第五十六話 復帰
申し訳ございませんが、次の更新は25日となります!
「おい! なんでぶつかりに来るんだよっ!」
「ブラミアこそ、どうして退かなかったんだ! それは“オレの役目”だろう!」
戦闘後、ブラミアとアスは互いの胸ぐらを掴みながら怒鳴りあっていた。
「お前の役目だって? オレがモンスターを殺せる状況なら、手早く殺した方がパーティーの為だろうが。もしそれで殺せないならその時が、アス、お前の番じゃないのかよ!」
「そうじゃないだろ! オレの風が溜まっていた! この一撃は誰よりも強い! これさえ当たれば勝てるんだから、オレを優先したほうがいいだろうが!」
「ふざけんな! あの程度ならオレの一撃でも殺せる! みくびんなっ!」
「ブラミアこそ、リーダーが、ナザレが、オレの風が必要だと判断したんだっ! たかだか“一メンバー”の分際で意見する気かっ!」
「なんだとっ!」
「やるのかっ!」
二人は言葉を交わすごとに白熱していくが、最後の一線は越えないために剣は両者とも手放していた。
「やめないか、二人ともっ!」
ナザレはリーダーとしてそんな二人を止めようとするが、二人の力は強くお互いの胸ぐらを掴んだままだった。
そんな中、アマレロとナダは無言でディノニクスの解体を行っていた。冒険者として慣れた手つきでカルヴァオンを取り出していく。
周りにモンスターの気配はない。それがわかっているからこそ、アマレロもナダも喧嘩している二人を放っているのだ。
だが、そんな休憩時間にも終わりが近づいていた。
「――ナダ殿、二人をどう思う? どっちが悪いと思うでござるか?」
アマレロはわざと通る声で言った。いつもよりも張っていたのだ。アマレロが知覚できる範囲に、新たなディノニクスが現れたからだ。
「――どっちも悪いだろ。“弱い”から悪いんだ」
ナダの言葉に、アスとブラミアの二人は目を見開いて驚いた。
「ナダ殿、それはどういう意味でござるか?」
「簡単だ。ブラミアがもっと強かったらアスが来る前に殺せていた。アスがもっと強かったら溜める必要なくディノニクスを倒せるだろう? 弱いんだからもっと二人で協力すればいいーー」
「はっはっはっ! ナダ殿! 言うことが流石でござるよ!」
正論のようで、暴論なナダの言い分にアマレロは腹を抱えながら大笑いしていた。
「ちっーー」
ブラミアはナダの言葉に舌打ちをしてから、仏頂面になった。怒ってはいるが、当然だと受け入れているのだ。
「なんだとっ! オレはエースで、リーダーの指示がオレの攻撃をまつことなんだぞっ!」
反対にナダの言葉を受け入れられなかったのがアスだ。顔を真赤にして怒り狂っていた。
「――ナザレ、あいつ、俺一人で戦っていいか?」
ナダは遙か先から軽い足取りでやってくるディノニクスを、抜き身の剣で指した。今のまとまっていないパーティーだったら、全員で戦えば誰か死傷者が出るかもしれないと危惧したから、一人で戦うことを望んだ。
「……本気か?」
いつもだったら止める立場であるナザレも、どうしてかナダの雰囲気に呑まれてしまい、それ以上何も言えなかった。
止めることすらできなかったのだ。
今までよりナダが大きく見え、格上の冒険者だと、本能が告げるのだ。これまで出会ったどんな冒険者よりも“強く”見えた。それはコルヴォやアスや――フォカオンよりも、だった。
「――ナダ殿、楽しみにしてるでござるよ」
「――オレにあそこまで言ったんだ! 助けてくれって言っても助けねえからな!」
アマレロとブラミアはゆっくりとディノニクスへと歩くナダに向けて、背中を強く叩いた。特にブラミアは激励の中に、少しばかりの恨みもあったのだ。
だが、二人ともナダの実力を知っている。学園で“最強”となり、数々の冒険を経て、一足先に特例で学園を卒業したことも当然のように知っていた。
だから、心配すらしていなかった。
「……」
アスも、そんなナダを睨んでいた。
強いことを証明しないといけない。
わかっている。
それなのに、ナダを超えて、たった一人でディノニクスへと戦おうとは思わなかった。思えなかった。一人ではアスとしてはどうしてもディノニクスに勝つイメージが沸かなかったからだ。
「――先手は譲ってやるよ。理解ができるかは知らねえけど」
ナダは右手で剣をぶら下げながら言った。
眼の前のモンスターを歯牙にもかけていない証拠だった。
ディノニクスは、そんなナダのセリフなど関係ないとばかりに、これまでと同じスピードで迫ってくる。
(とはいえ、別に龍鱗が少し硬いだけだけどな)
そもそもディノニクスは、マゴスでの基準で言えば、苦労したガラグゴよりも遥かに下の実力のモンスターである。少しだけ強くて大きい魚人程度の強さである。そんな程度のモンスターは学園を卒業してから数多く狩った。数え切れないほど倒した。
ガラグゴと似たような強さのモンスターと言えば、以前に戦ったティラノサウルスだろうか、とナダは思っている。
とはいえ、マゴスの深層においても、ガラグゴのような強さのモンスターはあまり出現しなかった。ディノニクスのようなモンスターが多数いたのである。もちろん、オケアヌスにいた頃、普段からマゴスの深層に潜っていたナダなので、どうやって圧倒的にディノニクスに勝つかに思考を巡らせていた。
「――アドリブでいいか」
ナダは右手に順手で持っている剣を逆手へと持ち替えた。以前にティラノサウルスと戦った時と同じ持ち方だ。
ナダの持っている剣には“重さ”がない。アビリティを持っていないナダとしては、どうにかして剣の威力を上げないと行けないのだが、それには通常の剣の振りよりも逆手にして突き刺したほうが早いと思ってしまった。
ナダはそんな剣を半身で隠すように、仲間たちと離れた場所でディノニクスを待った。
ディノニクスは一直線にナダへと迫ってきた。余計なことなどせず、大口を開いてナダへと噛みつこうとする。
ナダはそんな攻撃を瞬時に見切り、ディノニクスへと回転するように踏み込んだ。その勢いのまま、剣を目へ突き刺すのだ。ナダの一撃はディノニクスの眼球を割り、脳まで達した。
ディノニクスが叫ぶ。絶叫しながら後ずさった。
ナダは瞬時に剣から手を離し、もう一本の件を腰から抜く。今度も逆手だった。大口を開けて絶叫するディノニクスへと飛びかかり、口内を剣で刺した。それも口の裏から頭蓋へと到達する。
ナダがディノニクスから飛び降りると、大きな巨体は地面へと落ちた。
念の為、ナダはディノニクスの胴体へ新たな剣を振るうが、事切れた龍鱗に力はなく簡単に切り裂けた。そのままカルヴァオンを取り出す。ついでにディノニクスの頭も切り取った。
「――これでいいだろう?」
ナダは嗤いながらアーザ第一部隊の仲間たちに見せつけるようにその戦利品を足元に投げつけた。
「オレに言うだけのことはあるじゃねえか! だがな、覚えてろよ! オレだってな、もっとやれるんだ! 吠え面書くなよ?」
ブラミアは宣言どおり力を見せつけたナダの方へと手を回し、憎まれ口を叩く。だが、その顔に恨んでいる様子はなく、むしろ闘志を燃やしていた。
「ナダ殿、いやはや、拙者の想像を超えた強さでござるなあ。その戦いのセンスについてはもう少し談義したいところでござるな――」
アマレロはナダの戦い方について深く知りたいようだった。冒険者として、剣士として、飽くなき探究心のみが、アマレロの存在意義だった。
「やっぱり私の見立て通りだったね!」
マルチーザは自身の予想が当たっていたことを喜んだ。特に驚きもしなかった。彼の戦いを再三にもわたって見ていたマルチーザは、その強さをよく知っていた。
「……強い……そうだな……私の想像よりも……」
ナザレは驚きのあまり言葉を失っていた。
度重なる冒険で徐々にナダの実力を認知していたナザレだったが、それでも凡百の冒険者だとしか思えなかった。加えて、アビリティもギフトも持っていない、という事実が、ナザレの前提を保管していたのだ。まさか“素”の状態でここまで強いという前例が他になかったので、どうしてもナダの実力を弱いという前提でし見ることができなかった。
だから自分の常識と言葉る異次元のナダの強さに、ナザレは未だに思考を整理できていなかった。
「……」
そしてアスは、ナダの実力を未だに認めることができていなかった。悔しさのあまり、唇を噛み締め、ナダを強く睨むのだ。
その後、冒険が終わる帰り道でも、ディノニクスと出くわした。先程までと同じようにナザレはリーダーとして一人で戦えるナダに任せることはなく、連携して戦おうとしていたが、その前にアスが飛び出した。
「あいつは、オレ一人で戦う!」
アスは必死の形相だった。
自らの存在を証明しようと必死だったのだ。
「待つんだ、アスっ!」
ナザレはそんなアスを止めようとするが、 誰よりも早いアスに追いつける冒険者はいない。
すぐにナダたちが辿り着いた時には、アスの溜まりきっていない『竜巻の如き一撃』はディノニクスの龍鱗に弾かれて、反撃として腹に重たい爪の一撃を浴びたアスの姿がそこにはあった。さらに追撃として足でも踏まれて、まだ生きているが、瀕死の重傷を負っていた。
「おい、生きているか?」
「大丈夫かよ?」
そんなナダやブラミアの手も振り払い、アスはナザレの方を借りて迷宮から脱出した。
この日――アスの冒険は失敗した。大怪我で入院することになり、また迷宮に潜れない日が続くことになる。
だが、アーザ第一部隊の冒険の成果は――大成功だった。
いつも感想ありがとうございます!
執筆の励みとなっておりますので、これからもよろしくお願いします。
※第二巻発売中です。




