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第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.75
「でも。俺、そろそろ帰らなきゃ」
バイトもある。大学の授業もある。親に連絡を入れ、地元の就職先の相談にも乗って貰わねばならない。
京はその言葉に眉を顰め、
「え? 帰るって、どこに?」
「東京に。住んでいる県人会の寮に」
慌てた素振りで京は、
「え、でも婆ちゃんはケガ治るまでずっとここにいるって?」
「それは、美妙さんのお告げではそうだけど。現実的にはもう帰らないと…」
「でも、ケガ治って、ないんでしょ?」
「それは… そうだけど…」
「嫌だよ」
小さくうめく様な声を絞らせて、
「ダメだよお、ここにいなくちゃ、恵比須にいなくちゃあ!」
悠人の生真面目さが京の想いを断つ。
「それは出来ない。夕方にはここを出て、コインロッカーの鞄を拾って東京に帰らないと」
毅然とした悠人の物言いに、京はそれ以上言葉をつげなくなってしまう。
山頂の無言の二人に海から駆け上がってきた冷たい風が切なく吹き巻いている。




