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第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.76
「えええー、ホントに帰っちゃうの? 明日には戻ってくるんでしょ? ね?」
香が驚きと悲しみの表情で悠人に訴えるも、
「本当にお世話になりました。落ち着いたら一回挨拶に来ますので」
悠人は就活風に脇を締め両手先をピンと伸ばし、四十五度の角度で頭を下げる。
就活スーツはクシャクシャながらも乾いており、就活靴も問題なく履けて歩けそうだ。
心残りは磯に沈んでしまった中古のスマホ。そして……
「京ちゃん。本当にお世話になった。君が来てくれなかったら俺は死んでいただろう。君は命の恩人だよ。一生忘れないから。ありがとう」
まるで別れる恋人への言葉のような挨拶に、京は何も返事をせず悠人の顔も見ず。
二人の後ろで様子を伺っている集落の人々に悠人は頭を下げ、最後に二人に
「じゃ、また」
と言い、砂利道を県道に向けて歩き出した。




