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完璧な悪女が、ひとりだけ騙せない  作者: 宵待 桜


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幕間② 夜の底


夢を、見た。


暗い場所だった。


どこかはわからない。


ただ暗くて、誰かがそこにいた。


髪の長い後ろ姿の人が、ただ立っていた。


ルシアンは、その人の傍に立っていて手に何かを持っていた。


重くて冷たい物




ああ、とルシアンは思った。


これは、そういう夢だ。


何度も見た夢だった。


最初に見たのは、いつだったか。


覚えていない。


気づけば、何度も見ていた。


いつもは、ためらわなかった


だけど夢の中で最近、ためらうようになっていた。


でも今夜は後ろ姿が、少し動いて振り返ろうとしていた。


だめだ、とルシアンは思った。


振り返るな。


頼む、振り返らないでくれ。


でも、遅かった。


夢の中で、ルシアンの手が動いた。


そして——



✦ ✦ ✦



目が、覚めた。


見慣れた天井が見えて自分の部屋だとわかる


息が乱れ、しばらく動けなかった。


声は出なかった。


ただ、手が固く握られていた。


何かを握っていた感触がまだ残っていた。


ゆっくりと開くと、何も、 なかった。


当然だった。


あれは夢の中の話なのだから。


でも手が、震えていた。


ルシアンは長い間、その手を見ていた。


何度も見た夢だった。


最初に見たとき、ためらわなかった。


それが正しいことだと、疑わなかった。


守れないなら、自分が手を下す。


その覚悟を持つことが守ることだと信じていた。


いつからだろう。


ためらうようになったのは。


夢の中で、手が重くなったのは。


最近、夢が変わってきていた。


以前は動けた。


でも最近は夢の中でさえ手が重くなっていた。


それでも今夜は動いてしまった。


そして、振り返った顔を見てしまった。


目を閉じると瞼の裏に、まだ残っていた。


消えなかった。


これが正しいことだと、信じていた。


今でも信じなければならないと思っている。


でも、手が震えていた。


震えが止まらないまま、ルシアンは思った。


私は何のために、覚悟を持ち続けているのか。


それは守るためだ。


では傷つける覚悟を持つことが、本当に守ることなのか。


その答えが出なかった。


今夜初めて、答えが出なかった。


ずっとわかっていたはずのことが今夜だけは、わからなかった。


窓の外が、少し明るかった。


夜明け前の、灰色の光だった。


起き上がれなかった。


しばらく、そのまま天井を見ていた。


手の震えが、なかなか止まらなかった。


止まったとしても今夜見た夢は、消えない。


それだけは、わかっていた。


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