第三十七話 新メンバー
「コルヴォに呼ばれて来たぜ!」
新しくアーザ第一部隊に所属する冒険者は、ナダの見知った顔だった。
短く切りそろえた赤髪。切れ長の目。右耳には赤いピアスを付けており、右眼から顎にかけて炎のような刺青を刻んである。
まだ鎧は着ていないので、細いジーパンに薄手のワイシャツを着こなしていた。派手な金属製のネックレスを幾つもつけており、街中でも目を引くような容貌だ。
ブラミアだった。
ナダのよく知る冒険者の一人であり、会うのはもう随分と昔のことだった。
「……久しぶりだな」
「おうよ! 数年ぶりか? あれから話は全然聞かなかったが元気だったのか?」
「当然だろ――」
屈託のない笑みのブラミアに、ナダは右手をがっちりと握って答えた。
久しぶりに握るブラミアの手の力は強かった。以前よりも強く感じたので、きっと冒険者として成長したのだろう、とナダは感じた。
「ナダがよく知る冒険者だろう? ブラミアは学園を卒業してから王都のパーティーに所属していたんだが、どうやら本人は四大迷宮を挑戦したくなったみたいで、オレに声がかかったんだ」
コルヴォはブラミアの肩を叩いた。
「ああ、そうだ! いつまでも王都で燻っていたから、新しい挑戦がしたくなったんだ! その時に友達からコルヴォの話を聞いたんで、わざわざクラーテルまで来たんだが、まさかこの町で最弱のクランだとは思わなかったぜ!」
ブラミアは屈託のない笑みで言った。
どうやら学園からの伝手によって、ブラミアはアーザの存在を知ったらしい。
それまでのブラミアは王都のとあるパーティーに所属していたらしい。
「それは大きなお世話だよ――」
「おっと。これは言いすぎたか? まあ、気にするな! それより、よろしく頼むぜ! オレが新しいパーティーメンバーだ!」
ブラミアはアーザ第一部隊のメンバーと次々と握手を交わして、挨拶を簡単に済ませた。
それから小一時間ほどのブリーフィングを行ってから、迷宮に潜ることになる。
だが、そんな中でガスパロとマルチーザはコルヴォに不信感を覚えていた。
――何故、アスとナザレが離脱したタイミングで、ナダに近しい冒険者を入れたのだと。
だが、そんな二人の疑問が解消されることはなく、コルヴォを中心にして迷宮探索の準備が進められる。
ガスパロとマルチーザの精神的なショックを理由に、アス達と同じように休養することも考えたが、折角手に入れたアーザ第一部隊の地位は惜しかった。三つの中で最弱のクランではあっても、その中では最も期待されているパーティーだ。簡単に休むことなど出来ない。
その間に、また別の冒険者がブラミアのように台頭すると思うと、必死になって二人も冒険するしかないのだ。
そんな思惑を抱いたまま、アーザ第一部隊はミーティングを終えて、その二日後には『ソール』に潜る事となった。
「一緒に潜るのは久しぶりだな! 腕が落ちているんじゃねえだろうな?」
エースとなったナダの後ろに控えるように、ブラミアが楽しそうな声で言った。
「俺が、か?」
ナダが口角を上げた。
「ああ、そうだぜ。温い冒険ばっかりしていると、腕が錆びつくらしいからな――」
「腕が錆びても、その辺りの冒険者に負ける気はないさ――」
ナダは既に抜いてあるいつもの剣を、肩に担ぐように持ったまま自信をもって言った。
負ける気など、毛頭なかった。
「言うじゃねえか。久しぶりの“冒険”だからオレも楽しみにしているぜ――」
ブラミアは楽しそうにしていた。
学園を卒業してからのブラミアの冒険はよく言えば順調で、悪く言えば刺激が殆どなかったのである。
そもそもラルヴァ学園から卒業した冒険者の多くがこれまでのパーティーを解散して、新しいパーティーに所属する。それも卒業に合わせて作ったパーティーではなく、既に存在する熟練のパーティーだ。それらの中にはそれぞれの都市で有力なパーティーもあるが、学園から卒業してすぐにトップクラスのパーティーに所属するような冒険者は“稀”である。
それこそ、学園で類を見ない活躍を果たした冒険者程度だ。ブラミアが昨日に語るに、そんな活躍はここ数年の間でナダを始めとしたコルヴォやイリスのような冒険者しか、していないと笑いながら言った。
ブラミアはコルヴォの一個下の学年であり、当然のように一年遅れてラルヴァ学園を卒業して所属したパーティーは、王都の中堅だった。ちょうどブラミアの卒業に合わせてメンバーが抜けたので、学園でも“そこそこの活躍”を成していたブラミアの目を付けたようだ。
王都では中堅のパーティーではあるが、学園に置き換えるとトップに次ぐようなカルヴァオンの取得量を誇るパーティーであった。
過去に龍の体内を巡る冒険をしたブラミアであっても、まだまだ甘い所が多かった。
王都の中堅パーティーに所属することで、単純な強さだけではなく、迷宮ごとに合わせ、極限まで効率化を研ぎ澄ました冒険は、なかなかに学ぶものが多かったようだ。
「だがな、オレは“未知”に挑戦したくなったんだよ。かつてお前たちと龍の体内を冒険したようにな――」
ブラミアはそんな王都のパーティーに所属して二年ほどで、新たな挑戦を志すことになる。
その切っ掛けが――かつてナダ達とアクシデントでパーティーを組んだ龍の体内での冒険である。
それまでのブラミアの学園での冒険は、堅実で、現実的な迷宮探索だった。学園の課題やノルマのみを気にし、常にカルヴァオンを得る冒険である。“はぐれ”を狩ることも無ければ、必要以上に下に潜ることもない。あくまで命を大切にした冒険で、ずっと満足していたが、ブラミアは、“挑戦することの楽しさ”を知ってしまった。
未知なる迷宮、困難な敵、命がけの冒険、そんなものをブラミアは欲しがってしまったのだ。
いや、かつて幼少期に夢のように憧れた冒険を、もう一度夢見てしまったのだ。
だからブラミアは王都の所属していたパーティーに、新たな迷宮である四大迷宮の挑戦を提案していたが、どうやらパーティーメンバーは三十代の者が多かったので新たな挑戦ではなく子供もいるので安定した生活を求めていた。
そんな仲間達から背中を押される形でブラミアは四大迷宮を目指そうと思った時に、コルヴォの現況を噂で聞いて、ブラミアからコンタクトを取ったのである。
だからブラミアは今回の冒険を非常に楽しみにしていた。
特に“龍の体内”で共に戦ったナダとコルヴォがいることにより、あの時のような冒険が味わえるのではないか、と期待しているのだ。
そして『ソール』へと足を踏み入れたアーザ第一部隊は、すぐに浅層で多数の火人と遭遇した。
運が悪いと言ってもいいだろう。
「来たぜ。火人だ。特徴は聞いたよな? 先に一人で戦うか?」
そんなブラミアへ、ナダは挑発するように言った。
もちろんブラミアの頭の中には『ソール』の大まかな情報が入っているため、二つ返事で頷いた。
「いいぜ。オレの実力を見せる時が来たと思っていたところだ。一人でいいさ。この先、もっと強いモンスターが沢山現れるんだろ? 実力を見せつけるにいい機会だ――」
ブラミアは自信満々に胸を叩くと、リーダーであるコルヴォへと目線を向けて、本当に一人で戦っていいか確認する。
コルヴォはため息交じりで、「任せた」と呟いた。ナダとブラミアの会話と行動は、決して冒険者として褒められたものではないからだ。
いつも感想や評価ありがとうございます!
本日、書籍版第二巻が発売しました!
ナダの最後の戦闘シーンなども含めて大きく加筆しており、ラストも含めて違った形で楽しんでもらえると思います。
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