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磯に香る君のそばに海神  作者: 悠鬼由宇
第1章
76/434

第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.76


「えええー、ホントに帰っちゃうの? 明日には戻ってくるんでしょ? ね?」


 香が驚きと悲しみの表情で悠人に訴えるも、


「本当にお世話になりました。落ち着いたら一回挨拶に来ますので」



 悠人は就活風に脇を締め両手先をピンと伸ばし、四十五度の角度で頭を下げる。



 就活スーツはクシャクシャながらも乾いており、就活靴も問題なく履けて歩けそうだ。


 心残りは磯に沈んでしまった中古のスマホ。そして……



「京ちゃん。本当にお世話になった。君が来てくれなかったら俺は死んでいただろう。君は命の恩人だよ。一生忘れないから。ありがとう」


 まるで別れる恋人への言葉のような挨拶に、京は何も返事をせず悠人の顔も見ず。


 二人の後ろで様子を伺っている集落の人々に悠人は頭を下げ、最後に二人に


「じゃ、また」


 と言い、砂利道を県道に向けて歩き出した。



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