第二十八章 幼なじみへの告白
アダムに連絡を取ったのは夜のことだった。
王宮ではなく二人が子供の頃から使ってきた場所、王都の外れにある小さな離宮の庭。
人目がなく誰も聞いていない場所。
アダムは先に来ていて松明の光の中で金髪が揺れている。
いつもの華やかさが夜の中では少し落ち着いて見えた。
よく見ると後方に護衛がいるのがわかる。
「珍しいな。お前が呼び出すなんて」
アダムの声は軽い声だったが目は真剣だった。
「急ぎの用だ」
「見ればわかる。顔がいつもより険しい」
「いつも険しい」
「もっと険しい」
ルシアンはアダムを見た。
幼い頃から知っている顔だ。
笑いながら、でも何も見逃さない目。
この男は昔からそういう人間だった。
「……話がある。長くなる」
「座るか」
「立ったまま話す」
「お前らしい」
アダムは庭石に腰を下ろした。
ルシアンは立ったまま少し間を置いた。
どこから話すか。
「魔法の話だ」
魔法というか言葉にアダムの表情が変わった。
「……魔法史の話か」
「違う。実在する話だ」
静かな庭に松明の音だけが落ちた。
「この国に魔法を持って生まれる人間がいる。ごく稀に。禁忌とされているのは知っているな」
「……ああ」
「その力を持つ人間を、長年にわたって囲い込もうとしている組織がある。星詠みの会という」
「星詠みの会か。父上から聞いたことがある」
「その組織が今、王家に近い貴族を取り込んでいる。放置すれば王位にまで影響が及ぶ」
「……証拠は」
「ある。全部、持ってきた」
ルシアンは懐から書類を取り出した。
アダムが受け取って松明の光に近づけた。
しばらく、読んでいた。
「……本物か」
「本物だ」
「なぜ今まで黙っていた」
アダムが顔を上げた。
責める声ではなく、真剣に聞いていた。
「……使えば、別の人間が危険に晒されるからだ」
「別の人間」
「アリス・シャルム嬢だ」
アダムは少し、目を細めた。
「……シャルム家のアリス嬢か。あの悪女、と噂の」
「悪女ではない」
即答した。
それに驚いたのかアダムは瞬きを何度かした。
「……そうか」
それ以上は聞かなかった。
「彼女が、その力を持っているのか」
「ああ」
「お前が婚約を申し出たのは、そのためか」
「最初は、そうだ」
「最初は」
ルシアンは答えなかった。
アダムは少し笑った。
それは夜の中で静かな笑顔だった。
「……お前が『最初は』と言うのを、初めて聞いた」
「……」
「わかった。動く」
アダムが立ち上がった。
「彼女には手を出させない。俺にできることはそれだけだが」
「……十分だ」
アダムは書類を持って歩き出した。
少し歩いてから振り返った。
「ルシアン」
「何だ」
「早く終わらせろ。お前が先にどうにかなったら俺が困る」
テオと同じことを言うとルシアンは思った。
「……わかっている」
「わかってないから言ってる」
アダムは笑って、歩いていった。
松明の光の中、ルシアンは一人になった。
空を見上げて綺麗に広がる星を見た
もう少しだ、と思った。




