第四十九話 復帰Ⅵ
それからもアーザ第一部隊は三体程のパキケファロサウルスを倒した。一匹ずつしか出現しなかったので、アスが『凪』を使った不意打ちから戦闘が始まり、ブラミア、アマレロ、ナザレの牽制により動きが鈍くなったところでアスが二体のとどめを刺した。
だが――
「なんだかしゃらくせえな、おい!」
三回目はずっと牽制ばかりで業を煮やしたブラミアが、アマレロが足の腱を切った事によりラプトルの首が落ちてきたので羽のように軽い一撃によって、龍麟を斬り裂いて首の途中まで剣が食い込んだ。
「いい一撃でござるな!」
その切れ込みから、ブラミアの剣を撫でるようなアマレロの繊細な剣が、パキケファロサウルスの首を跳ねる。
「ちっ、いいところを奪いやがって……!」
その事実にブラミアは舌打ちをしながら悪態づく。
「……勝手なことを」
ブラミアとアマレロが牽制ではなく、とどめを刺したことにナザレは怒りを浮かべ頭を搔き毟るが、小声で呟くだけで二人には何も言わなかった。
目の前に“たまたま”首が落ちてきたという絶好の機会を手にしたブラミアの一撃は、否定する材料が見当たらないからだ。もしも同じ機会を手にしたとしたら、ナザレであっても首を狙う。当然の行為だからである。
それでも苛ついたのは、意地悪な笑みを浮かべるアマレロのせいだ。ナザレにはアマレロが“わざと”ブラミアの前に首を落としたとしか思えないのだ。
そんな戦闘を経て、第一部隊は帰路を急ぐこととなった。黄昏時が近づいていたため、それまでに帰ろうとしていたのである。
もちろん、その帰り道でも出会った火人や蛇人のようなモンスターは倒した。ラプトルも何体か出現し、ブラミアとアマレロが一番に駆け出していく。その後に続くのがナダだった。
「アス、疲れただろう? あとはナダ達に任せればいい。この程度は倒せるようだからな――」
というナザレの判断によって、アスはマルチーザの元まで下がったのである。ナザレが見ても分かる程、アスは疲弊していた。唇が青くなり、顔色も悪かったのだ。ギフトとアビリティの使い過ぎだった。
“力”が、枯渇していたのだ。迷宮に潜ってから常に探索で風を周りに広げ、パキケファロサウルスが現れてからは音を消す『凪』に、必殺の一撃である『竜巻の如き一撃』を連発していた。その結果であった。
自身の消耗を分かっていたアスはそんなナザレの指示に従いながらも、悔しそうに唇を噛んでいた。
「どんどん行くぜ! お前ら、遅れるんじゃねえぞ!」
そんなアスとは対照的に、上へと戻る間にもボルテージが上がっていくのがブラミアだった。まるで水を得た魚の様に、迷宮に順応していくのだ。
今も目の前に蛇人がいる。一体の蛇人相手に、ブラミアはたったの一人で十二分に戦えていた。
「ブラミア殿は元気でござるなあ――」
「全くだ――」
「とはいえ、拙者もブラミア殿を見ていると血が沸くでござる。ナダ殿、少し無茶をしてもいいでござるか?」
「死ななければ命は助けてやるよ――」
「必要であれば頼むでござる――」
アマレロが目を細めると、ブラミアが戦っている更に奥を見た。ナダにも同じように見えていたのだが、そこには浅層には珍しいラプトルがたった一体だけで歩いていた。
アマレロはそんなラプトル相手に『自由への疾走』で空中を駆け、上から強襲した。
一撃で、ラプトルは動く暇もなく首が地面へと落ちる。
「ちっ、上から襲う"キレ"もあの時以上じゃねえか!こりゃあ負けてられねえな!」
ブラミアはそんなアマレロの戦い方に、懐かしさを感じるように笑った。
――龍の体内の冒険。龍に食べられたと言う事情で偶然集まった冒険者による大脱出劇は、ブラミアの脳裏に深く焼き付いていた。学園で安定志向の冒険を教え込まれ、それに順応してきたブラミアだが、あの冒険でそんな価値観が破壊されたのだ。安定志向だけでは、危険な迷宮で冒険者は生き残れない。どこかでリスクを取らなければ、自らの望むものは得られなかったのだ。
龍の体内では、それが心臓での人馬一体のモンスターとの死闘だった。アマレロの戦い方を見たことで、最後、彼が人馬一体の虫へとどめを刺した時の剣技を思い出したのだ。もちろん、今の一撃はあの時程、自分の身を顧みずに放った一撃ではないが、似たような雰囲気を感じる。きっとあの冒険からアマレロも鍛え直して、アビリティへの理解を深めたのだろう、とブラミアは思った。
ブラミアが思うに、きっとアマレロも自分と似たような気持ちだろう。
あの一撃からは、そんなアマレロの思いが見えたからである。
未だに満たされることはないが、更なる冒険への焦燥感を。より上を目指すと言う渇きと飢えを。それを埋めるためには強大なモンスターとの戦いしかないのだと。
だから――四大迷宮に来たと言ってもよかった。
リスクを取って冒険をし、栄光を手に入れる。どうしても上に行くためにはそれが必要不可欠だとブラミアは学んだのである。
そんなブラミアは、より気合を入れたのか自身のアビリティで大きな羽を生やした。
アマレロが戦っているすぐ先に、新たな蛇人が三体もいたのである。それにブラミアは狙いを定める。
「いいじゃねえか――」
ナダはそんなブラミアを後ろから見守っていた。
何も言わない。
雛鳥がやがて親元から大空へはばたくように、冒険者にもより広い世界へ羽ばたくには勇気が必要だ。力だけでは、体が大きく成長しただけでは、一線を飛び越える勇気が足りないのをナダはよく知っている。
だから、手を出そうとは思わなかった。
「行くぜっ!」
「ブラミア、勝手な行動は……!」
ナザレの言葉も聞かず、ブラミアはアーザ第一部隊の隊列から大きく離れるように前へと飛び出した。その体は普段より軽く、まるで鳥のようだった。蛇人へと剣を振るった。
蛇人達はブラミアに対して盾を構えている。一撃を受け止める気だったのだ。
「しゃらくせえ!」
だが、ブラミアは剣へとより力を込める。
蛇人が持つそれぞれの盾に剣が当たると同時に、まるで“重力がない”かのように盾たちを後ろに大きくのけぞらせた。それぞれにブラミアの羽を生やしたのである。
そのままブラミアはがら空きになった蛇人達の胴体を、大剣で斬りつける。たったの一太刀で蛇人達は深手を負った。あとは動きが鈍くなった瀕死の蛇人へ、堅実に一体ずつとどめを刺していくのだ。
「ブラミア、何か掴んだのか?」
カルヴァオンの剥ぎ取りの為に近づいたナダが言った。
「ああ! アビリティがより強くなったぜ! まさかここに来て成長するとは思わなかったんだよ!」
――実はブラミアの『重力からの解放』には制限がある。それは羽を生やすことの出来る数であるが、これまでは対象が三つであった。だから自身が持つ剣と着ている鎧、それに相手のモンスター一体に対してだけだったが、より多くの対象を取る事が出来るようになった。
アビリティの“進化”の形の一つだった。
アビリティ使いには度々あることだった。
ブラミアにとっては小さな進化であったが、どうやら興奮しているようだった。
「流石でござるなあ。ブラミア殿は。どうやらまだまだ若いでござる」
既に倒したラプトルたちの剥ぎ取りを終えたアマレロがやって来て、すぐに剥ぎ取りを終えた。
「――ブラミア、今の行動は常軌を逸しているんじゃないか?」
そんなナダ達の元へ、少し遅れてアスがやって来た。少しだけ回復したのか、先ほどよりも顔色がよくなっている。
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