表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

314/331

第三十六話 暴虐の龍Ⅱ

「そうこなくっちゃ! 作戦はどうする?」


「いつも通りだ! アスが突っ込み、他は全員でサポートだ!」


 アスとナザレの声に頷くように、他の仲間達は次々と動き出した。

 まず動いたのがマルチーザとガスパロである。

 マルチーザは光のギフトを使って仲間の武器に光を、ガスパロは牽制としてティラノサウルスに幾つもの『魔弾バラ・マジカ』を放った。五つの魔弾はティラノサウルスの胴体に当たるが、龍麟によって守られているモンスターの体に傷は一つもつかない。


 だが、確実に、ティラノサウルスの足は止まった。

 未だに見えている左目で、アーザ第一部隊の冒険者を射抜くように睨み、大きな声で吠えるのだ。


 戦闘が、始まった。

 一瞬でティラノサウルスにまで近づいたのが、アスだった。

 風の力を使い、高く飛んだ。

 風が集った剣で、ティラノサウルスの首へと斬りかかる。

 だが、ティラノサウルスが首を捩る。牙の生えた口元で、アスの剣を受け止めた。そのまま振り払って、アスを退かせる。空中で無防備になったアスへ、ティラノサウルスは身を翻して鞭のような尻尾で狙う。


「まずいっ!」


 ナザレは『光の鍛冶屋ルス・フェヘイロ』を使って、杖の刃を伸ばす。三メートルはある長槍のように。それでティラノサウルスに致命傷を与え、動きを止めようとした。

 だが、光のギフトの付与がなされていたとしても、ナザレの一撃は簡単に龍麟に弾かれてしまった。


 ティラノサウルスの尾による一撃はアスの胴体に当たり、風に守られていたとしても遠くへ飛ばされた。さらに追撃として口から射出された大きな火の玉まで当たり、勢いが加速された状態で横の壁にぶつかった。背中は当然だが頭部も強打したアスは呻いてから地面へと落ち、倒れたまま動かない。


「アスっ!」


 ナザレはその一瞬の間に、アスへと目が流れてしまった。

 そんなナザレを見逃すわけもなく、ティラノサウルスは足で踏み潰そうとする。

 当然ながらこの間にもガスパロは『魔弾バラ・マジカ』を何発も放つが、依然としてティラノサウルスに通用している様子はなかった。


「やれやれ――」


『鬼殺し(オーガ・スレイヤー)』によって肥大化した右腕に持った剣によって、ナザレを救ったのがコルヴォだ。

 細い左腕も添えて、上からのしかかるティラノサウルスの足に、歯を食いしばりながら耐えるが、コルヴォの腰は砕けそうになっていた。


「はあ――」


 そんな二人の為に、ナダが動いた。

 ナダはティラノサウルスの方へと雑に飛び上がって、鼻先に剣を振るったのだ。ティラノサウルスはそれを頬の龍麟で受け止めるが、あまりの衝撃に首が後ろにぶれて足も下がる。

 二人を踏み潰そうとしていたティラノサウルスの足も退くが、その際になんとか鋭い足先の爪だけを下げてナザレを斬り裂いた。


 ティラノサウルスは憎しみの籠った目で、コルヴォとナザレの前に立ったナダを見た。血を流しながら膝をつくナザレを標的だと思っているのか、鼻を鳴らしている。

 だが、ティラノサウルスの足は動かない。

 今回の剣でのダメージはティラノサウルス自体には殆どないが、ナダへと怯えて威嚇するかのように深く唸り出した。

 今にも襲ってきそうな雰囲気であるが、手負いのティラノサウルスは決してナダには手を出さず、ゆっくりと後ずさるようにその場から逃げ去った。

 こうして、アーザ第一部隊の冒険は失敗に終わる。



 ◆◆◆



 冒険が失敗した後のアーザ第一部隊の雰囲気は暗かった。

 ナダが担いで迷宮から連れ帰ったアスとナザレは即座に入院した。どちらも手持ちの回復薬を使ったが、そう浅い傷ではなかった。ナザレは胸をあばらまで斬り裂かれて、アスは壁に激突した衝撃で骨折と多くの火傷を負っている。

 十数日間の休養が必要だった。


 そして残りのメンバーはアーザのリビングに集まっている。

 ナダ、コルヴォ、ガスパロ、マルチーザの四人だ。特にクランリーダーであるコルヴォは深いため息をついていた。


「……コルヴォ、これからどうするんだ? 第一部隊も一旦は休暇にするのか?」


 そんなコルヴォへ質問をしたのが、ガスパロだった。

二人は大怪我を負ったが、命に別状はない。時間さえ経てば復帰できるだろう、と医者から言われたので、第一部隊の冒険もそれまでお預けだろうと考えていたのだ。現にガスパロは意識を取り戻したアスやナザレとも、そのような話を病室で交わしていた。


「いや、冒険は続けるつもりだ」


 コルヴォは、焦燥しきった顔で言った。


「……ナザレとアスはいないんだぞ」


「分かっている。だがな、ガスパロは知らないだろうが、アーザはこう見えても自転車操業でね。そう余裕があるわけじゃないんだ。第一部隊は先のエリアの開拓も必要だけど、カルヴァオンを稼ぐのも急務なんだ。お前たちをフリーに出来るような状況じゃない」


「……」


 ガスパロはコルヴォを睨むように押し黙った。

 アーザの古参メンバーであるガスパロは、現状をそれなりに把握していたからだ。

 アーザは、他の二つのクランとは違い、貴族による大規模な支援がない。だから大まかな資金はアーザ全体で稼ぐカルヴァオンによって賄っているのだが、それでも足りない時は借金をしている。だからその返済の為にも、アーザは常に稼がなければならない。


「メンバーはどうするんですか? この四人で挑むのも……」


 迷宮に潜ることに反対のないマルチーザは、パーティーメンバーをどうするかが目下の疑問だった。

 四人での冒険はよくある人数だが、そうなると浅層で我慢するのか、それとも中層まで足を伸ばすのか、が分からない。特に第一部隊の屋台骨であったアスとナザレの二人が抜けたのだ。戦力の低下をどうするのだろう、と思っていた。


「……一人、補充するつもりだ。最近アーザに入ろうとしている冒険者がいるんだ。第二部隊か第三部隊に所属させるつもりだったが、予定を変えこの第一部隊に仮メンバーとして入れようと思っている――」


「一人だけで、ナザレとアスの代わりが務まるとでも?」


 ガスパロがコルヴォを睨む。

それだけガスパロはナザレとアスの実力を信頼していた。それだけではなく、二人の後釜が一人では足りないとも強く思っている。


「……それは務まらないだろうな」


「そんな状態で、“第一部隊”として冒険に行くのか?」


「当然ながら行くさ。ひとまずアスの代わりは、ナダが勤めてくれる――」


 コルヴォの言葉に、ガスパロは黙った。

 ナダに視線が集まる。前回の冒険で唯一ティラノサウルスと正面から対峙して、一方的に一撃を入れた冒険者である。アスやナザレ、コルヴォによって動きに制限がかかっていたとはいえ、一人でティラノサウルスを剣で薙ぎ払ったのである。その威力は、単純にアスの風の剣よりも強い、とガスパロやマルチーザは思っていた。


「……ナダは、アスに比べると足りないものが多すぎる気がする。だが、誰もいないよりは、マシか――」


「そうだよ。この状況で他に“代わりの冒険者”がいるとでも? もしも有望な冒険者がいたとしたら、もう他のクランに取られているさ。特にオレやガスパロ、マルチーザも、引き抜きの声がかかっているんだから」


「そうだな――」


 天井を仰ぎ見たガスパロは、現状を思い知る。三つのクランの中で最弱のアーザは、求心力も少なく、一発逆転を狙うような“一癖も二癖もある”冒険者しか集まらない。まっとうに実力のある冒険者なら、他のクランでそれなりの地位を貰えるからだ。


 もしも別のクランに所属すれば、ガスパロ自体も最も攻略の最前戦にいる第一部隊ではなく、第四部隊や第五部隊などのパーティーに所属して、別のパーティーの手助けをすることになる。

 それはマルチーザも同じだろう。

 それが嫌で、アーザに微かな希望を見出したからこそ、ガスパロは未だにアーザに留まっているのだ。


「ナダ、お前が今からアスが戻ってくるまではこのパーティーの、ひいてはアーザの“エース”となる。アスのような冒険が出来るか?」


 コルヴォは不安そうな顔で、ナダへと覚悟を聞いた。


「俺はいつだって、『ソール』の攻略を目指している。言っておくが、俺は付いて来ないなら平気で置いてくぞ。お前たちこそ付いて来れるのか?」


 ナダは、未だに無事なアーザ第一部隊に発破をかけるように言った。

 微かに、ナダは口角を上げている。今までのアーザでは、ナダが見せた事のない顔色だった。

 アーザのエースであるアスの様にどこまでも先を見ていて、確かに迷宮を突破したい者の目だった。攻略に飢えた目のように感じていた。それは今までの冒険の時のようにやる気が無いわけではなく、確かな獣性がナダには存在していた。


「お、おう……」


「頑張るわ……」


 ガスパロとマルチーザはそんなナダの獣性に、戸惑ったように返事をした。急激なナダの変化についていけていないのだ。


(さて、どうなるかな?)


 そんな様子を見ていたコルヴォは、一抹の不安を感じながらも期待がナダにはある。

 コルヴォは過去の冒険を思い出す。ナダとの冒険は刺激に溢れていた。

 未知の迷宮、困難な敵、頼りになる味方だが一癖も二癖もある仲間達、そんな冒険を経てパーティーは一丸となり、仲間達も成長した上で迷宮を攻略するのだ。

 そんなナダを見ていたコルヴォは、過去の英雄伝説を思い出す。


 ――英雄には、輝く仲間達が集まる。どんなうだつの上がらない冒険者であっても、英雄と共に冒険することで自分の輝かせ方を知り、より強く輝くのだ。英雄の傍にいれば、自ずと冒険者の力は引き上げられるという。


 ふと、そんなことをナダに思ってしまった。

 コルヴォは、ナダが英雄だと知らない。

 だが、どうしてもナダの姿が英雄――アダマスと重なってしまうのだ。過去の伝承においてあらゆる迷宮を超え、様々な英雄たちの礎の切っ掛けにいたとされる大英雄の姿に。

 同じような魅力をナダに感じていても、未だにコルヴォはナダを英雄だとは思っていない。

ここまで読んで頂きありがとうございます!


いよいよ本作の第二巻が”明日発売”です。

書籍版では加筆や書き下ろしもあります。

面白いと思って頂けたなら、是非、応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そろそろナダがアクセルを踏みそうで楽しみですね。 書籍2巻も購入させて頂きました。 仕事明けに楽しませていただきます!
今章はネームドキャラクターが多く出てきて、所謂優秀な冒険者というのが沢山出てるけれども、ティラノサウルス位のはぐれを単独で倒せそうなのがフォカオンしか浮かばない。 ナダの行動でPTが感化されて、はぐ…
おお! そろそろナダも本気だす~? ただ武器をなんとかしないとな。 どこかの親切な商人がなんとかしてくれないかなー。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ