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卒業試合 その4~今日はそういう日だから~

次回投稿予定

8月24日20時00頃

4回戦目も終盤に差し掛かった。朱雀高等学校の王の多彩な攻撃に何とか耐えていたアグレッス国立のドーナだったが、崩れてきた。





「そろそろ行くか」


「行くの?じゃあ、お守り」


「お守り?」





 胡春は、足元のバックから黒に近い灰色のブロックを取り出しラインに渡す。

 ルービックキューブの様なサイズで、地味に質量がある。それに材質が鉄や合金といった、冷たく硬い何かだ。





「これは?」


「一応は武器。試作品なんだけど、軽くしたり、色んなフォームに変化させたり、改良の余地はまだあるけど使い物にはなると思う。一応防御性能もあるわよ」


「ま、まぁある程度の硬さはありそうなので防御には使えそうですね……」


「でもそのキューブ状だと使いづらいから、手首とかに巻き付けておくのが良いわよ」


「手首?」





 そう言われ、ブロックの面を見てもベルトの様なものは無い。試しにブロックを右手首に押し付けてみると、形状が変化しブレスレットになり、手首に綺麗にハマる。





「え、すご……」


「そうでしょ。構成している物がねマイクロ単位のものでね。色んな形状に変化できるの」


「あ、ありがとうございます」





 倉敷姉に礼を言い、選手待機室へ向かう。





「ライン・ユベルです」





 選手待機室へ到着した頃、フィールドへ続く通路から担架で運ばれるドーナの姿があった。打撲による青あざ、切り傷による出血などの負傷が見られる。百龍やラークはほぼ一撃で仕留めるし、迅速な処置が必要なためその場で回復魔法による処置がされるが、体の至る所に傷があり、かつ緊急性もないと医療室へ運ばれてから処置がされる。





―余裕があれば、俺も一撃で仕留めるか―





「よし。進め」





 準備が整うと、運営より指示が出される。

 剣を右手に持ち、通路を歩く。フィールドに近づくにつれ、自身の心臓の音が聞こえる。

 興奮している。緊張している。恐怖している。よく分からないが、ありとあらゆる感情や思考がどこからか湧き上がってくる。





―……ここまで来たか。始めて卒業試合を見たあの日から、早いようで遅かったような。かなり変わっちまったな―





 フィールドに出ると、思った以上に歓声が上がっていた。前の8人が充分に場を盛り上げてくれたからだろう。

 目の前には対戦相手のキムラ……いや木村?和陽出身っぽい顔つきに見えるし、着ている服も和陽大陸で良く見る和服、と言ったか。心が着ているような服を着ているか木村とかそっちの方なのか。





「それでは第5回戦目。ユベル都心騎士団アカデミー、ライン・ユベルとヴィエル国立総合戦闘育成学校、木村きむら 陸人りくひととの試合を行う!!レディー……ファイト!!!」





 試合開始と共に木村が距離を詰める。100m、50m、10mと距離を詰める。





古山ふるやま流抜刀術…―





横通よこどおり





 木村は踏み込み、ラインの懐へ入り、そのスピードを維持したまま後ろへ移動する。





「……違う。防いだか」





 ラインの懐へ入る際、腰に差した刀を抜き、胴を真っ二つにするはずだった。

 けれども手に残っているこの感触は、硬い何かで防いだものだ。





「凄いな。かなり硬いんだな」





 ラインは、胡春から貰ったブレスレットを見てそう呟く。

 ブレスレットには微かな傷しかついておらず、しっかりと木村の攻撃を防いでくれた。





「あいつ……あのブレスレットで防いだのか?」


「あ、あぁ。私の目にもそう見えた」





 観客席から百龍、ホリー、エンシルが試合を見ている。観客達は右手に持っている鞘で防いでいると思っているが、3人には右手首に着けているブレスレットに剣を触れさせながら、片足を動かし、攻撃を受け流す光景を見ていた。





「う、上手いでござるな……」


「あぁ。最小限の動きで攻撃を流した。俺やカルイ、ラナにも真似できない芸当だ……」





―だけどいいのか。それはどちらかといえば格闘技。この世界で禁止されている体術だぞ―





「……何で防いだ?」


「もちろん鞘で」





 木村はラインの右半身を見るが、防げるようなものは右手に握っている剣の鞘だけだ。だが、感触を信じるなら鞘よりも右手首に付けているブレスレットだ。





―だが、そんな芸当できる訳がない。それにラインは七聖の中でも落ちこぼれと聞くからより可能性が低い。やはり気のせいか―





 木村は手に残る不思議な感触を忘れ、今度は刀を構える。





「……」





 ラインは剣の持ち手を掴み、鞘から剣を抜き構える。





「行くぞ七聖!!」





 木村は地面を強く蹴り、ラインに向かって飛び込み刀を振り下ろす。ガキンッ!!という音とともにラインは受け止める。

 木村は必死に押し倒そうと刀に力を込めるもラインはビクともしない。





「ん?」





 突如、お互いの剣の接触面から放電する。

 木村は自身の剣を通してラインの方へ電流を流そうとしたが、雷属性の粒子が体内に侵入してきたことに気づき、逆向きに電流を流し打ち消した。





「ち、まさか気づくとは」





 木村はラインと距離を取り、次の手順を考える。

 防がれることも想定はしていたが、少しは攻撃を受けてから打ち消すために魔法を展開するだろうという想定だった。





―だが、こいつは展開中に気づき、それも接触面というお互いにダメージのない場所で打ち消した。クソ。先生の言うことも信用ならねえな。何がこれなら少しでもダメージを与えれるだよ。これじゃ、他の技も通用しねえだろ、どうする…一体どうすればこの化け物に攻撃が通るんだ―





「……うだうだ考えたって答えなんて出ないだろ」


「え?」


「だったら何も考えるな。俺以外の奴だったら隙を突かれてやられてるぞ」


「な、お、お前……敵にアドバイスを送るつもりか!!」





 木村は先程とは打って変わり荒々しい攻撃を放つが、どれもラインに軽く弾かれてしまう。





「何も考えるなだと!!それが出来るのはお前らが天才だからだろ!!七聖の血を継いでいるからだ!!俺ら凡人にはな、そんなの生涯かけても出来ねんだよ!!!」





 木村はラインへ攻撃を続ける。袈裟斬りや一文字斬りなど、刀術の基本的な技から魔法も併用した応用まで多様な技を放ち続けるが、ラインは無慈悲にも全て防ぐ。





「俺らが努力して、死に物狂いで身につけたものを容易く習得する。そんな奴から貰うアドバイスなんて、役立つ訳ねんだよ!!!」





―何も通じない。あいつ…武蔵もそうだった。たった数回俺が攻撃しただけで俺の技を見切った。俺が10数年かけて、昼夜問わずに鍛錬に励み身につけた技を躱すだけではなく、それ以上の技を俺に見せてきやがった―





「お前の18年間はたったそれだけか」





 ラインは木村の攻撃を受け止めながら木村へそう言い放つ。





「何だと?」


「なぜ刀を使う?刀を使うならば、なぜ和陽ではなく総合戦闘育成学校を選んだ」


「なぜ……」





―父親が刀を振るい、町の平和を守っている姿がかっこよかったから、刀術以外の戦闘スキルを学び、それを応用させることが出来れば父親みたいに強く……あ―





「なぜお前はこの卒業試合に出場したのか」





「なぜ……」





 それは武士の死合にとって決して行ってはいけない行為だった。眼前の敵を無視して、後ろを振り向き、観客席にいる自身の両親を見ることなど。けれど、ラインはその隙を突いて攻撃をすることはなかった。





「……もういいだろう」





 ラインは木村と距離を取り、魔力を剣に集中させる。周囲の水や風といった魔法粒子がラインの体内へ吸収される。





「……そうだな」





 対して木村は剣を再び腰に差し、大きく姿勢を下げる。まるで陸上のクラウチングスタートのように。





木村義春きむらよしはる流刀術――」


「混合魔法剣――」





 木村が動き出す。最初の攻撃と同じようにラインの懐へ入り、腰に差した刀を抜き、胴を真っ二つにする。ラインは剣に魔法を纏わせ、向かってくる木村に向かって横向きに剣を振るう。





「抜刀一文字」


「レインボーロード」





 互いにすれ違う。木村は人生で一番の重く、速い一太刀をラインへ放った。ラインの攻撃は様々な魔法粒子が混ざっているため、まるで虹のような軌道が残っている。





「ぐっ、うっ、はは……」





―初めてだ。負けたのに、こんなにも晴れやかな気分は―





 木村は膝から崩れ落ちる。出血は大したことはないが、切り口から木村の体内に侵入した魔法粒子が、木村の体内にある魔法粒子とぶつかり静かに消滅したのだ。つまり、現在の木村は魔力切れと疲労により体が動かない状態なのだ。





―そうだよな。勝ち負けも大切だが、今日はそういう日じゃね―





 木村は静かに目を閉じ、魔力切れと疲労からくる睡魔に体を預ける。





「今日は自身が身に付けた技を見せる。そういう日だから」


「勝負あり!勝者、ユベル都心騎士団アカデミー、ライン・ユベル」

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