第二十九話 アーザ第一部隊
以前の冒険ではアスの隣にいたのはナザレで、その後ろにガスパロが控えていたが、今回アスの隣にいるのはナダだった。どうやら第一部隊ではいつもコルヴォが殿として一番後ろに控えているとして、今回もコルヴォの希望が通った。
ガスパロは中央に位置し、『魔弾』で前後にいつでも攻撃できるように構える。彼自身の、パーティーの定位置だった。
ナザレは、ナダとアスの一歩後ろに位置した。これも以前の第一部隊でのナザレの定位置である。ナザレは『光の鍛冶屋』によって、様々な武器に変えた杖を扱える。それは至近距離であっても、中距離であってもだ。また杖術と呼ばれる特殊な武術を習っているので、前にも後ろにもいつでも駆け付けられてどんな戦いても出来るような力を持っているのだ。
「ナダ、今回は先頭だけど大丈夫?」
「問題はないさ――」
「じゃあ、問題はなさそうだね。無理そうだったらいつでも下がっていいよ」
いきなり先頭に任命されたナダは自信満々であるが、アスはその様子に少しだけ不安そうな目を向ける。
ナザレ、ガスパロも、アスと同じ反応をナダに向けていた。クランリーダーとしてのコルヴォの指示が無ければ、今回の冒険でもナダには殿の予定だったのだ。前回の冒険をなぞるつもりだった。
「なあ、ガスパロ、本当に大丈夫と思うか?」
特にナザレはパーティーリーダーとして、今回の冒険の配置に関してコルヴォに一度は抗議したものの笑って流されたから、不満が残るようにガスパロに小声で語った。
「……どうだろうな。でも、アスが隣にいるんだ。もしもの事はないだろう? おそれにコルヴォやオレも控えている。“もし”前線が崩れたとしても、パーティー自体が崩れることはねえだろう」
ガスパロも一抹の不安を抱いていたが、自分の強さに自信を持っているためナザレ程の不安は抱いていなかった。
中層に来るまでに、ナダとアスのペアが崩れることはなかった。
基本的にアスが多くの火人を倒していく中で、ナダはアスが対処しきれない火人をロングソードでなぎ倒していく。
アスは風を使って火人を華麗に切り刻み、ナダは前と同じようにロングソードによって、火人をぶつ切りにしてその場から素早く離れる。
二人が動くことによって、ガスパロとナザレの仕事は殆どなくなっていた。
それから程なくして、蛇人がいる場所へと移ってもナダはあまり変わらなかった。アスが倒しきれなかった蛇人をナダが倒すのだ。
第一部隊での以前の冒険ではナダが倒した蛇人はどれも弱らせられていた個体であったが、ナダは元気な蛇人であっても簡単に倒していく。
「しっ――」
ナダはロングソードで蛇人を八つ裂きにする。最初の太刀筋で蛇人の持っている盾をロングソードで斬りかかって退かせて、二太刀目で命を刈り取るのだ。具体的には心臓に剣を突き刺し、別の個体は首に致命傷を与える。
また、ナダは狙える時には、簡単に一撃で蛇人の首を狩り取っていた。ナダに取って、火人と蛇人はあまり変わらなかった。どちらも只のモンスターであり、これまでに戦ったモンスターとはまだまだ弱いと言えるのだ。
慣れない事と言えば、ロングソードと言う武器そのものであった。リーチが短いと、ナダは少し不満に思っていた。
「まだまだぁ!」
一方で、アスの攻撃回数は増えた。
アスの攻撃は鋭いが、軽いため、相手が強くなるたびに攻撃回数が増えるのだ。また蛇人は盾で自身を固く守っているため、アスはそれをギフトとアビリティによる速度を上げる事によって、カバーしていた。
時には盾を避けて攻撃し、時には剣と風で盾を弾き、致命傷を狙うのである。
疲れたとしても、ナダが倒す以上に戦場を駆け回り、より多くの蛇人を殺している。ナダの二倍の蛇人は優に殺していた。
「ま、オレはオレの仕事をするだけ、か――」
ガスパロはそんなナダとアスに向かって、『魔弾』を放つ。銃で狙われた蛇人達は、肩や頭部を撃たれている。
だが、明らかにガスパロの支援はアスが多かった。ガスパロは眉間を寄せて、アスの様子を観察する。額に汗をかき、必死になって戦うアスへと応援する気持ちを向けている。
「どうしてこうなるんだ?」
一方のナザレは悪態をつきながら、数多くの蛇人を倒すアスのフォローが増えていった。光の槍で、アスがとどめを刺す手助けをするのだ。
時間が経つ毎に、モンスターとの戦闘が増えていくごとに、アスの動きは精彩を欠いていく。それはギフトとアビリティの力が弱くなっているのもそうだが、集中力が持たないのも確かだろう。
まだまだ才能ある冒険者として、足りない部分が多すぎるのがアスの弱点だった。
「以前の冒険より、動きがいいね――」
そんな中で、マルチーザの横でナダとアスの戦闘を見ながら暇を潰していたコルヴォは、特にナダの動きに注目していた。
蛇人は、決して弱いモンスターではない。アスも、ナザレも、コルヴォであっても、一人で倒せるが、決して甘いものではない。アビリティをふんだんに使い、ギフトのサポートを受けて、一人で安定して倒せるのだ。
だが、ナダはきっとマルチーザのギフトがなかったとしても、安定して倒しているだろう、とコルヴォは予想する。実際に前回の冒険でも、ナダは致命傷を負わなかったからだ。
今回はそんな時の冒険よりも動きがいい。武器がよくなったからだろうか。楽々、と倒しているようにコルヴォには見えた。
「ラプトルが来るぞっ!」
そんな戦いが終わったら、今度はラプトルの出現をアスは感じ取っていた。
「へえ――」
周りには蛇人の死体が十数体も転がっている中で、柔らかくなった蛇人を気のナイフで解体しようとしていたナダは、新たに出現したラプトルへの対処を準備するべく、すぐに前へと歩き出した。
「こんな時に――」
アスは大きなため息を吐いた。度重なる戦闘で、体力を消耗していたのだ。だからこそ蛇人との戦闘が終われば、カルヴァオンの剥ぎ取りをナザレより免除され、休憩しようと腰を落としたところだった。それでもモンスターが現れれば、戦う事に迷いはない。
乱れる息を整えるように長く吐き、体を落ち着かせながら立ち上がる。そして剣を抜いて、「風よ――」と小声で祝詞を唱える。ギフトとアビリティが混じった風を、自分の体に纏わせるのだ。
だが、その風は迷宮に潜った当初の風と比べると、弱々しかった。アスの身に纏う銀色が、先ほどよりも薄いのである。銀から光が失われようとしていた。
「まあ、取りあえずは俺が戦うからサポートは任せるぜ――」
一方のナダは、この程度の連続の戦闘で疲れるような体をしていない。体力は未だに有り余っているので、楽しそうな顔で出現するラプトルへと歩みを進める。
「ナダ、アスを待て!」
そんなナダに、ナザレの怒号が飛んだ。
「疲れているようだから、代わりをするだけだ――」
だが、ナダは、ナザレの命令を聞かなかった。実際にアスは息が切れている。万全に戦える状態ではなかった。
「ナダ! 無茶をするな!」
アスもナダに追いつこうとするが、足が思ったように動かなかった。本来なら、休息を取らなければならないほど、体力を失っているのだ。
「さて、様子見かな――」
コルヴォはいつでも飛び込めるようにしているが、あえて助けに行くことはせずにその場で足を止めた。コルヴォはナダと共に迷宮に何度か潜っているが、未だに彼の真価は見ていない。火人や蛇人ではナダに傷一つつけられず、息一つ乱すことはできなかった。
そしてティラノの戦いも、コルヴォは見ていない。
だから――消えてからの三年半の月日が、ナダに何を与えたのか、コルヴォは見たかった。
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