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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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第二十八話 勝利のギフト

 一日の休息を取ったアーザ第一部隊は、また中層に潜る予定を立てていた。

 今度は正式なパーティーメンバーの一人であるコルヴォが加入した。その為のミーティングが終わり、いざ迷宮へと潜ろうと移動し始めた時に最後まで残ったナダへコルヴォがナダへと話しかけた。


「ところで、ナダ、イリスからなんか言われたのかい?」


「俺がイリスと出会ったことを知ってたのか?」


「ああ、イリスは目立つからな。すぐに町でも噂になるさ。それこそ、これまでどんな男に誘われても食事に行かなかった彼女が、男と出かけたのなら尚更な。で、なんて言われた?」


 どうやら昨日のイリスとの食事の件は、既にコルヴォの耳にも入っていたようだった。多くの冒険者に見られたから、その誰かからコルヴォは聞いたようだ。

 ナダはそれを美人なイリスが目立つからだろう、と楽観的に思っていた。


 だが、ナダは知らない。

 まさかフォカオン率いる『アルシャイン』において、イリスが“お姫様”と呼ばれるほどの特別な存在であることは。

 現在、存在する十二のギフトの中で、最も謎に包まれているのが勝利のギフトと言われている。過去の大英雄達が授かったギフトであり、覚醒した者は殆どおらず、現代に至ってはイリスだけが確認されている。


 その効力としては使用者が願った者に――勝利の祝福を与える、という酷く曖昧なものだった。他のギフトとは違い、勝利のギフトは形として現れるものではない。だが、十二神信仰が浸透しているパライゾ王国において、神からの祝福は特別な物とされており、事実として“イリスは殆ど負けたことがなく”、誰かに願ったのなら“その者も負けていなかった”。

 だからアルシャインと言うクランにおいて、彼女は聖域だった。お姫様と呼び、誰もが讃えているのだ。

 いずれ彼女がアルシャインに勝利の栄光を与えると。


 そんな話を別のクランであるコルヴォは薄っすらと知っていた。

 そもそも学園の時から似たような人気がイリスにはあり、取り巻きも数多くいたのだ。彼女の勝利のギフトのおこぼれを狙う者は今も昔も多かった。


「パーティーに誘われたぞ。もちろん――断ったけどな」


 ナダはそんな彼女のギフトの効力を最大現に受けていた冒険者の一人であるが、もう、そんなものは必要なかった。

 いや、昔から彼女の力を当てになどしたことがないのだ。


「やはり――」


 コルヴォは神妙な面持ちだった。


「予想ついていたのか?」


 ナダは意外そうだった。


「ああ、当然だ。ナダがどこまで分かっているのかは知らんが、イリスはああ見えてとても身内びいきで、ナダの事は当然ながら同じく仲間であったレアオンの事もとても可愛がっている。若干、ナダに寄っているような気がするがな――」


「薄々、気づいてはいるが――」


「本当か? 実は学園の時に何度かコロアも含めた三人で集まった事があったが、イリスはずっとナダとレアオンを褒めていたぞ」


「そうなのか?」


「ああ、二人が学園を去った後に、二人は私を超えている、私も早く追いつきたい、とずっと言っていた――」


「へえ――」


 確かに、ナダはイリス本人からもずっとはぐれを一人で倒そうと躍起になっていることは聞いていた。だが、それとは別にそこまで自分を評価していたとは思わなかった。

 レアオンも含めて、イリスの中で自分はまだまだ後輩としか思われていない、との印象しかなかったからである。


「それだけ大切な後輩なんだ。そんなイリスがせっかくの“可愛い”後輩と出会ったんだ。誘うのは当然だと思っている。ナダが断ったのは意外だがな」


「そうか? 先にコルヴォに誘われたんだ。当然だろう?」


 ナダはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「……ナダ、誘ったオレが言うのも変かも知れないが、先を目指すのならアルシャインに入るのも一つの手だぞ?」


「コルヴォもそう思うか?」


「ああ。アルシャインはスカーレット家以外にも、幾つかの貴族が支援している。その金額はこの国の冒険者全体を考えても、かなりの金額だ。それだけ期待が大きいんだろう。フォカオンの“力”だな――」


「でも、とりあえずは移る気はねえぞ」


 ナダは迷わない。


「理由を聞いていいか?」


 コルヴォにはナダのそんな反応が不思議だった。

 彼が知る限り、イリスは『アルシャイン』の中でも重要なポジションについている。まだ『アルシャイン』に入って日が浅いイリスであるが、そもそもが最大出資者のスカーレット家の三女である彼女は、『アルシャイン』のお目付け役とも言える存在だ。


 それだけではなく、イリスの才能は絶対的である。他にはいないとされる勝利の神のギフトを持ち、未だにイリスが入ったパーティーが負けた事はない。さらに強力なアビリティまで持っていて、そんな彼女の威光から“勝利の女神”と呼ばれる事もあるようだ。

 そんな彼女のお気に入りなら、ナダの地位もある程度は保証される筈だ。そもそも彼女が手元からナダを手放すわけがないとさえ、コルヴォは思っている。


「俺は、俺の冒険をしたいだけさ。もうイリスの下に就く気はねえよ――」


 ナダの答えは、非常にシンプルであった。


「なるほど。確かに、既にイリスの器に収まらないのかも知れない」


 コルヴォはふふっ、と笑った。


「コルヴォこそ、俺に着いて行く気が無くなったら、別にいつでも追い出してくれてもいい。とりあえずの攻略は一人でも問題ないからな――」


「例え深層でもかい?」


「そうだぜ。もしも次の冒険で深層に挑むのなら、アーザの為に俺一人で潜ろうか?」


 ナダはまるで近所に散歩に出かけるかのような軽い気持ちで言った。


「本気……かい?」


 一方のコルヴォは、ナダの言葉が嘘か真かが分からなかった。まるで怪しむようにナダを覗きこみ、その様子を伺っている。

 だが、どれだけ見ても、ナダは面白そうに嗤うだけだった。その様子はコルヴォには理解できない程恐ろしく、出会わなかった三年間が彼に何をもたらしたのか、冒険者としてどんな成長を彼に与えたのか、コルヴォは知りたいようで知りたくなかった。


「どうだろうな。でも、もしもアーザが無くなったら、俺は一人でも深層を目指すつもりだ。で、“底”が見えたらパーティーを探すのもまた一興かも知れないぜ?」


 ナダは本気で言った。

 だが、その口調は軽かった。


「その時はぜひ、オレをパーティーに入れてくれよ?」


 コルヴォはナダの言葉を軽口として受け取ったので、軽口で通す。


「生きていたらな――」


 ナダも冗談で返した。


「今日の冒険でもよろしく頼むぞ」


「ああ、俺の方もだ――」


 コルヴォの言葉に、ナダは強く頷いた。

 それから急ぐように迷宮へと向かう。


 アーザ第一部隊はメンバーが増えたと言っても、大きくは変わらなかった。リーダーはナザレのままであり、一同はアスを先頭にして進む。

いつも感想やいいねなどありがとうございます!

そう言えばギフトですが、十年以上も連載してていて、二つほどまだ出ていないことに気づきました。最初期から設定だけはしているのですが、今のところ出番はありません。


また第二巻についての続報ですが、現在、ナダ、カノン、コルヴォ、クラリスのイラストがXにて公開されています。

その他の情報についても随時「@otogrostone」という私のXのアカウントで告知してますので、是非フォローお願いします!

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― 新着の感想 ―
もう10年も読み続けているのか… 無双、最強と言ったコンテンツに嫌気が指して来た時に自分で見つけた瞬間は感動しました。 これからもナダが英雄としてどの様に歩んでいくのか楽しみにしています。
メイン武器が使えない状態を脱しない事には完全攻略は難しそうな気はする。 ナダの本領は重い武器あってこそだろうし。 イリスの内面も少し分かってきたけど、実力を認めてるのか見くびってるのかコロコロ変わる発…
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