第三十三話 訓練
次の更新は3月27日20時となります。
そんな話し合いが終わったナダは、今日は迷宮探索がなかったので、迷宮内で使っている剣をアーザの本拠地の庭まで持ってきて体の調子を確かめるかのように振るった。服装は鎧ではなく、ズボンだけを履いていた。上の服は汗で体に引っ付くのが嫌だからとその辺りに脱ぎ捨ててある。
まずは上段に構え、上から下に愚直に剣を振り下ろす。
唐竹割りだ。
それをぶんぶんと何度も行う。いつも行っている素振りだった。
周りにはナダしかいなかった。他のアーザの冒険者は一人としていない。コルヴォはこの庭を冒険者の為の訓練場所として作ったが、利用者が一人もいないのが現状だった。
彼らの武器はアビリティであり、ギフトだ。
それらを鍛えるには迷宮でひたすら使うしかない。特にアビリティに関してはそのような鍛え方が冒険者の間には当然のように周知されている。
だから、わざわざ剣を鍛える冒険者は少ない。
そんな地道な訓練よりも、ひたすらアビリティの威力を上げた方が効率がいいからだ。
そんな中、ナダにとっては唯一の鍛錬である剣を振るう。
英雄になろうと、四大迷宮の内の一つを突破しようと、周りから剣を振るうと言う古臭い訓練をしていることでアーザの仲間から嘲笑されていようと、ナダには“これ”しかないからひたすらに振るうのだ。
オケアヌスにいた頃はずっと青龍偃月刀か、陸黒龍之顎を使っていた。どちらも大型武器であり、現在ソールでメインに使っている武器はただの直剣だ。これまでよく使ってきた武器よりも短い。
だから、その剣の振り方をもう一度ナダは模索するのである。
「しっ――」
この形の剣は学園に入学したばかりの頃、よく使っていた。学生にとっても標準的な武器の一つだからだ。まず学園に入学した生徒はこのような標準的な剣から始まり、自分たちの武器を模索していくのだ。
だからナダも自分にとっての最良の武器を見つけるまでは、このような剣をずっと使っていた。また使う事になるとは思わなかったが、新しい迷宮に挑戦する時にもう一度この剣からやり直すことはナダにとって初心を思い出すのと同じだった。
かつてと同じような気持ちに思わずナダは嗤ってしまった。
未来なんて何も見通せず、ただ目の前の敵を殺すしかない状況。どうやってこの先迷宮を攻略していけばいいか、どう生きていいかそんな迷いを抱えながらも愚直に剣を振るって自らを高めるしかない日々。そんな気持ちをもう一度思い返すことで、ナダはより剣に力が入り、体に“熱”が宿る。心臓が熱くなり、より力が増していくのだ。
「やあ、精が出るね――」
そんなナダへ好意的に声をかけたのが――コルヴォだった。
「何だよ?」
「邪魔したかい?」
「ああ、そうだな――」
ナダはコルヴォから皮袋の水筒を投げ渡された。飲み口を開けて飲むと、柑橘の味がした。懐かしい味だった。オケアヌスにいた頃はあまり柑橘類を食べなかったため、訓練中にそのようなものを飲む機会がなかったのだ。
「昔より剣が鋭くなったかい?」
コルヴォは屋敷の扉の壁に背中を預けたままナダを見ている。
「そう見えるか?」
ナダは剣を振りながら言った。今度は袈裟斬りだ。まるで相手の右肩から左腰へ抜けていくように剣を振るうのだ。これも学園で習う剣の振り方の基本の一つである。
「ああ。オレにはそう見える」
「それは嬉しいな――」
ナダは口元に笑みを浮かべた。
「なんだかそうしていると学園の頃の自分を思い出す気がするよ――」
「ならコルヴォも一緒に剣を振るうか?」
「残念ながらこれから何人かのスポンサー候補と会う予定があるんだ。それが無ければ一緒に振りたいんだけどね――」
やれやれ、とコルヴォは残念そうに頭を振った。
「クランリーダーなんだ。仕方ないな――」
「ああ、本当にそうだよ。そうじゃなかったら、自分のことに百もの力を注げるのにね。でも、これがオレの選んだ道だ。仕方がないよ」
「そうだな――」
ナダはコルヴォを否定しない。
迷宮探索を円滑に進めていく上で、クランというシステムがとても有用な事は分かっているからだ。仲間の誰かが迷宮の調査を行い、その時々に合わせてパーティーメンバーの形を最適化しながら攻略していく。
迷宮探索において、理想の形だった。
「そう言えばパーティーの顔としてアスやナザレも連れて行くんだが、ナダも来るか? クランとして今後の要となる冒険者は誘っているんだ。貴族に顔を売るのも冒険者には必要だろう?」
「俺には必要ねえよ――」
ナダはコルヴォの提案をすぐに断った。
今更パライゾ王国で出世するつもりなどはない。
そんなものとは、埒外の場所に自分は立っているのだ。
「そう言うと思った。だからナダは事前に誘わなかったんだ。きっと来ないと思ったから――」
まるでその言葉をわかっていたかのようにコルヴォは笑った。
「流石だな――」
自分のことが手に取るように知られていることに、ナダは嬉しくなった。コルヴォとは学園生時代から親交のある相手だ。自分の性格をよくわかっている。
「はあ、それにしても……」
コルヴォは深いため息をついた。
「どうしたんだよ?」
ナダは剣を振り上げながら言った。
「いや、せっかく少ない資金を使ってこの訓練場を作ったのに、誰も使ってはくれないんだ。最近の冒険者はというよりも、近頃の冒険者の傾向かな? 剣よりも、アビリティなどをより鍛える方が好むんだ。その方が、冒険者としての評価も上がるからね――」
「……別に間違ってもいないがな」
ナダはそのような現代の冒険者を否定しない。
彼らは彼らで強く、有能であるからだ。アビリティやギフトを鍛え続けた先に、英雄の道があることを知っている。その実例が氷のギフト使いであるニレナであり、彼女は剣にも優れていたが、ほぼ“ギフト”のみでその頂に立った冒険者だとナダは思っていた。
「でもね、ナダ。やっぱり最後に頼れるのは自分の体だよ。どれだけアビリティが強くても、ギフトが強力であっても、剣を振るう力が無ければ最後の最後で負けてしまうかもしれない。オレの好きな英雄の言葉さ――」
「かもな――」
ナダは頷いた。
コルヴォの意見も正しいと思ってしまったからだ。
「まあ、いいさ。ナダ、どうせ暇さえあれば剣を振るうんだろう? オレも暇な時は混ぜてもらうよ。特にオレは剣の腕が上がれば、よりアビリティが強力になるからね――」
「ああ、待っているぜ――」
ナダが快く頷くと、コルヴォは忙しそうに屋敷を出て行った。
それから誰も見る目が無くなったとしても、ナダは剣を振るうのを止めない。日が暮れるまで、一心に剣を振るい続けた。
いつも感想や評価などありがとうございます!
第二巻は3月30日発売です!
よろしくお願いします!




