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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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312/332

第三十四話 アーザ第一部隊Ⅴ

次の更新は3月29日20時となります。

その更新から力尽きるまで毎日更新頑張ります。

 迷宮に潜った第一部隊は、これまでよりも早く中層に潜り、ラプトルたちが闊歩するエリアを回っていた。

 問題なくラプトルは倒している。

 この場においても、アスは最も活躍していた。もっとも早いからだ。

 ナダもそれなりにモンスターを殺しているが、役割としてはアスのサブであった。


「さて、ここからが石頭が出現する場所だ。絶対に注意を怠るな!」


 そしてラプトルたちの出現が少し減った時に、壁にパキケファロサウルスが頭をぶつけたかのような陥没痕を見つけた。

 きっと誰かがパキケファロサウルスと戦い、逃げた証拠である。


 辺りにモンスターの血はなかった。

 つまりまだパキケファロサウルスは倒されておらず、戦った冒険者は逃げたのだろう、とナザレは考えた。

 つまり、標的はこの近くにいる可能性が高かった。


「――見つけた」


 どうやら目的のモンスターは、ここからそう遠くない所にいるのをアスの“風”が見つけたようだ。


「流石だな――」


 アスの風による索敵能力に、ナダはもう驚きもしなかった。

 ナダの感覚では、近くにまだモンスターはいない。生きている冒険者も自分たち以外には感じなかった。


 アスの指示に従うように、アーザ第一部隊は足を進める。

 ラプトルの気配はまだない。きっとパキケファロサウルスに慄いて逃げ出したのか戦いに行ったのかのどちらかだろう、とコルヴォは言った。


 迷宮内ではモンスター達に強さの序列があり、彼らは基本的には同種以外では群れないとされている。他の、出会う事があれば片方が逃げるか、もしくは戦うかだ。ポディエにおいてはモンスターによって区域が大きく分かれており、別種のモンスターが出会う事が殆どないため、あまりモンスター同士の戦闘を目撃することはないが、ここ『ソール』だと特に深層においてはモンスター同士の縄張り争いが頻繁に行われると言われている。


 その理由の一つに、深層にいる“龍達”は常に縄張り争いをしているようだ。誰がここの王者か、モンスター同士で常に争い、“喰らっている”らしい。

 熾烈なモンスター同士の競争こそが、他の迷宮では見ない『ソール』の特徴だった。

 ナダ達の目の前に現れる龍達も、そんな争いを常に繰り広げているようだ。


 ナダ達はパキケファロサウルスの前に辿り着く。

 事前に聞いている情報と全く同じ姿をしていた。

 二本足の体。龍族特有の龍麟。小さな手。それに――固く発達した頭部。殴る為の頭をしていた。体もラプトルの1.5倍ほどの大きさがあった。


 そんなパキケファロサウルスの周りを囲むように、ラプトルが三体もいた。

 彼らは、今にも戦おうとしていた。

 ラプトルはパキケファロサウルスへと何度も吠えている。まるでタイミングを測っているようだ。

 パキケファロサウルスは、そんなラプトルへと狙いを定めて何度も右足を動かしていた。今にも突進しそうな勢いだ。


「待て――」


 固まって移動していたアーザ第一部隊は、リーダーであるナザレの意見によってパキケファロサウルスとラプトルの戦闘を見守ることになった。

 すぐに戦闘は始まった。


 横にいた一体のラプトルが、パキケファロサウルスへと飛び掛かる。狙いはおそらくパキケファロサウルスの首だろう、とナダは思った。

 だが、そんな攻撃よりもパキケファロサウルスの突進の方が早かった。一体のラプトル目がけて真っすぐ突撃する。パキケファロサウルスの一撃は、素早く、重たかった。


 体重差があるためか、ラプトルは簡単に吹っ飛ばされて、壁にぶつかった。そのまま体がひしゃげて動かなくなる。

 残りの二体のラプトルが残ったが、仲間が殺された事によりその場から素早く踵を返して逃げていく。


 パキケファロサウルスはそんなラプトルたちを追いかけなかった。何故なら――他に獲物を見つけたからだ。

 龍の目線は、ナダ達に向く。


「さあ、決戦の時だ――」


 この戦闘を最も心待ちにしていたアスが、矢面に立った。

 今までずっと中層に潜っていたアーザ第一部隊だが、アスが所属してからはまだ三か月しか経っていない。またアーザ自体の設立もまだ半年ほどであり、クラーテルに存在する他のクランと比べると随分と歴史が浅かった。


 そもそもアス自体も冒険者になってからまだ二年ほどと、随分と短かった。

 アスが冒険者を志したのが16歳の時と、他の冒険者と比べると随分と遅い。セウに存在する冒険者養成施設で“力”に目覚めたのが、迷宮に潜り始めてから三か月程だ。

 それから施設をすぐに卒業し、最初はセウでミラを攻略していた。まだまだ経験の浅いパーティーで。


 その時から、アスの才能は輝いていた。

 アスは、双色ジェメオスらしく、力に目覚めた時にアビリティとギフトの両方に目覚めた。

 初めて力を使った時から、アスは風を自由に扱えた。


 ギフトによって強力な風を生み出し、まだまだ制御が難しい状況を、より風が巧みに扱えるアビリティによって統率するのだ。またアスのアビリティはそれだけではなく、新たな風を生み出せる。

 ギフトの風と、アビリティの風、二つの相乗効果により、アスはどんな風使いよりも、強力な風を意のままに操り、モンスターを殺すことが出来た。


 まだ力に覚醒したばかりのアスが最初に殺した“はぐれ”は、ミラに出没するものだった。

 名を、キングオーガ、という。人と似たような鬼の姿をしたモンスターのはぐれであり、通常種よりも圧倒的に大きく、力も強大な個体であった。

 新人であればすぐに殺され、ベテランであっても準備をしっかりとしなければ防戦一方になるような“はぐれ”だ。


 強大なモンスターであったが、勝てないようなモンスターではなく、出現例も討伐例も多いモンスターだった。

 アスはそんなモンスターと戦った末に、犠牲を伴った末に倒した。


 アスの持つ力の出力は、簡単にはぐれを倒せるほどの力を、当時から持っていたのだ。


 その時のアスは、仲間を二人ほど失った。

 同じく養成施設を卒業したばかりの新人だった。そもそも当時のアスが所属したパーティーは、新人たちだけで組んだものだったのだ。

 だから、当時のアスたちには不相応な敵と不運にも出会い、その結果、五人いるうちの二人が死んだのだ。

 職業冒険者には、よくある犠牲だった。


 そんな中、キングオーガから生き残り、あまつさえ倒したアスは当時のミラにおいて英雄ともてはやされた。

 本来なら、仲間を失ったアスに、そう言われる資格はないのに、と本人は強く思いながら。


 そんな事件を切っ掛けにしても、アスは冒険者を辞めることはなかった。

 ――夢が、あったからだ。

 幼き頃より見た様々な英雄譚。童心ながらに怪物を倒し、名誉や栄光など全てを手に入れたそんな姿に憧れたのだ。


 その憧れは、仲間が亡くなってもアスの中で無くなることはなかった。

 むしろ――強くなった。

 自分がもっと強かったら、仲間を守れた。モンスターに殺される事もなかった。こうなった原因は、自分が弱いことが原因だと。

 アスはその日から、より力を求めるようになった。


 何度も中層に潜り、深層に潜り、はぐれとも戦う事が多かった。力を欲していたからだ。アスは養成施設時代の教官から、自分よりも強いモンスターと戦えば、より強くなれるという言葉を愚直に信じていた。


 だから仲間も何度も変えて、新人から中級冒険者、その道のベテラン、トップパーティーと順調に成長を重ねていった。

 当然ながら目の前の壁をアスは全て乗り越えた。


 特に、新人の時からキングオーガに勝ったアスにかかる期待は大きく、次々にスカウトの声がかかったのだ。

 そしてナザレに出会い、コルヴォに誘われ、アーザに所属している。


 そんなアスは今も力を求めて、今も――強敵を求めている。

 ヴェロキラプトルは、そんなアスにとっては絶好の獲物だった。


 アスの持っている剣に、煌めく風が集まる。

 ラプトルと対峙しているからこそ、未だに戦っていないモンスターと戦うからこそ、普段よりも強い風が集まっていた。“祝詞もなく”アスの意思によってギフトが発現し、剣に集まる。本来なら制御が効かず、霧散してしまうような風を、アスはアビリティによって集める。

 集う。

 より風が。

 煌めく風が、辺りに生み出された風を全て集める。


 ナダやコルヴォは、周りを無風だと感じていた。

 何もなかった。

 迷宮内に流れる肌を撫でる風も、鼻をくすぐる匂いも、その全てが、アスの剣に輝く風として集ったのだ。


 パキケファロサウルスは、そんなアスへと狙いを定めた。

 腰を落としたアスは、いつでもパキケファロサウルスの突進を躱して、一撃で仕留める気だった。


 だが――


「――いや、敵はそいつじゃねえな」


 ――パキケファロサウルスが、アスへと突進することはなかった。

 ナダだけが、闇の中に“やつ”を見つけていた。

いつも感想や評価などありがとうございます!

次回は、あのモンスターが登場します。


第二巻発売は30日となります!

是非よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
アスの方が索敵能力高いのに気付かなかったんか、他の敵が眼中に無かった?
ティラノか?
更新ありがとうございます。 29日からの連日更新もめちゃくちゃ嬉しいです。二巻とダブルで楽しみにしています! なぜ恐竜は、心の中のキッズの部分をこれほどまでにくすぐるのか…w
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