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完璧な悪女が、ひとりだけ騙せない  作者: 宵待 桜


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番外編 マリアへの話-テオ-


マリアは、俺の話をよく聞く


黙って、でも真剣に。


淡いピンクの髪が風に揺れていても灰緑の瞳はちゃんと俺を見ている。


昔からそうだった。


俺が何かをこぼすと、マリアはいつもちゃんと受け取ってくれた。


「それで」


マリアが言った。


「ルシアンがついに、言葉にしたのね」


「ああ。『傍にいたい』って言ったらしい」


「らしい、ってことは聞いてないの?」


「直接は聞いてない。でも顔を見ればわかる」


マリアは少し、笑った。


柔らかい笑顔だった。


おかしそうな、でも温かい。


「テオは、ルシアンのことになると顔が変わるわね」


「そうか」


「うん。弟を見てるみたいな顔になる」


「あいつの方が年上だ」


「関係ないでしょう」


俺は少し黙った。


そうかもしれない、と思った。



✦ ✦ ✦



マリアとは、子供の頃からの付き合いだ。


没落する前のマリアの家はそれなりの貴族だった。


でも没落してから、話が変わった。


周りは距離を置いた。


そういうものだ、貴族社会というのは。


でも俺は距離を置けなかった。


理由は、うまく言えない。


ただ、マリアがマリアだったからとしか言いようがない。


没落しても、マリアはマリアだった。


おっとりしていて、朗らかで、でもいざというときに全然動じない。


そういう人間だった。


「テオ」


マリアが言った。


「ルシアンのことが好きなのね」


「……好き、って言い方はどうかと思うが」


「大事なんでしょう」


「……まあ」


「素直じゃないわね」


「うるさい」


マリアはまた、笑った。



✦ ✦ ✦



「アリス嬢って、どんな人なの」


マリアが聞いた。


「深紅の髪の、綺麗な人だ。最初は近づきがたかった」


「最初は」


「今は違う。怖がりながら前を向く人だってわかった。ルシアンの隣で、少しずつ変わっていった」


「テオは、好き? アリス嬢のこと」


俺は少し、考えた。


「好きだ。妹みたいな感じで」


「まあ、テオらしいわね」


「何がだ」


「すぐそういうふうに思えるところが」


「悪いか」


「悪くないわよ」


マリアは少し、遠くを見た。


「……いいわね」


「何が」


「ルシアンに、そういう人ができて。ずっと一人で抱えてきた人なんでしょう」


「ああ」


「それがほぐれていくのを、傍で見てられるのが、いいなって思ったの」


俺はしばらく、マリアを見た。


こういうところだ、と思った。


マリアは人の話を、自分のことみたいに受け取る。


遠い話を、遠いまま聞かない。


「マリア」


「なあに」


「お前、そういうところ変わらないな」


「どういうところ」


「人の話を、ちゃんと聞くところ」


マリアは少し、首を傾けた。


「当たり前じゃない。テオが話してくれるんだもの」


当たり前、と言った。


でも当たり前じゃない、と俺は思っている。


ずっと、思っている。



✦ ✦ ✦



帰り際、マリアが言った。


「ルシアンに、よろしく言っておいて」


「面識ないだろう」


「そうだけど。よくお話を聞くから、なんとなく」


「……伝えておく」


「それと」


マリアが、少し、俺を見た。


灰緑の瞳が、真っ直ぐだった。


「テオも無理しないでね」


「俺は無理してない」


「してるわよ」


「……どこが」


「全部」


俺は少し、黙った。


マリアはもう笑っていなかった。


真剣な顔だった。


おっとりした顔の奥に、こういう目がある。


昔から、そうだった。


「……わかった」


「本当に?」


「本当だ」


マリアは少し、また笑った。


「じゃあ、また話を聞かせてね。ルシアンのことも、テオのことも」


「俺の話は大してないぞ」


「そんなことないと思うけれど」


それだけ言って、マリアは歩いていった。


淡いピンクの髪が、風に揺れた。


俺はしばらく、その背中を見ていた。


また話を聞かせてね、と言った。


当たり前みたいに。


当たり前じゃない、と俺は思っている。


でも、言えなかった。


まだ、言えなかった。


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