通路を埋め尽くすかのように多くの矢が発射された。
決して一つではない。
ラプトルはそれらを避けようとするが、あまりの多さに避けきれない。その身に幾つもの矢を受ける。マルチーザの光の矢はラプトルの龍麟を正面から簡単に貫いた。だが、その矢は細く短い。ラプトルの命までは届かない。ラプトルはまだ地面に倒れておらず、膝や太ももに矢が刺さった状態でこちらへと迫ろうとしてくるが、矢に身を隠していたナダが既に傍にいた。ラプトルたちはマルチーザのみを見ており、ナダのことが視界に入っていない。
ナダは暴力的な剣で、動きの質が落ちているラプトルたちをたったの一振りで二頭の首を落とし、もう一歩踏み込んで返す剣でもう一頭のラプトルの首を切り取った。
もちろんそれは首前の龍麟の薄い所を狙ったわけではない。たとえ首後ろの龍麟が固い所だろうが、ナダは簡単に首を斬り裂いている。技術などではなく、圧倒的な“力”のみで。
「さあ、さっさとはぎ取って次のに行こうぜ――」
一瞬でラプトルを殺したナダは、少しだけすっきりしたような表情で言った。
その足元には既に倒れたラプトルが転がっている。少しだけ筋肉がぴくついているが、首の取れたラプトルたちは立ち上がることすら出来ない。もう“ほぼ”死んでいるのだ。
ナダはすぐにそれらのカルヴァオンをはぎ取る気だった。
「ねえ、ナダ、あなたってもしかしてアスよりも――」
そんな戦闘を見たマルチーザは、一つの可能性が頭に浮かんだ。今の戦闘を見た感想からだった。
――アスよりも強い?
そんな感想を口に出そうとするが、まるで全てを悟っているように笑うナダを前にして何も言わなかった。
「まあ、何でもいいじゃねえか。俺は“ただのナダ”だ。それ以外にはあまり関係ねえよ――」
「そう。なら、私からは何も言わない。だけど、アス達に追いつくまでは任せたわよ?」
「ああ、それぐらいなんでもねえよ――」
ナダはカルヴァオンを腰のポーチに入れてから、仲間達の元へと少しずつ向かって行く。
今後出現する恐竜のモンスターについて、様々なご意見を頂きありがとうございました。深層で登場させようと思っていますので今暫くお待ちください。
またもしも追加の意見もあれば、教えていただけると嬉しいです。
また、第二巻発売中です。熱い巻となっていますので興味のある方は是非楽しんでいただけると嬉しいです!




